竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

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何時間経っただろうか、美味そうな匂いに目を覚ますと、オレもすっかり寝てしまていたのかすっかり夜になっていた。
眞壁は柔らかそうなグレーの部屋着をきて、テーブルにカツ丼を並べている。
「悪ィ、結構寝ちまったみてえ。……メシ……作ったのか?」
「お、ハラ減った。かなり…………運動したしなー」
いつもと変わらないやりとりに、ふと不安を覚える。
こいつは、寝る前の出来事を覚えているのだろうか?
オレは、身を起こしてベッドから降りると、試すように眞壁の背後から軽く抱き寄せる。
「なあ…………、有効?」
耳許で囁くと、眞壁は首筋の裏を赤く染める。
「男に二言はないぜ」
低い声で言って頷くのを確認してから、オレは漸く安心して胸を撫で下ろす。
一生責任とるとか勢いよくいっちまったが、眞壁は一生オレと一緒にいてもいいと思ってくれてるのか。
「…………なんでだ。なんで、付き合ってくれンだよ」
まだ釈然としてなかった。
眞壁がオレと付き合ってくれる理由が見当たらなかった。
脅迫し、レイプまがいに体を自由に弄んでいたのに。
振り返った眞壁は、オレを探るような目で見返す。
「あ?…………オマエは俺のこと好きなんだろ?」
オレは眞壁の問いかけに頷いた。
「ならいいだろ。……俺は、キモチイイこと好きだからな。富田君のちんこが気に入った」
眞壁のあっけらかんとした思ってもみなかった答えに、オレの思考回路は停止した。
「…………ちんこ、限定かよ」
思わず顔をくもらせて聞き返すと、眞壁はへらっと笑ってオレの唇に唇を押し付けてくる。
ぬるっと割って入る舌先を味わって、唾液を注ぎこまれる。
「ちんこだけなら、セフレでイイだろ?ちゃんと、付き合うって言ってんだ。オマエもわかれよ」
わかれよと言われてもな、と、唇が離れた眞壁の顔を釈然としないまま見返す。
まあ、オレも最終的に告白を分かれよで締めくくったわけだし、意趣返しなのか、とも思うがよくわからない。
眞壁は床に座って、座卓に並べられたカツ丼を食べようと指差す。
「とんだ、ビッチ発言にびびるわ」
どこが好きかと聞いて、まさかちんこと言われるとはまさか思わなかった。泣いていいですかと言いたい。
オレも眞壁のことは身体からオトす気満々だったけど。
オレの手筈通りなのだが、なんだか切なくなってくる。
「ビッチ?ちげえよ、俺は結構一途だぞ。安心しろ、お前のしか入れる気はねーから」
元も子もないことを言って、箸を手にするとイタダキマスと元気のいい声を出す。
「どこが好きかって聞かれて、最低な答えは顔と体なんだぞ」
げんなりとして座卓に座ると、美味そうなカツ丼が視界に入る。
眞壁は神妙そうな表情を浮かべて、オレの股間をわざとらしく眺めて、とっても好きだと告げられてどくっと胸が高鳴る。
そんな仕草のひとつひとつが可愛らしく見えてしまうから、アバタもえくぼの恋心の偉大さだ。
「俺はさ、まだ富田君のことは体しかしらねえからよ。体だけでも情は移るし、唯一ちゃんと知ってる体を好きだと言ってんだが、それって問題あるのか?」
そりゃ、それ以外っつたら恩を仇で返す不逞の輩だってぐらいだろうしな。それが好きだと思われるのも微妙だ。
眞壁の言うことは単純明解、わかりやすい。体を好きだなんて言ってくれるのだって、これまでの経緯から考えたら奇跡に近い話だ。
「問題は、ねーけど。」
「でも、たまに優しく笑うときは、すごく可愛いって思うぞ。普段は眉のとこがしわしわでさ、すげえこえー顔してるからな。……メシ冷めるから早く食えよ」
箸を咥えて、オレを見下ろして笑う眞壁の方が百万倍可愛い。
すっかり、オレは眞壁に骨抜きな気がする。
イタダキマスをして、カツ丼を口に含むとあったかくて、優しい味がする。
「本当は去年、眞壁にテッペンとって欲しかったんだ……そのためなら、何でもできたのに」
もごもごと食べながら、オレは自分の胸の中にあった眞壁へのわだかまりを吐き出す。
眞壁は、じっとオレを見返してゴメンとつぶやく。
「…………元々、そういう争いが苦手で、俺は派閥に入ってなかった。今の派閥は、面倒みてくれた五十嵐さんていう先輩から預かっただけだからさ。テッペンは要らないんだ。ちゃんと一年だった富田君たちに言わなくてゴメン。喧嘩はさ、大事なもん守るためだけにしかしたくない」
もぐもぐとカツ丼を味わって咀嚼し、眞壁が伝えた言葉に分かっていることだったが、実際に聞いて謝られると居心地が悪い。
「分かってンよ……。アンタがオヒトヨシなのはさ。なんで脅迫してたオレも許してくれんだよ…………」
甘い味付けのカツ丼は、あったかくて腹にたまる。
「気持ちよかったし、別に最初からイヤじゃなかったし。脅迫されてるってあんま思ってなかった」
照れたような顔で言う眞壁の潔すぎる性格は、男らしくてひどくカッコイイが、内容に難がありすぎる。
「でもさ、続けてると癖になるし、違う欲がでちまうからな」
「…………脅迫じゃなかった…………か。そうだよな……」
最初から、こんなことは彼にとっては脅迫でもなんでもなかったのだ。脅迫しているのだと、調子に乗っていたのはオレだけだった。
一気にカツ丼を食べ終えると、オレはずっと考えていたことを提案する。
「あのさ、士龍って呼んでもいいか?あと、オレのことも、虎王って……呼んでほしい」
士龍はすぐに真っ赤に顔を染めて、オレを見返した。その反応の可愛らしさに、オレは喉を鳴らした。
「かまわねえよ、なんか、ちと股間にくっけど。…………パブロンの犬だっけ。エッチの時に呼ばれてたから、たけおに呼ばれっとさ、ちんこ濡れる」
それはそうなるように、オレが仕込んだからだ。
しかも、パブロンって、おい、風邪薬だろ。それ。パブロフの間違いだろ。オレでも聞いたことあるぜ
「じゃァ、いつでも濡れてろよ。士龍」
わざとらしく耳元で囁くと、士龍の目元に熱が宿る。
「俺、やっぱり、とんでもなくビッチになっちまったのかもな。スゲー、今、オマエが欲しくてたまんねえや、たけお」
 誘うような視線に、オレはそのまま士龍の腰を抱き寄せて押し倒した。
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