竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

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「ヤベェ、囲まれた」
 士龍をタンデムに乗せて自宅に向かっている途中で、車線両脇にいかにも暴走族といったていのチームが幅寄せしてくる。
 大体東高の制服を着ていると、ヤンチャな奴らホイホイなのか、絡まれることが多い。一般の奴らから避けられて、そういう奴らには的にされる。だから、東高はナメられてはならない。
 トンと背中を叩かれ、後ろを振り返ると士龍は、近くの路地を指差し左折を促してくる。
 ドキッと胸が跳ね上がるのを感じる。
 一緒の派閥にいる時は、士龍は大抵一人で喧嘩に行ってしまうので、一緒に戦ったことはなかった。
 もしかしたら、肩を並べて戦うことができるかもしれない。
 路地に入ってバイクを停めると、士龍ははらりとタンデムから降りて、メットを座席に置くと、ゆっくりとした足取りで間合いをとりながら近寄っていく。
「なんか用?」
 士龍はゆったりと余裕のある口調で、ブルンブルンと音をたてて囲んでいるバイクをぐるっと一巡するように眺めている。
「高そうないいバイクに乗ってる奴がいるからさ、カンパしてもらおうかと思ってね」
「乾パン?乾パンはねえけど、かにパンならあげよっか?」
士龍は相変わらずすっとぼけた様子で、どこまで本気か分からない口調で話しながら、カニぱんを出した。
 イラついた相手が拳を振りかざすと、士龍はなんなくその拳を受け止めて、投げ飛ばすようにバイクから引きずり降ろす。
「カニぱんキライ?」
「テメェ、スコーピオンだと知って喧嘩売ってんのか?」
 スコーピオンは、この辺で幅をきかせている暴走族で、うちの高校の奴も何人か入っているというのを聞いたことがある。
「ゴメン、スコーピオンね。サソリぱんは売ってないなあ」
 げしげしと容赦なく男を蹴りつけながら、士龍は手にしているカニぱんを齧っている。
 全然本気は出してないなと思って眺めていると、何人かオレへと駆け寄ってくるのが見えて、まとめて蹴り上げる。
「なに遊んでンだよ、士龍。時間もったいねーよ」
 一緒に戦えることは嬉しくて仕方がなかったが、一緒にデートをする時間が減るのは嫌だった。
 何人かオレの顔を見て、逃げ腰になった奴らを捕まえて壁際へ追い込んだ。
「東高の富田⁈」
 見た感じうちの高校の奴はいないようだったが、いるとしたら襲ってはこないだろう。
 なにせこっちには、士龍がいるのだ。
「そうそう、コッチの抜けてんのは、眞壁士龍だからね、怒らせないうちに逃げた方がいいぜ」
そう告げると、みな顔を見合わせて慌て始めて急いでバイクに跨って蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
士龍は逃げていく奴らを見てちょっと首を傾げて、掴んだままの拳を握りつぶすように力を入れた。
「ヒギィァァァ!!!」
「かにパンはカルシウムたっぷり入ってて、オススメだぞ」
 にこっと笑って、拳の骨を砕いた相手の口にカニぱんを詰めるように押し込んでいる。
邪気のない笑顔でそんなことをしている士龍を見て背筋が寒くなったが、別のことに気をとられた。
「食いかけ食わせてんだよっ!間接チューになんだろっ」
 知らない男と間接キスとかは、なんとなく許せなくてオレはむっとしてバイクに跨る士龍を見返した。
「オマエには直接チューいっぱいすっから、ちっちぇーコトばっか言うなよ」
メットを被る前に耳元で囁かれて、カッと体が熱くなる。
「覚えてろよ!あとでヒイヒイ言わしてやっからな」
 直接キスとかでそんなに照れるような関係でも全然ないのに、両想いになった瞬間から、そんな小さなことでも全身が滾るように熱くなってくるようになった。
 まだ士龍の本気の喧嘩は見ていないが、近くで戦えただけでオレのこころは高揚している。
「期待しとくぜ」
 くすくすと笑いながら、オレの腰に巻き付けた腕の強さに、こくっと喉を鳴らして一刻も早く家に帰りつきたいと願った。
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