炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

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「鹿狩中隊長って、アレだろ?オメガだって噂」
「ああ、前のトコにオレは同期いるんだけどさ、マジらしい」

駐屯所へ到着した彼は、周りのザワつきなどは気にもしないように、バサついた髪をわしゃわしゃと掻き乱しながら、集合がかかった訓練場へと向かう。

すらりとした長身と綺麗に鍛えられた体躯のラインから溢れ出している雰囲気な、かなりの手練であるということだけだった。
集まった隊員たちも、目の前に立った彼から醸し出されるその圧に身震いをする。
見るからに屈強で、できる男といった風情である。

「あー、おはよーございます。俺は鹿狩 統久かがりすべく。今日からこの駐屯地に赴任しました。ってことで、何かもう噂話されてるみてえだけど、俺はオメガなんで、たまあにお休みするから、よろしく」

眠たそうな表情を浮かべたまま、性別を包み隠さずに自己紹介した彼を、周りの隊員は、呆気にとられた表情になる。

オメガは身体が弱い者が多く、劣等種とされているので隠して仕事をしているのが普通である。
こんな屈強な猛者揃いの辺境警備隊には、いるはずのない性別である。
職業に性差をつけるのは、法律違反と言われるが、能力が不足しているのであればそれは問われない。性差ではなく、能力の区別である。
警備隊では、強靭な肉体とそして捜査ができる優秀な頭脳が必要だ。
「中隊長は、抑制剤を飲んで仕事に穴を開けない努力はしないのですか」
一人の真面目そうな隊員が食ってかかるように、彼に問いかける。

「悪いが俺は抑制剤は効かないんでね。ここにいるのはベーターが殆どだと思うけど、君はアルファだろう?具合が悪そうな俺を見たら、鼻栓をしてね」

その隊員にひょいと鼻栓セットを手渡すと、彼は見蕩れるような爽やかな笑みを返す。

「意にそわない過ちは、お互い傷をおってしまうからね」


「上官がオメガじゃなぁ、なんだかしまらねえよな。しかも、中隊長なのに宿舎じゃなくて別ンとこから通いらしいし、特別待遇すぎねえか」
宿舎の朝は異常に早く、訓練とは別に朝の奉仕作業などが義務付けられていて、隊長クラスまでが所属している。
文句あるなら、直接言えばいいのによ。
床を掃除しながら、煩そうに眉を寄せた金髪リーゼントの青年はため息をつく。
「宿舎にオメガが居たら、そっちのが問題だろ。ベータだからって性欲はゼロじゃねえし」
「まあそうだな。俺もゼロじゃないな、シェンならイケんの?中隊長さん」
シェンと呼ばれた金髪の男は、まさかと呟き肩を竦ませ両手をあげる。
「オレは性欲120パーセントだけどな。でも、あんなゴツイお兄さんはタイプじゃない」
「まあ、半端ない強さを感じるしなあ。ベータなんかが手を出したら逆に殺されそうだ」
オメガの発情を止めるには、アルファとの性交が不可欠だ。発情は抑制剤で止められるが、彼は効かないと言っていたので、番のアルファを探しているに違いない。
「今日は宙港の交通整理勤務だっけか、確か中隊長さんとコンビなんだよな。そこんとこリサーチ必要?」
「強さ的なものは、俺らじゃ太刀打ちできねえのはわかるけど、弱点とかヨロシク」
「まーた、上官イジメとかしちゃうのか、エンデ」
「いやいや、イジメじゃないって。何かあった時の保険」
パチリとウインクをなげられて、ゲッと呟きつつシェンは、天井を仰ぐ。

この駐屯地では上官イジメが絶えない。
まあ、オレには関係ないけど。
オメガだって一番の弱点を自ら披露するとか、何考えてるのかわかんねえし、底知れないから手出しはしないほうが吉なんだけどな。
シェンは、掃除を終えるとエンデの肩を軽く叩いた。
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