炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

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仕事熱心にしてもやり過ぎだよな。
人格崩壊とかになったら元も子もねえだろ。
輸送機を操縦しながら、シェンは軽くため息をつく。
あんな風に頼まれてしまえば聞かない訳にはいかないが、かなりの危険さにそれでいいのか迷う。
こちらの身が危ないと思った時には撤退をすぐに出したのに、危険が自らに及ぶものだけだと思った途端に手のひらを返した。
「普通は逆でしょうが」
仕事をしなくても金はあると言っていたし、特権階級の御曹司だというのだから、普通のオメガのように生きた方が楽な筈だ。
以前、遠野が彼を可哀想だと言っていたことを思い出す。
なまじ何でも出来てしまうが故、そして見てきた不正を許すことができないが故の顛末。
取引のある星の宇宙港へと着陸の準備をとりつつ、シェンはどうやって彼を説得できるかばかりを考えていた。

取引のある倉庫に入ると、すでに何らかの戦闘が行われたあとのような血の匂いとうっすらと火薬の香りがする。
実弾使い?
様子を見ながらシェンは中に入ると、親玉のような屈強な壮年の男をぶら下げて立つ、見慣れた戦闘服の男を見つける。
「待ってたよ」
ニコリと笑って男を引きずりながら近づく彼にシェンは肩を落とす。
「先に壊滅させるなら、連絡くださいよ」
全部ひとりでやったことなのだろうか。
見回しても他に味方の影はない。
「傍受されてる危険があったからね。あの輸送機には通信傍受の機能があった」
「へえ」
「とりあえず、兵器はこっちで回収する」
男の腕を掴んだまま、スティックをシェンの首筋へと押し当てて、ポケットにしまうとシェンの端末を奪い男の指先を押し当てて受け取りサインをさせる。
「こいつを生かして捕らえるのは骨がいったよ」
「他は皆殺しですか」
倒れている男達は一様に電磁捕縛ロープがかかっている。
「いや、生きてるんじゃないか。お前が無事にかえりつくまでは、殲滅情報を流さないようにするから、さっさと帰れ」
気を失っている男の体に電磁捕縛ロープをかけて、何のことがないような様子の統久にシェンは目を見開いたまま問いかける。
「1人で殲滅、ですか」
問いかけると、統久はうーんと唸ってから頷く。
「まあ、やったのはシェン·リァウォーカーだけどね」
「勝手にまたオレの名前を使わないでください」

「とにかく、帰れ。俺様は忙しい。あとの処理が沢山だからな」
勝手な言い分に思わずぐいと胸ぐらを引き寄せる。
「オレは、反対ですよ。アンタが潜入する必要はない」
強く言い切ると、統久は首を横に振り願うような口調で告げた。

「シェン。上司は俺だ。逆らうな…...頼む」


5年かかったと言っていた。

情報を得るのに、金も身体も使ったのだろう。
仕事にそこまでして何の得になるのか。昇進すらどうでもいいと考えている人間に、何があるのか。
訳がわからかないという表情を浮かべてシェンは統久から手を離して、肩を落とす。

「報酬払ってくださいよ。金ではない方の」
そう言っておけば、少しは無茶をしなくはなるかもしれないという賭け。
統久はシェンの意図に気づいたのか否か、奇妙に顔を歪めると、軽く手のひらで目を覆った。

「.....やらしいヤツ」

「昔シンジケートを取り逃した後、施設で知り合った友達を拉致された。ちゃんと保護したと安心してたのに.....。油断してた、もう生きてはいないか、何も分からなくなって売り飛ばされたかしたかもしれない」
だけどと続けた統久の拳が小さく小刻みに震えているのがわかる。
「だけど.....俺は諦めらんねえんだ」
シェンはごくりと息を飲んで彼の様子を眺める。
ただ功をたてたいだけではない、その意思がそこからきている。
同情とか正義感とかそんなのではない。
だからと言って、危ない橋を渡らせるにもなと、シェンは眉をキュッと寄せた。
「.....片棒は担いでやる。報酬は忘れんなよ」
生きて戻れと言う意味をこめ、再度同じことを告げて、シェンは統久の肩を叩いて倉庫の入口へと向かって駆け出した。

殲滅を伝えるまで、3、4時間は欲しいがそこまでもつだろうか。

体内から兵器を取り出しただけだが何故か身体がすごく軽く思える。
ったく、お坊ちゃんは手がかかるってやつだ。
あっちも作戦は考えているだろうが、きっと甘いだろうな。

戻るまでに奪回するためのプランも練っておかないとな。

同時にシンジケート2つぶっ潰すプランだ、容易じゃないのは確かなんだけど。
どっちもやらなきゃ、明日はない。だな。
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