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しおりを挟む「親は?」
マンションのエレベータに乗ると、士龍は少し驚いたような表情をしてオレに問いかける。結構豪華な分譲マンションで、それなりの稼ぎがないとここには住めない。
オレは高校に入ってからここで一人暮らしをしている。
「おふくろが結婚したからな。できの悪い連れ子は一緒に住まないほうがいいんだよ」
「一人じゃさみしいな」
そういう眞壁もオレと変わらないように思える。母親とは、夜勤が多くあまり顔を合わせないと言っていた。
「慣れたから、そんなでもねえよ」
「弟もできたしな、悪影響あたえたらよくねえし、父親嫌いだからな。一緒にいると喧嘩しちまう」
「ああ、言ってたよな。弟いいな。親父さんは、再婚相手じゃあ、他人なわけだし色々あるよな」
オレの言葉に同意して、部屋のドアを開けるとお邪魔しますと礼儀正しく挨拶をしてから中に入る。
「いや、実の父親なんだ。再婚なのは父親だけだ。元々母は親父の愛人だった」
吐き捨てるように思わず告げてしまうと、オレの様子に士龍は、穏やかな視線を返して頭の上に掌を置いた。
部屋の中に入って上着を脱ぐと、リビングのソファーの上へ座るように士龍を誘導する。
そういえば、ずっと頭に引っ掛かっていることがある。
「なあ、脅迫してたオレをどうして、可愛いとか思ったんだ」
木崎たちに士龍が言った言葉の理由を、オレはどうしても知りたかった。オレに対して本気だとも言っていた。
「まあ、こないだも言ったけど、脅迫にはなってなかったし、ホントに嫌だったら、続けてないからさ」
「どういうことだ」
ソファーに腰を下ろした士龍は、オレの顔をじっと見てから視線を外して口を開いた。
「良く話に聞く脅迫レイプは酷いもんだぜ。優しくしろとは言ったけどさ。オマエ本当に優しいし。キモチイイし、そりゃあ俺だってキモチ移るだろ」
「キモチ…………移る?それって…………少しはさ…………」
それは、士龍もオレのことが好きだったってことなのだろうか。
好きだから、オレの告白を受け止めてくれたというのだろうか。
だとしたら、すべての士龍の行動に納得がいく。
だったら、一言オレを好きだと口にしてほしくて、じっとその顔を見上げる。
「だからよ、脅迫したとか、もう気にすんじゃねえよ。全部俺の意思だ」
これまでオレに抱かれてきたのが、士龍の意志というなら、士龍がオレに抱かれたいと思って抱かれてきたってことで。
それでも欲しい言葉をくれない士龍に、オレは唇を尖らせた。
「オレだけが、脅迫だと調子に乗ってただけか?」
問いかけると、ふっと笑って啄むように唇を何度かオレの尖った唇へと落とす。
「ich mag ……dich(好きだよ)」
「いっひ、まぐ、でぃる?……苦しいってこと?」
前に同じような言葉の意味を聞いたら、ドイツ語で苦しいって意味だと教えてくれた。
「アレは、ウソ」
ちょっと言いづらそうに士龍は嘘だと告げて、視線を逸らした。
「嘘?どういうことだ……?」
「まあ、ホントっちゃ、ホントなんだけど、日本語で言うと…………好きだってこと」
求めた言葉を告げられて、嬉しさで体が熱くなってくる。
好きの言葉を苦しいとオレに告げたのは、オレを好きだという気持ちが、あの時は士龍の中では苦しいことだったのだと改めて分かった。
苦しいってことだと言われて信じていたが、すでに気持ちがあったとか聞いて、なんだかすごく満たされる。
「ウソついて、ゴメンな」
そんなウソをつかせていたのは、十中八九オレのせいだ。
「いや、ビックリしたけど嬉しい」
泣きそうになるくらいだ。
好きな人から好きだと言われるくらい嬉しいことはなくて、胸がバクバクして止まらない。
あの時のオレは、士龍の気持ちを苦しいと思わせるような存在だったとか、もっと早く素直になれば良かったと思う。
「あー。ヤベェ、マジ泣きそう」
「……俺は自分を好きな奴じゃないと、好きだなんて言うのイヤだった。オマエは、俺を嫌いなんだと思っていたからさ」
不意に抱き寄せられて、腕を背中に回される。
緑色の綺麗な眼の中に、戸惑い顔のオレが映る。
「最初から……アンタを好きだった、と、思う。一緒に戦いたいと思って、だけど喧嘩とかに連れてってもらえねえし、諦めて離れても今度は相手して欲しくて絡んでも、全然オレなんか眼中にないし、色々ひねくれちまって、言えなかった……」
見上げると、士龍はふわッとした表情で笑みを刻んでいる。
「でも、さっき……一緒に肩並べて戦えたの…………すげえ嬉しくて興奮した」
「…………すこるぴおん?だっけ。俺は、いつも原チャだし絡まれたことねーしなあ…………。興奮したのか。一人でいくのは、よくミッチーに怒られる…………ゴメンな」
オレの肩に頭を乗せ、甘えるようにぐりぐりされると、この可愛い生き物は何だと言いたくなる。
「イッヒ マグ ディッヒ…………だっけ。もう一人でいかないでくれ。オレも連れてって…………ほしい。士龍がオレの知らないとこで傷ついたりしたら、イヤだ」
今度は違う意味で。
大事な人を守りたい気持ちでいっぱいで、告げる。
オレの意図を悟るように、士龍は頷いて唇を寄せてくる。
「Ich liebe dich…………Takeo(愛しているよ)」
発音が良すぎてよくわからない。
新たに聞いた言葉の意味は、士龍は教えてはくれなかったので口調の柔らかさと、あたたかい表情から察することにした。
日本語より、そっちの言葉の方が士龍の本当のキモチなんだろうなと、思う。
首を傾け、ちろりと唇を舐める仕草に誘われるように、唇を押し当てると、士龍は太股へとぐりぐりと一物を押し付ける。
オレは顎を摘んで味わうように唇を吸い上げ、その背中を抱き返した。
「士龍、…………ベッドいこーぜ」
そこまでされたら、もう限界である。
耳元に息を吹き入れて、グイッと腕を強く引いて立ち上がって、寝室へと向かう。
「部屋にきてすぐとか、デートらしいことできてねーけど」
腰に腕を回して体を引き寄せて、ベッドの方へと促す。
「性欲は俺もつえーからさ、……早くシたくてたまんねェ」
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