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教室に入ると、俺の髪の色を見るなり部屋の中がざわついた。
こないだは、授業も受けずに屋上へ行って寝ていたのでこの教室にこの髪色で入るのは初めてだった。
たかが髪の色だろ。
俺は気にせずに自分の席に腰を下ろして、窓の外を見やる。
西覇は、この寒いのに校門で検査を続けている。
風紀の仕事だが、俺がこんな格好をする前にはなかった日課である。
西覇の仕事がなくなればいいとおもう。
一緒に通学だってしてみたいと思うし、それには俺が変わって、もっと一緒にいられる時間をつくらなきゃならねえ。
そのためなら、髪の色なんて簡単に変えられる。
「……瀬嵐君、あの………その………今日の宿題の提出なんだけど」
気弱そうなひょろっとした男が手にいっぱいノートを抱えて俺の席の前に立っている。
数学の宿題のノート提出が今日だった。
もちろんやってあるが、なんでこいつブルブル震えてんの?
今まで宿題のノートとか誰もとりにきたことはなかったし、俺も提出しなかった。
髪の色を変えたからちっとは声かける気になったのかもしれない。
「あ”?……数学のか。ちっと待ってろ」
ぺたんこのカバンからノートを取り出すと、そいつの持ってるノートの上におこうと腕をあげた。
「ひっ!!」
殴られると勝手に思ったのか、男はしりもちをついて倒れて、ばさばさとノートが散乱した。
……ンなに、怖がられてもなあ。
俺、そんなに強くもねえしな。
俺はふっとため息を漏らして、散乱したノートを拾ってもう片方の手をしりもちをついた男に差し出す。
「立てっか?」
震える手で手を掴まれたので、ぐっと引っ張って起こしてやり、
「ほらよ、もう落とすなよ」
拾ったノートをそいつに手渡して、俺は椅子に腰を下ろす。
「あ…ごめんなさい、ごめんなさい…ありがとう。」
慌てたように立ち去る背中を見送り、俺は机から教科書を取り出す。
ちょっと前まではナニが書いてあるかまったく理解できなかった異端の書だったそいつは、今じゃ全部理解できる。
それもこれも、西覇のお陰だ。
少しものが分かっただけで、何もかもが違って見えるなんて思わなかった。
何もかも、いい方向に進んでいるように思えた。
これまでなら、しっかり寝ていた授業も、ノートをきちんととって、あまつさえ反復作業などしている姿は、以前の俺を知るやつらからすればまったく思い浮かばないだろう。
周りの目など、これまではまったくもって気にしなかったが、声をかけるやつも多くなってはきている。入学当初もそれくらいはいたので、多分戻った感じなのかもしれない。
微分積分のグラフに取り組みながら、休憩時間の今は数学の予習などに励んでいたりする。
首席をとったら…………なんて約束は交わしてないけれど、それでも西覇とは、肩は並べたいなと思っている。
とりあえず並べてから、自分の欲望についてはちゃんと筋を通して話さないとなとか考えてる。
確かに、西覇と繋がることができるのなら、どちらでも構わないし気持ち悦いし、とは思っているんだけど、それでも、やはり男だし欲は欲として存在している。
男なら、そうだろう?
だから、とりあえずはそのために認めて欲しいキモチでいっぱいだ。
喧嘩の技術については、どうやら超えられない壁がありそうではあるが。
とりあえず、ここの首席を取るのも非常に大きな壁だし、そう簡単にとれるとは思ってない。
だいたい、俺には一年のブランクもある。
「……瀬嵐君、ちょっと話があるんだけど」
肩に手をかけられ、俺はグラフをにらんでいた目でそのまま上からかかった声の主をにらみ上げる。
「あ"ァ?……ナニ?」
不機嫌な調子で返すと、席のそばに立っている男は一瞬怯む。
女子がいればきゃあきゃあと騒ぎそうな、なんとかJrっぽいような綺麗な派手な顔立ちの男である。残念ながらうちは男子高だけど。
この間あった、西覇のアニキの彼氏には劣るが、十分王子様といっていいほどの男である。
少し長いまつげに、整った唇。男にしてはなんだか色気みたいなオーラがある。
「ちょっと、ベランダでいいかな」
冬の寒い時期にベランダに誘うとは、本当に少し変わったやつかもしれないが、喧嘩の誘いではないようだ。
「……さみいから、早くすませろよ……」
ぱたんと数学のノートを閉じると、軽くうなずいて腰をあげる。
見てくれも優等生っぽいし、喧嘩に強いようなオーラはない。
まあ、西覇もそんなオーラはないので、そこだけでは判断できないけれど。
立ち上がって、頭ひとつ違う相手のつむじをみながら、ベランダへと向かう。
つむじの巻き方は、やっぱり西覇のつむじのほうが綺麗だ。
あー、早く西覇にあいてえなー。
こないだは、授業も受けずに屋上へ行って寝ていたのでこの教室にこの髪色で入るのは初めてだった。
たかが髪の色だろ。
俺は気にせずに自分の席に腰を下ろして、窓の外を見やる。
西覇は、この寒いのに校門で検査を続けている。
風紀の仕事だが、俺がこんな格好をする前にはなかった日課である。
西覇の仕事がなくなればいいとおもう。
一緒に通学だってしてみたいと思うし、それには俺が変わって、もっと一緒にいられる時間をつくらなきゃならねえ。
そのためなら、髪の色なんて簡単に変えられる。
「……瀬嵐君、あの………その………今日の宿題の提出なんだけど」
気弱そうなひょろっとした男が手にいっぱいノートを抱えて俺の席の前に立っている。
数学の宿題のノート提出が今日だった。
もちろんやってあるが、なんでこいつブルブル震えてんの?
今まで宿題のノートとか誰もとりにきたことはなかったし、俺も提出しなかった。
髪の色を変えたからちっとは声かける気になったのかもしれない。
「あ”?……数学のか。ちっと待ってろ」
ぺたんこのカバンからノートを取り出すと、そいつの持ってるノートの上におこうと腕をあげた。
「ひっ!!」
殴られると勝手に思ったのか、男はしりもちをついて倒れて、ばさばさとノートが散乱した。
……ンなに、怖がられてもなあ。
俺、そんなに強くもねえしな。
俺はふっとため息を漏らして、散乱したノートを拾ってもう片方の手をしりもちをついた男に差し出す。
「立てっか?」
震える手で手を掴まれたので、ぐっと引っ張って起こしてやり、
「ほらよ、もう落とすなよ」
拾ったノートをそいつに手渡して、俺は椅子に腰を下ろす。
「あ…ごめんなさい、ごめんなさい…ありがとう。」
慌てたように立ち去る背中を見送り、俺は机から教科書を取り出す。
ちょっと前まではナニが書いてあるかまったく理解できなかった異端の書だったそいつは、今じゃ全部理解できる。
それもこれも、西覇のお陰だ。
少しものが分かっただけで、何もかもが違って見えるなんて思わなかった。
何もかも、いい方向に進んでいるように思えた。
これまでなら、しっかり寝ていた授業も、ノートをきちんととって、あまつさえ反復作業などしている姿は、以前の俺を知るやつらからすればまったく思い浮かばないだろう。
周りの目など、これまではまったくもって気にしなかったが、声をかけるやつも多くなってはきている。入学当初もそれくらいはいたので、多分戻った感じなのかもしれない。
微分積分のグラフに取り組みながら、休憩時間の今は数学の予習などに励んでいたりする。
首席をとったら…………なんて約束は交わしてないけれど、それでも西覇とは、肩は並べたいなと思っている。
とりあえず並べてから、自分の欲望についてはちゃんと筋を通して話さないとなとか考えてる。
確かに、西覇と繋がることができるのなら、どちらでも構わないし気持ち悦いし、とは思っているんだけど、それでも、やはり男だし欲は欲として存在している。
男なら、そうだろう?
だから、とりあえずはそのために認めて欲しいキモチでいっぱいだ。
喧嘩の技術については、どうやら超えられない壁がありそうではあるが。
とりあえず、ここの首席を取るのも非常に大きな壁だし、そう簡単にとれるとは思ってない。
だいたい、俺には一年のブランクもある。
「……瀬嵐君、ちょっと話があるんだけど」
肩に手をかけられ、俺はグラフをにらんでいた目でそのまま上からかかった声の主をにらみ上げる。
「あ"ァ?……ナニ?」
不機嫌な調子で返すと、席のそばに立っている男は一瞬怯む。
女子がいればきゃあきゃあと騒ぎそうな、なんとかJrっぽいような綺麗な派手な顔立ちの男である。残念ながらうちは男子高だけど。
この間あった、西覇のアニキの彼氏には劣るが、十分王子様といっていいほどの男である。
少し長いまつげに、整った唇。男にしてはなんだか色気みたいなオーラがある。
「ちょっと、ベランダでいいかな」
冬の寒い時期にベランダに誘うとは、本当に少し変わったやつかもしれないが、喧嘩の誘いではないようだ。
「……さみいから、早くすませろよ……」
ぱたんと数学のノートを閉じると、軽くうなずいて腰をあげる。
見てくれも優等生っぽいし、喧嘩に強いようなオーラはない。
まあ、西覇もそんなオーラはないので、そこだけでは判断できないけれど。
立ち上がって、頭ひとつ違う相手のつむじをみながら、ベランダへと向かう。
つむじの巻き方は、やっぱり西覇のつむじのほうが綺麗だ。
あー、早く西覇にあいてえなー。
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