竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

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オレのせいであんな目にあったっていうのに、手伝わせてもくれない。力のないオレに相当呆れているのかもしれない。
 ぐるぐるとそんなことばかりが、頭の中を去来しては消えていく。
茫然としたまま立ち尽くしていると、ぽんと肩を叩かれ振り返ると半裸の士龍が立っていた。
 士龍のシャツは最初に小倉さんにビリビリに破られて、散らばっていて、とても着て帰れる状態ではない。
オレは慌てて自分のシャツを脱いで手渡す。
「シャツ…………オレの着てくれよ」
 学ランの上着を着て襟元をしっかり締めれば、その下がランニング一枚でもなんとかなる。
 シャツを羽織った士龍は、松葉杖片手での着替えはやりづらそうだったが、手を出していいものか悩んで手を引っ込めた。
「ワリィ、ありがとな。じゃあ、いくか」
 さっき拒絶されたのが、まだ脳裏に残っている。
 思い出したらまた涙が出そうになって、ごしごしと袖口で目元を擦った。
 士龍は何事もなかったような表情をしていたが、オレの涙を見ると一瞬視線を揺らした。
「あ、ああ。病院、戻るよな。バイク学校だから、ちと取ってくる」
 泣いてばっかなんてカッコ悪い。
「不正解。これから小倉のとこ、ツブシに行くんだよ。ミッチーには、先に指示しといた。今何時?」
 士龍の口から出た言葉は思ってもいないものだった。
 先に指示をしているということは、士龍は村澤さんを刺された時点で、小倉派を潰すつもりでいたのだ。
 静かな声で告げる様子に、僅かに苛立ちのようなものが見えて、士龍がかなり憤慨しているのが分かった。
「っ、て、ムチャだ。士龍、そんなカラダで戦争仕掛けるとか」
 そう言えば、小倉からの伝言はまだ伝えていない。
「小倉が……よんだら……こいとか……」
「……動画とか?そんなの脅迫にならねえってのは……知ってるだろ」
 士龍は面倒そうに答えて、オレの言葉に不快そうな表情を浮かべた。
「で、何時?」
 オレの言葉を全く聞いてはいない。
 苛立ちと怒りだけが伝わってくる。
 普段とは全く違う様子に、オレは慌てて息を呑んだ。
「十八時半」
「オッケー、すぐにバイク持ってきて。今回は完膚なきまでに、ブッ潰す気だから。オマエも、手ェ貸せよ」
 すぐにと言われてオレは駐輪場に向かって駆け出した。
 弱体化した時には潰しに行かなかったのに、今回はあっちが仕掛けてきたというのもあるが、士龍は本気で小倉派を潰すつもりである。
 
学校に置いていたバイクに跨り、士龍の待つ倉庫の方へ走らせる。
怪我をした上に何時間も輪姦されて体力も限界の筈なのに、士龍の眼は見たことがないくらいに好戦的で、今にも破裂しそうな怒りに満ちていた。
脅迫なんかに怒ったりはしないことは、脅迫していたオレだからこそ分かる。
自分が犯されようと、きっと士龍には何の意味ももたないし、多分、それすらも脅迫や憤怒の材料にはならないだろう。
なんで、あんなに怒ってるのか。
仲間を傷つけられたから、そこに彼自身も傷つけられたという理由も含んで欲しいと、オレは思っていたが多分それはない。
それだけじゃない見たことがない怒りがそこにあった。
倉庫の前にバイクで戻ると、どこに隠していたのかコートを着て士龍はタバコをふかしながらオレを待っていた。
士龍がタバコを吸うのはあまり見たことがない。
最初にオレに終わりにしようと言った時、くらいか。
「早く、乗れよ」
よほどストレスを感じなければタバコは吸わないのかもしれない。
「士龍……無理して、倒れんなよ」
この怒り具合の士龍を止めることなんか、出来ない。
 あんな酷い様子だったのに、平然としている様子を見て心配になる。
「大丈夫。セックスなんか俺にしてみりゃ軽い運動だし。でもさ、気持ちわりいのにさ、カラダは何で反応しちまうんだろうな」
なんだか自嘲する様子が痛々しくて、聞いているのが辛い。
痛々しすぎてたまらなくなる。
「…………んな風に言うな。アンタをそうしたのは……オレだ」
「ああ。別に、俺はそんなカラダだしどうでもいいんだけど、オマエに泣かれんのはツライ」
タンデムに跨った士龍に背後から告げられると、悔しさが増す。
オレが泣いたことに気に病んだというのか。
んなことなんか、全然気にしないと言ってやれたらいいのにな。
気にしないなんて、そんな嘘はつけないし、ついたところでバレちまう。
「…………ああ、くされちんこに腰振りやがって、後でたっぷりオシオキだからな」
オレは士龍の頭に予備のヘルメットをかぶせて精一杯の強がりを言う。
一番ツライのは、士龍の方だろ。

原因はオレで、カラダを張って助けに来てくれたのに。
グッと腰に腕が回る。
背中にヘルメットをくっつけて、士龍が安心したようにオレにもたれかかり、こくっと頷くのを感じてオレはスロットを回してバイクを走らせた。



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