竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

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77 【完結】

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父親に士龍と一緒に食事をすると言ったら、行きつけのホテルのレストランを予約してくれた。
オレが橘に籍を入れてから、父親はかなり機嫌が良く、士龍とどこかに行くというと軍資金まで用意してくれる。
まあ、親に甘えているっていうのはカッコ悪いから、今回の費用は全部バイトで稼いだ。
「親父に、士龍と一緒に飯を食うって言ったら、ここがうまいって教えてくれたから、さ」
 ホテルに連れてきた途端、士龍は恐縮してしまったようだった。
 流石に高校生で、こういう一流ホテルのレストランっていうのは早まったかもしれない。
「あ、おう。見るからに凄そうだもん。つか、たけお、今日が誕生日だって教えてといてよ。俺、なんも用意できなかったじゃん」
今日はクリスマスイブ。
オレの誕生日だが士龍には特に教えてはいなかった。
だから、知らなくて当然なのだが、少し申し訳なさそうな顔で士龍はオレに謝った。
ラウンジにいるの周りの視線を感じつつ、レストランへと入っていくと、蝶ネクタイのウェイターが頭をさげてくる。
「……あ、まあ、言いにくくてさ、誰かに聞いたのか」
「遠慮するなっての。モトミヤが教えてくれた」
 唇を尖らせてもっとアピールしろと文句を言うのが、本当に可愛くて仕方がない。
 誕生日なんて言ったら、逆に気を遣わせてしまうし、恋人との初めてのクリスマスイブは、オレが士龍をリードしたかったというのが大きい。
コートを脱いでウェイターに手渡して、案内された席に座ると、テーブルに置かれたナプキンを手にして襟もとにひっかけた。
オレの髪の色もだが、士龍も金髪だということもあり、異様にここの雰囲気からは浮いている。
「今夜は雪になるって言っていた。バイクでこなくて正解だな」
「そもそも…………帰らねえし」
 まさか食事をしただけで帰すわけはない。
 ちらっと士龍を見るとオレの意図を察したのか、頬を緩めて唇をちろっと舐める。
仕草のひとつひとつがエロティックなのだが、期待しているってことでいいよな。
「この上に部屋とったとか?ベタだな」
「まさか。ここのホテルレベルじゃバイト代でもどうにもならないから、近くのビジホだけど」
「相談しろよ。誕生日だって知ってたら、俺が用意したのによ」
士龍に相談せずに決めてしまったのは、士龍が受験勉強で忙しそうなのもあった。一日くらいは休養をとって欲しくて、デートに誘ったっていうのもある。
「士龍、バイトしてねえじゃん」
「してるよ」
 すぐに返された言葉に、オレは首をひねった。
 これまで、士龍からまったくバイトに行くなどの話をされたことはない。
 受験勉強で忙しいスケジュールにいつそんなバイトを組み込んでいるのだろう。
「え、何してんだよ。ケンカと受験勉強しかしてるイメージねえよ」
「外じゃねえし。じいちゃんの手伝いで、書類作ったりとか資料まとめたりとか」
確か士龍の祖父は県会議員だ。難しい書類も多いと思うが、士龍はそもそも地頭がいいので、作業の飲み込みもよさそうだ。
 バイト代もその分では結構もらっているのだろう。
「じゃあ、来年は……士龍に用意してもらうよ」
「まかせとけ。あ、そうだ、コレはクリスマスプレゼント」
運ばれたグラスの水に口をつけてから、士龍はごそごそと小さい包みをオレに手渡す。
「プレゼント……とか、オレにか?」
「オマエ以外に誰がいるのよ。まあ、誕生日プレゼントは知らなくて用意できなかったけど。開けて開けて、ペアで買ったし」
「誕生日プレゼントも別でくれるのか」
 ペアで用意したと言われて指輪かなと一瞬思ったが、それにしては箱の大きさも重みもある。
「当たり前だろ。クリスマスのは俺がサンタさんなんだし、誕生日は生まれてきてありがとうなんだからさ」
 士龍の言葉は少し分かりにくいが、クリスマスプレゼントはサンタとして士龍がオレに贈ってくれるもので、誕生日のプレゼントは生まれたことを祝って贈ってくれるのだということだろう。
「オレが生まれてきてありがとうって思ってくれるのか」。
「当たり前だろ」
 オレが生まれたことで、士龍は父親とクリスマスを一緒に過ごせなくなったはずで、一番楽しいイベントを母親と二人で過ごしてきたはずだ。
 生まれてきて、ありがとうって思ってくれることは奇跡のように思えた。
「オレが生まれなければ、士龍は幸せだったかもしれないのに
「んー?」
 オレの言葉に士龍は首を傾げてから、それは違うなとつぶやく。
「たけおが生まれたから、オレはたけおと会えて、今一緒にいられるのは幸せだ。そうじゃねえか」
 確かに生まれなければ、出会うこともない。こうやって、二人で一緒に食事をしたりすることもなかっただろう。
「あ、ああ。そうだけど」
 こんなにも幸せな時間を、一緒に過ごすなんてこともなかった。
「だから、ありがとうだ。俺はたけおを好きなんだから、な」
 素直な言葉にオレは、胸の中からじわりと暖かいものが溢れ出す。
 士龍から手渡された包みを、金色のリボンを外して包装紙を剥がすと、綺麗な箱が出てくる。
 オレはその箱の蓋をそっと開けると、銀色にぴかぴかと光る時計が中に入っていた。
 時計なんて嵌めたことは今までなかった。
 そんなに時間を気にして過ごしてはいない。
 でも、専門学校のテストなどを受けるとしたら、スマホの持ち込みはできないだろうし、時間を確認するすべは腕時計しかないだろう。とても士龍らしい、実用的で理にかなったプレゼントだ。
「あ、ああ……嬉しい。すげえ、なんかオシャレだな」
 手に取って腕に嵌めてみると、それほど重くもなくて、肌触りもしっくりとくる。
 あまりに嬉しかったのでちょっと腕を掲げて士龍に見せつけると、頬を緩めて嬉しそうに笑って、自分の腕にも嵌めたペアの時計を見せてくれた。
 その腕には、オレがいつか贈ったシルバーのブレスレットが並んで光っている。
 あの時に渡したものを、ずっと大切にしてくれているということが、オレには嬉しくてその腕を掴んでぎゅっと握りしめる。
「高級なブランドモノじゃねえけど……壊れにくいし」
 ちょっと照れたように顔を赤くする士龍に、オレはすぐにでも抱きしめて口付けたい衝動を抑える。
「でも喧嘩で壊したら嫌だから、出かける時につけるよ……」
 そう告げると、士龍は首を横に振ってずっとしてろと命令する。
「バカ、ずっとつけとけよ。壊したら直せばいい」
 ちょっと唇を尖ららせた様子に、でも壊れるのも傷つけるのも嫌なんだけどなと思ってしまう。
「ずっと、一緒につけてることが大事なんだよ」
「……ああ……そうか、わかったけど……なんで」
 強くそうして欲しいと伝える意味が分からずに問い返すと、士龍は顔を真っ赤にして俯く。
「恋人に時計を贈るっていうのは、一緒に同じ時を刻みたいってことなんだよ。だから、一緒にしてないと意味がねえの……。オマエの時間は全部俺のモノっていう独占欲かもしれないけど」
 矢継ぎ早に返された言葉に、かーっと体中の体液が沸騰してしまいそうな感覚に陥る。
 オレとの時間。オレの時間。
 それは全部、オレ自身も士龍に与えたいし、そして奪いたいと思っているものだ。
「すげえ嬉しい。ありがとな、士龍」
 士龍は気恥ずかしそうな表情を浮かべて、満足そうな表情でオレの腕に嵌った時計を見つめた。
「ああ……傷ついても、壊れても絶対直してやるから……。たけお、だから一緒につけていような」




 高揚した気分のまま、オレは士龍をホテルに連れ込んだ。
「綺麗にしてるのに、まだ勃てちまってるの」
 もう何ラウンドだろうか。
これが最後と思って、体をタオルで拭って後処理をしているが、絶倫の士龍の身体はまったく収まっていないようだ。
「…………えっろい顔」
 物欲しそうな半開きの唇をちゅっちゅっと音をたてて吸い上げて、背中をゆっくりと撫でるようにして宥めようとするが、股間の様子を看る限り逆効果のようだ。
「…………っ、たけ、お。めりい、くりすます」
 たどたどしくクリスマスの祝いの言葉を告げる様子が可愛らしくて、思わずぎゅうっと強く抱き寄せる。
「おお、メリクリ。すげえ可愛い。大好きだせ、士龍」
「……Frohe Weihnachten …… I wuensche Ihnen viel Glueck und alles Gute(貴方が最高に幸せであるように祈ります)」
 士龍の天使語を久しぶりに聞いた気がする。
 気持ちが良すぎると、日本語に頭の中で変換できなくなってしまうと言っていた。
 最近受験で忙しいから、ここまでセックスに時間を割くこともできなかったからかもしれない。
「なんて言ったのか後で教えてよ」
「…………サンタへおねがい、した、んだ」
 身体をオレへと預けて、たどたどしい口調で言うのは、まだ頭の中がちゃんと働いてないんだろうなと察する。
 そこまで快感に溺れてくれるのは、正直言って嬉しいことだ。
「お願いか……。なんか、やっぱり可愛いなあ」
「……可愛いとか言い過ぎ……。たけおにたくさん幸せもらってるから、たけおに幸せがいっぱいくるように、お願いしたんだよ」
「アンタさあ、オレを殺しにかかってるのか。マジで心臓撃ち抜かれた。アンタが愛しくてたまんねえ」
 溢れ出る気持ちをどう伝えていいか分からず、オレは強くその逞しい体を抱き締めた。

「Frohe Weihnachten(メリークリスマス)」
 
士龍は再び祝いの言葉をオレの耳に吹き込んだあと、ちょっといたずらっぽく笑う。
そして、もう一度誘うような挑発的な視線を向けるとオレの耳を軽く噛んだ。
 
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