竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
上 下
43 / 77

43

しおりを挟む

やっぱり、オレは諦められない。
三日目の夕方にようやくオレは重くなった腰をあげた。
死んでは欲しくなかった。だけど、このままじゃオレのココロの方が死んでしまう。
充電の切れかけたスマホをみると、元宮や三門たちの着信履歴がかなり入っている。
そういや、元宮には月曜に休むと連絡したきりだ。優しいヤツのことだし、また無駄に心配するんだろうな。
でも、どうすりゃいい。もう、あの人はオレに二度と会ってはくれない気がする。
ギュッと拳を握るが力が入らないのか、なんだかひどくだるく感じる。そういえば何も喰ってなかったな。
伝えたい。
…………忘れられないこと、全部。
オレは、夕暮れの日差ししか入ってこない昏い部屋の中、決心したようにジャケットを羽織ると、バイクの鍵を手にする。
話を聞いてはくれないだろうことは分かってはいた。
だけど、人の心を突き動かすことができるのは、それより上位の感情だけだ。
こんなことだけで、諦められっこないだろ。
ヘルメットを被るとバイクに跨ってエンジンを蒸す。
あの人はあまり夜に出歩くタイプじゃないが、今時分なら街のゲーセンとかにいるかもしれない。
仲間と一緒なら、そんなに邪険にはしないかもしれない。
…………せめて、声をかけるくらいなら。
オレは駅前の近くのゲーセンの前にバイクを止めてアーケードゲームの前で待ち伏せをした。
眞壁一派がくるゲーセンはここか、村澤さんの家の近くの駅前かどちらかだ。こなかったら、家に直接いこうか。
ゲーセンで待ち伏せして、手持ち無沙汰に一通りアーケードゲームで遊んだがまったく面白くない。
流石に寒さが腹にきたのか催して、近くにトイレを探せずに裏口に出てすぐのところの壁へと立ちションをする。
マナー違反なんだけど、うろうろしてる間にすれ違ったりしたらと思うと、トイレに時間をかけたくなかった。
ふと、横に人影とピリピリとした気配を感じて視線をむけると、いかにもな格好のチンピラたちがいっせいにオレを見る。
クスリかなんかの取り引き、なのか。
手が震えてジッパーが締められない。
「ガキ、テメェいまの見た、のか?!」
カツカツと靴の音が響いてくる。
まったく力もでねえが、どうやって逃げるか。
なんとかジッパーをあげて、近づいた男にアッパーを喰らわせようと腕を下から振り上げたが簡単に掴み取られた。
「逃がさねえよ。ガキ」

体がギシギシして痛い。
顔面にぐるくると黒い布が巻かれているのか、視界が真っ黒だ。
口には猿轡、腕も縛られているのか、ギュッと圧迫されている。ここは、どこだ。
すぐに逃げりゃよかったんだが、ちんこ出したまま逃げられねえし。こんなことなら、恥を捨ててちんこだしたまま逃げればよかった。ここんとこ、ホントに踏んだり蹴ったりだ。
「サツの使いっぱかと思ったけど、タダのガキみたいだな」
ヤニくさい匂いと、まわりからピリピリ肌に感じるヤバイ雰囲気はビシバシ感じる。
やっぱり、こりゃあ、コンクリ詰めコースかな。
最後に、せめて、士龍に会いたかった。未練で頭の中はいっぱいで、たまらない。
オレが死んだら、流石に少しは寂しく思ってくれるかな。化けてでたら、ずっと一緒にいれるかもしれねえな。
怖がってくれるかな……あの人なら普通に話しかけてくれそうだ。
「東高ね。調べたら、医者の隠し子らしいっすよ、こいつ」
一体どこから調べてきたんだ?
疑問符でいっぱいだが、ヤクザもんの考えはわかる。オレの命で親父にユスリをかけるつもりだ。あんな奴に救われるくらいなら、このままコンクリ詰めで構わない。
失恋したばっかで、気力も体力なんかまったく残ってない。
今更どうなっても構わないのに、そのたったひとつのあの人への未練のために生きたいと思う。
殺されたくないと、恐怖感ばかり募っていく。

ただ、あの人に、あいたい。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

昭和から平成の性的イジメ

ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。 内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。 実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。 全2話 チーマーとは 茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。

或る実験の記録

フロイライン
BL
謎の誘拐事件が多発する中、新人警官の吉岡直紀は、犯人グループの車を発見したが、自身も捕まり拉致されてしまう。

禁断の寮生活〜真面目な大学生×体育会系大学生の秘密〜

藤咲レン
BL
■あらすじ 異性はもちろん同性との経験も無いユウスケは、寮の隣部屋に入居した年下サッカー部のシュンに一目惚れ。それ以降、自分の欲求が抑えきれずに、やってはイケナイコトを何度も重ねてしまう。しかし、ある時、それがシュンにバレてしまい、真面目一筋のユウスケの生活は一変する・・・。 ■登場人物 大城戸ユウスケ:20歳。日本でも学力が上位の大学の法学部に通う。2回生。ゲイで童貞。高校の頃にノンケのことを好きになり、それ以降は恋をしないように決めている。自身はスポーツが苦手、けどサカユニフェチ。奥手。 藤ヶ谷シュン:18歳。体育会サッカー部に所属する。ユウスケとは同じ寮で隣の部屋。ノンケ。家の事情で大学の寮に入ることができず、寮費の安い自治体の寮で生活している。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

性奴の夜

くねひと
BL
Sのセイヤ、そしてMのユウキ……。マッチングアプリで知り合った二人のSMプレイがユウキの視点で語られる。この日も、ユウキはいつものように素裸で緊縛され、セイヤの前にひざまずいていた。でもいつもと少し勝手が違う。なぜって、二人の他に、少年がいるから………。

処理中です...