27 / 36
27
しおりを挟む
「これは遺品だ」
本部長が手渡してきた見覚えのあるリングを受け取り、シェンは呆然として理解できないと首を横に振る。
歯茎に忍ばせたGPSからは生体反応は消えてはいないので、本部長は嘘をついているのは明らかだ。
「意味が、わからない!!ハイルに何が!?」
「彼は企みが露見してすぐに、舌を噛んで自死したのさ」
「な、な、約束と違う!!」
怒号をあげてシェンが本部長に掴みかかると、黒服のSPがそれを止めて引きはがす。
「まさか、我々も彼が死を選ぶとは思わなかったのでね。君はベータだし、所詮オメガの手網など握れまいよ」
宥めるようにシェンの肩をたたいて、首を左右に振る。
「ハイルを、ハイルを返せよ!!人殺し!!ふざけるな」
我ながら熱血だなと思いながら拳を固めてSPを殴り、シェンは演技をしながら指輪を自分の指に嵌めてメモリを読み込む。
「うるさい、口を塞げ」
「この、嘘つき!!非人道!!返せよ!ハイルを、返せ」
さっさと助け出しに行かないとな。
猶予があるかと思っていたが、死んだことにするくらい話は山場に来ている。
この指輪の中には証拠品が入っているはずだ。
「死者をこの世に呼び戻す芸当は、私にはないよ」
辛辣な言葉を告げて、暴れるシェンをSPに任せると本部長は席を立つ。
「ああ、そうだイライズ君。君は退職を希望していたね。退職金も振り込んでおいたから、荷物をまとめて出ていっていいよ」
SPにつまみ出すように、指先を払う動作をして本部長は部屋を出ていき、SPはズルズルとシェンを引きずるようにして出口に向かう。
なるほど、汚いやり口だな。
シェンはSPにビルの外に放り出されると、カチリと指輪のデータを再生する。
「なるほど、ね。だから、オレはお偉いさんが嫌いなのよね」
状況は切羽詰まっている。
ある程度の準備はしたが、それが有効かどうかも賭けである。
すでに中隊長の人格が壊されてる可能性もある、な。
シェンは手に入れたデータを安全なところへ転送すると、自分の指に嵌めてあるもう一つの指輪を軽くさする。
「さて、行きますか」
シェンは宙港へと向かうバスにそのまま乗り込むと、さっきまでいたビルを睨みあげた。
「全部潰してやるからな」
宇宙空港までバスで向かうと、シェンは途中の繁華街で降りて、尾行を撒くように路地裏に入り込み、あらかじめ借りていた部屋の中に入る。
寮の荷物は全て既に廃棄していたので、この部屋に置いておいた戦闘用の制服と、武器を身につける。
メモリに入っていた会話を聞いたところ、この地域の警備隊のトップが黒幕だ。
自分に疑いが向いていないことを考えると、統久は全ての計画を報告していないか、自分の潜入を内密で行っていたかどちらかだ。
多分後者だな。
何考えてるのか分からないが、多分問題が起きた時に責任を負わないようにだろう。
功を独り占めにするような性格じゃないしな。
シェンは腕に仕込んだ端末を起動して、指輪にメモリされていた指示先に連絡をとる。
利用できるものは、利用するという算段かね。
「あと、15分でそこに行きます」
部屋を出ると、備えていたエアバイクに跨り宇宙空港とは逆方面へと向けて走り出す。
ヒヤヒヤしっぱなしで、割に合わないな。
報酬は弾んでもらわないとな。
「ここらへんか」
周りを見回すと豪華なプライベートポートのようで、最新の設備が搭載されている。
「待っていたよ。時間ピッタリだね」
入口までSPを伴って出てきたのは一度だけ顔を合わせた遠野である。
「多忙なところ、空けてもらってすみません」
「前々から彼からの支払いは済んでいる件だから問題ないよ。データも預かっておくし。私にも大切な人なのでね、しっかり取り戻してもらわないと」
ポートに入り用意されていた戦闘機は最新鋭で、かなりの値がはるしろものである。
金はあるところにはあるんだな。
感心して遠野を見返すと、表情は心配で仕方がないようにそわそわしている。
本人にもその感情を出してやれば、うまくいきそうなものなのだが、多分この男はかなりプライドが高く統久相手にそんな素振りはできないのだろう。
「まあ、戦闘機扱いと潜入捜査は慣れてるんで。なんとかしますよ」
報酬が欲しいのは、こちらも一緒である。
渡されたキーコードを端末に読み込ませると、戦闘機の搭乗口から乗り込む。
グイッと操縦桿を握ると、生体反応が見られたコロニーに向けて発射した。
本部長が手渡してきた見覚えのあるリングを受け取り、シェンは呆然として理解できないと首を横に振る。
歯茎に忍ばせたGPSからは生体反応は消えてはいないので、本部長は嘘をついているのは明らかだ。
「意味が、わからない!!ハイルに何が!?」
「彼は企みが露見してすぐに、舌を噛んで自死したのさ」
「な、な、約束と違う!!」
怒号をあげてシェンが本部長に掴みかかると、黒服のSPがそれを止めて引きはがす。
「まさか、我々も彼が死を選ぶとは思わなかったのでね。君はベータだし、所詮オメガの手網など握れまいよ」
宥めるようにシェンの肩をたたいて、首を左右に振る。
「ハイルを、ハイルを返せよ!!人殺し!!ふざけるな」
我ながら熱血だなと思いながら拳を固めてSPを殴り、シェンは演技をしながら指輪を自分の指に嵌めてメモリを読み込む。
「うるさい、口を塞げ」
「この、嘘つき!!非人道!!返せよ!ハイルを、返せ」
さっさと助け出しに行かないとな。
猶予があるかと思っていたが、死んだことにするくらい話は山場に来ている。
この指輪の中には証拠品が入っているはずだ。
「死者をこの世に呼び戻す芸当は、私にはないよ」
辛辣な言葉を告げて、暴れるシェンをSPに任せると本部長は席を立つ。
「ああ、そうだイライズ君。君は退職を希望していたね。退職金も振り込んでおいたから、荷物をまとめて出ていっていいよ」
SPにつまみ出すように、指先を払う動作をして本部長は部屋を出ていき、SPはズルズルとシェンを引きずるようにして出口に向かう。
なるほど、汚いやり口だな。
シェンはSPにビルの外に放り出されると、カチリと指輪のデータを再生する。
「なるほど、ね。だから、オレはお偉いさんが嫌いなのよね」
状況は切羽詰まっている。
ある程度の準備はしたが、それが有効かどうかも賭けである。
すでに中隊長の人格が壊されてる可能性もある、な。
シェンは手に入れたデータを安全なところへ転送すると、自分の指に嵌めてあるもう一つの指輪を軽くさする。
「さて、行きますか」
シェンは宙港へと向かうバスにそのまま乗り込むと、さっきまでいたビルを睨みあげた。
「全部潰してやるからな」
宇宙空港までバスで向かうと、シェンは途中の繁華街で降りて、尾行を撒くように路地裏に入り込み、あらかじめ借りていた部屋の中に入る。
寮の荷物は全て既に廃棄していたので、この部屋に置いておいた戦闘用の制服と、武器を身につける。
メモリに入っていた会話を聞いたところ、この地域の警備隊のトップが黒幕だ。
自分に疑いが向いていないことを考えると、統久は全ての計画を報告していないか、自分の潜入を内密で行っていたかどちらかだ。
多分後者だな。
何考えてるのか分からないが、多分問題が起きた時に責任を負わないようにだろう。
功を独り占めにするような性格じゃないしな。
シェンは腕に仕込んだ端末を起動して、指輪にメモリされていた指示先に連絡をとる。
利用できるものは、利用するという算段かね。
「あと、15分でそこに行きます」
部屋を出ると、備えていたエアバイクに跨り宇宙空港とは逆方面へと向けて走り出す。
ヒヤヒヤしっぱなしで、割に合わないな。
報酬は弾んでもらわないとな。
「ここらへんか」
周りを見回すと豪華なプライベートポートのようで、最新の設備が搭載されている。
「待っていたよ。時間ピッタリだね」
入口までSPを伴って出てきたのは一度だけ顔を合わせた遠野である。
「多忙なところ、空けてもらってすみません」
「前々から彼からの支払いは済んでいる件だから問題ないよ。データも預かっておくし。私にも大切な人なのでね、しっかり取り戻してもらわないと」
ポートに入り用意されていた戦闘機は最新鋭で、かなりの値がはるしろものである。
金はあるところにはあるんだな。
感心して遠野を見返すと、表情は心配で仕方がないようにそわそわしている。
本人にもその感情を出してやれば、うまくいきそうなものなのだが、多分この男はかなりプライドが高く統久相手にそんな素振りはできないのだろう。
「まあ、戦闘機扱いと潜入捜査は慣れてるんで。なんとかしますよ」
報酬が欲しいのは、こちらも一緒である。
渡されたキーコードを端末に読み込ませると、戦闘機の搭乗口から乗り込む。
グイッと操縦桿を握ると、生体反応が見られたコロニーに向けて発射した。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

風紀委員長は××が苦手
乙藤 詩
BL
全寮制の男子高校で嫌々風紀委員長になった姫川歩が嫌々ながら責任感を持って風紀の仕事をする話。
一度、王道学園での非王道のお話を書いてみたかったので書いてみました。
男前受けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる