花に嵐

怜悧(サトシ)

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そりゃそうだ。
いきなり好きだと言ったとしても、長谷川に好きになって貰える要素など俺には皆無だ。
男であることもだが、人に勉強を教わる身で、順位があがったらだなんて甘い考えすぎる。
自分の手で、自分を変えて好きになってもらわないと意味がない。
「そうか……じゃあもういいや。…………勉強教えなくていい」

好きだと告げた覚悟を自分の手で見せないと、意味がない。
だから、これ以上彼から教えてもらうことはしちゃダメだ。
そう話すと、長谷川は目を驚いたように見開いて俺を怒りに満ちた表情で見返した。

「まったく。何を言ってるんですか。もう少し頑張れば、最初に約束したように、TOP10も狙えるんですよ。ここで諦めるんですか」
訳が分からないといった表情に、俺は逆に眉を寄せた。
諦めるつもりはないが、振られた相手に、勉強を教えてもらうなんて面の厚いことはできない。
それに、二人きりで一緒にいたら、俺だって男である。手を出さないなんて保証はできない。
「…………今、俺、オマエに告白して振られたんだぞ。逆に何でそんな平然としてるんだよ……」
怒りを露わにしている長谷川には、俺の感情的な話はきっとわからないだろう。
「そんな冗談みたいなこと、…………僕は気にしませんよ」
吐き捨てるように告げた長谷川の言葉に、俺は頭の中の線が一本ブチ切れたような気がする。
確かに男同士なんて、ありえないかもしれない。
いや、ありえないことだ。
だけど、冗談になんかさせたくなかった。
冗談でそんなことを言っているわけじゃない。
「……冗談じゃねえ……冗談じゃねえよ。俺はオマエが好きだ。…………簡単に、冗談とか言うな」
ぐっと握り締めたこぶしがわなわなと震えてしまう。
俺の様子に、ハッとしたような表情を浮かべて長谷川は、必死な表情で俺を諭すように肩を掴んだ。
「先輩。冷静になってください…………気の迷いですよ。僕は男で、先輩も男です。生物学上何も生み出せません。寂しい気持ちが勘違いを起こしてるだけです。きっと、綺麗な彼女みつかりますよ」
生物学上、そりゃ、間違えている。
何も生み出さないことなんて分かっている。だけど、そんなんじゃない。
他人の感情まで、理屈化して語られるのは、本当に腹がたつ。
そして、もっと腹がたつのは、何ももっていない癖に、自分を好きになって欲しいと願う自分自身だ。

「もういい………帰れ」

搾り出すような声で告げると、長谷川の掌が宥めるように俺の頭に置かれようとした。

思わずガンと大きな音をたてて、机の上に拳を振り下ろした。

「触るな……勘違いするだろ………優しくすんなよ、ははっ」
じんとする拳をぎゅっともう片方の掌でつつみこんで首を振って見返すと、長谷川はショックを受けた表情をして俺を見返した。

「わかりました。今日は帰ります。」
告げられた言葉を聞いて、俺はその背中を見送った。
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