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しおりを挟む小倉さんの実家の裏にでかいバラック小屋があり、そこが小倉派の学外でのたまり場になっているのは、噂では聞いていた。
士龍に指示されたそのバラックの前には、隠れるようにうちの制服の軍団がたむろしていた。
殆どは士龍の派閥の奴らだが、どうやら、うちのメンツも数人混じっている。
「士龍、無事か⁈半殺しにされてねえか?」
士龍がバイクから松葉杖で支えながら降りてメットを外すと、少し腫れている顔を眺めてイケメンが台無しと栗原さんは嘆きながら駆け寄ってくる。
「だいじょぶ、ケガはあんましてないよ」
元々怪我人ではあるので、新しい怪我は顔を殴られた時のものくらいだろう。見た目では。
「士龍さん!無事なんすか!半殺しも覚悟とかって……聞いたから」
木崎が泣き出しそうな顔で、士龍にぎゅうっと抱き着いて頭を撫でられるのを見て、なんだか悔しくなる。
嫉妬してばかりで本当に心が狭い。そんなことをしている場合じゃないんだけどな。
「ナオヤ。そんなくっつくなよ、今、クサいぞ。俺」
木崎の身体をやんわりと離して、士龍はゆっくりと自分のところのメンバーに向き直ると、くしゃくしゃと自分の頭を掻いて口を開いた。
「暴行より性的暴行されたんだよねえ。輪姦されたって、女の子じゃないし、そんなにダメージはなかったけど。この俺をそんなんでツブしたつもりになられてんのが、かなりアタマにきてる。勿論、その前にショーちゃんを刺されたってのが、一番の理由だけどな」
汚点になるべきようなことを、さらっと口にして不敵な笑いを浮かべた。
そんなことは、この人にとっては恥べきことでもなんでもないのだ。
これじゃあ、確かに……。
オレのしていたことがこの人にとって脅迫でもなんでもなかったっていうのが思い知らされた。
「士龍ねぇ、もっと恥ずかしがるとかさあ、泣くとかしろよ。いや、泣かれても困るんだけどよ。…………なんか、仮にも恋人なんだからさ、富田が可哀想だろ」
「士龍さんの羞恥心は遠足してるんですよ」
仲間たちは呆れた顔をしているが、自分たちのトップの汚点を知ったとしても、そこへの尊敬の念も何もかもに変わりはないようだった。
「俺は別にいいんだけど、確かにたけおが悲しい顔するのがイヤだからさ。悪いけど、データもろともどもぶっ潰したいんだけど、力貸してくれねえか」
この人が仲間を頼ったことは今までに見たことがない。
力を貸して欲しいなんて言葉は、他の幹部も聞いたことがないのか、酷く驚いた顔をしたが、勿論だと強く頷いた。
「別にいいとか、言うな。もっと嫌がってくれねえと、本気でオレが切なくなる」
その場の雰囲気で言ってもいいかと思って、気持ちを口にすると、士龍は少し驚いた様子でオレを見て、いつもの笑顔を向けた。
「じゃあ、すげえイヤだ。それと通報されないように、一気に片付けて逃げるぞ。三年は卒業かかってるからな」
そう告げると、士龍はこの作戦について説明を始めた。
やることは単純だが、短時間ですべてを終わらせる。
合図で一気に攻め込む。そして、奴等のスマホを奪って壊す。中にパソコンがあればそれも壊すことを優先する。ケガは軽傷ですませるため、狙いは下腹部から下肢と急所を狙うこと。
まあ、局部への攻撃は士龍の私怨だろう。
「二十時十五分で一斉にはけるからな。時間をちゃんと見ていくんだぞ」
声をひそめて、士龍は入り口を指さした。
視線をあげて士龍の方を見ると、松葉杖を使って栗原さんの肩を使って窓枠によじ登っている。
おいッ、て、アイツ、何をする気だ……。
一瞬目を見張って近寄ろうと思い動きかけるのを、木崎にグッと肩を掴まれる。
「もう、時間だ」
士龍を担ぎあげ終わった栗原さんが、入り口のドアをグアンッグアンッと扉をドロップキックで蹴破り、一気にガレージの中になだれ込む。
「おーぐーらァ、ほーふくだ、死にさらせ、イケェ」
中でビール缶を飲みながらソファーでくつろいでらいた小倉刺さんたちは、喧騒に慌てて立ち上がる。
まさかこんなに早い報復は予期してなかったに違いない。
オレは入り口へと向かってくるヤツらの脚を蹴飛ばして、床に転がすと持っていた木材で腹部を叩きつけてなぎ倒す。
攻撃は下半身を中心におこなう。そうすれば、目立たないし、警察沙汰にもなりにくいと士龍は話していた。
ガッシャーンと窓の割れる音が響き、思わず視線をあげると、士龍はガラスの散らばる窓枠に腕をひっかけて松葉杖を片手に担いで立っている。
士龍は、月を背にして影に隠れた表情で歯を見せて笑う。
その姿はさながら悪魔のようにも映って見えた。
「さーてと、それじゃあ盛大に報復させてもらうぜ。とりあえずハルちゃん、オマエは半殺し。アイキャーン、フラーイ!イェーイ」
ニヤと唇を引き上げて笑うと、ヒョイっと松葉杖を振り上げたまま、士龍は奥で椅子から立ち上がる小倉さんに向けてダイビングの要領で飛翔し、松葉杖を思い切り小倉の股間に振り下ろした
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