炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

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「.....こんなやり方聞いてねえ、ですよ」
首筋を押さえてシェンは目の前の男を睨みつけた。
ヤバいな。
どんな仕組みで受け取り先でしか回収できないのかわからないが、カプセルとは違うから時間で中身が漏れ出すのではないだろう。
いつでも好きな時に発動できるというわけだ。
「逃げられたくなかったのでね。イライズ君、君の恋人だが、警官なんだよ」
シェンは驚きで目を見開く。これは演技ではない。
そこまで突き止められていたのか。
「ハメられたんだよ、君は。可哀想にね」
心底哀れまれるように言われて、シェンは自分のことが疑われていないことを知る。
「そんなこと、ないですよ。聞いたことないです、オメガの警官だなんて.....ハイルはたしかにオメガなんです」
必死に純情の猫をかぶって声をあげると、本部長は空間スクリーンに見慣れた制服を着た統久の画像を映した。
「.....ハイル.....」
そこまで掴まれているってのか。
確かに潮時だ。
しかし、体内に入れられたものをどうにかしなくてはならない。
「その名前も偽名だよ。彼は、警視総監鹿狩久樂くだらの息子で鹿狩統久、オメガであってもコネと有能さで警官になっている。特権階級の生まれの男だ。君が身請けなどして救うに及ばない」
初めて聞く統久の出自に驚きを隠せず、シェンは目を見開く。
アルファの特権階級の男達は、オメガと番うことが多く、オメガの半数はその御曹司であるという。
残りの半数はベータとオメガの子や、アルファにやり捨てされたオメガの子供で比較的貧しい。
自分でお坊ちゃん育ちと言ってたか。
別に隠されていたわけではないが、なんとなく悔しい気持ちでグッと拳を握る。
それを憎しみととったのか、本部長はにやりとほくそ笑んでシェンに耳打ちをする。
「君の気持ちを利用するような、ビッチな警官だ。そんなに心を痛めることはない。君も復讐したいだろ?」
「.....復讐?」
「私たちの取引している組織に、オメガの人身売買をしているところがあってね」
ひそりと声を殺してつげる瞳に、イヤな光をみつけてシェンは眉を寄せる。
「彼は.....オレのものです、だ、だれにも渡さない」
「わかってないな。全てを矯正して、奴隷として一生君のモノになるように、手配してあげるというんだよ。だから、今回の仕事を完遂してくれ」
本部長の言葉に、躊躇うシェンの耳に彼の声が響いた。


『作戦変更するよ。シェン、今回は兵器の受け渡しの任務を遂行してくれ。その後は、俺はヤツらの策にハマってやろう』


作戦変更といわれてもな。

たしかに体の中の兵器を運ばければ、こっちの命もないんだが。
ハメられてやる、か。
シェンは首筋を気にしながらも、本部長の言葉に興味をもったような視線を向ける。
「ハイルは警官で、オレを騙してたってこと.....。オレのものに出来る方法があるのか」
食い入るように頭を乗り出すシェンに気を良くしたように本部長は頷き、自分のこめかみに指先を押し当ててどんどんと叩く。
「記憶を奪って、快楽漬けにして誘拐したオメガを売っている裏組織に引き渡せばいい。アルファにも奪われないように監禁すれば、彼は一生君のモノだよ」
かなりリスキーじゃないか。
記憶を奪うだと。
オレに片棒を担がせて、中隊長さんをハメで誘拐すれば、組織のことも忘れて表沙汰にはならない。万が一外にバレてもお縄になるのはオレだけという寸法か。
「記憶を奪ったら、ハイルはオレのことも忘れてしまう!そんなのは、嫌だ」
「落ち着けイライズ君、いまの彼は演技をしているんだ。君を好きなわけじゃない。だからね、君がただ1人のご主人様だっていう偽の記憶に書き換えるんだよ」
秘密を共有するように囁く本部長は、本当に思いやりに溢れた口調で提案してくる。
いかに人の弱みをついて、ほだそうとするか。それができるのが、本当の悪党だ。
この作戦は危険すぎるぞと、どこで聞いているのかはわからないが、多分近くにいると思われる統久を探すようにぐるっとシェンは視線を回した。
『シェン、頼む。多分同じようなチャンスはもうこない.....。ここにたどり着くために5年かかってるんだ、頼む』
頼むからこの作戦に乗れという言葉に、シェンはため息を軽くつく。下手すれば、統久の人格すら崩壊しかねないプランだ。
知らないからな。

「ハイルをオレのモノにしたい。まずは、身体の中のものを運べばいいのですね」
首筋に手をあてて、任務のためのデータをくれと手を差し出す。

「頼むよ。イライズ君。彼を手に入れるための作戦は任務完了の後で話そう」
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