竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

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眞壁のような華麗なひとり行動は、オレにはできないらしい。オレの仲間はそれを許しはしないってこった。
「タケちゃん、眞壁さんの真似とかするなよ」
元宮は手にナックルをはめながらオレに文句をいう。
「今度置いていきやがったら、ブチ殺すぞ」
 派手なモヒカン頭の三門が、ブルブルとバイクに跨りながら中指を立ててくる。
無謀な行為だが、それでもメンツは守らないとならない。
この喧嘩は玉砕覚悟の上のケンカである。そんな喧嘩に仲間を巻き込みたくはない。今なら眞壁の気持ちが、少し分かる気がする。
「うるせえ。オレがやられてオマエらもやられたら、他のとこに潰されるだろ?」
「タケちゃんのくせに弱気」
「トミーらしくないー」
仲間からは一斉にブーイングされる。
「だいたい俺らがやられたところに、かちこみにくるヤツはいねえだろ。眞壁さんは弱った相手に殴り込むような人じゃない。金崎のとこは壊滅してるし、内添のところは自衛集団だろ」
「まあな」
「おおかた眞壁さんとこに話をつけに行って、壊滅したらカチコムとか何とか煽られたんだろ」
 元宮の言葉に図星だとは言えずに、バイクのカギを挿してエンジンをかけた。
根が単純だから、あの人に簡単に煽られてしまう。憤りは増すが、オレがハセガワを倒せば、きっと認めてくれるはずだと、自分を鼓舞して兜の尾を締め直した。

金崎派のやつらから仕入れた情報では、ハセガワはいま教習所に通ってるらしい。そこで待ち伏せをすれば、ハセガワを確保できる。
教習所の近くの駐車場にバイクを並べて置くと、そこから教習所に向かう細い路地裏に入り込むと計画どおりに位置をとる。
「タケちゃんが気に止むことはねえよ」
元宮に励まされるように肩を叩かれて、少し気持ちが軽くなった。
そこへ、高身長の影が現れ、ひとかたならぬオーラが路地裏の空気を一変させた。
ハセガワの特徴として銀髪とは聞いていたが、その男の髪は黒い。
だが、半端ない強者のオーラがそこにはあった。
「アンタ、北高のハセガワだな?」 
前に出て問いかけると、ひどく迷惑そうな表情でオレらに向き直ると、長身から見下ろすようにオレを見据えた。
「あ?そーだけど。ナニ?オマエらの制服見ると、いま腹立って仕方ねぇんだけど。…………怪我する前に、そこどけよ」
ハセガワは凄まじい不機嫌なオーラをかもし出して、苛立ちも露わに細い目をカッと見開く。
「金崎のこた知ったことじゃねえが、やられッぱなしは東高のメンツにかかわんだよ」
オレの言葉を聞いて、ハセガワは心底面倒臭そうに頭を掻く。好戦的な男だと聞いたが、本当に嫌そうな表情である。
ゆっくりとオレらの一団を見回した後でオレの目をしっかり見返してきた。オレが指揮をとっていることを察したかのようだった。
オレは鉄パイプを強く握りしめて、ハセガワの長身に向かって殴りかかろうと跳躍して飛び込んだ。
一瞬だった。
圧倒的な速度で攻撃は軽く躱され、足元に凄まじい衝撃が走る。まるで鉄バットで打ち据えられたような痛みと、視界が暗転して地面が近くに見えた。
バキッと腕を踏まれ、開いた手から離れた鉄パイプがカラカラ音を立てて転がっていった。
視線をあげると冷たい表情で奴は唇をあげて、静かにオレを見下ろして冷たく嗤った。
……鬼、だ。
グッと腹部へと激しい圧迫が加わり、グリグリと踏みつけられているのがわかる。
抵抗などする暇もなく、オレはヤツに痛めつけられていた。
「タケちゃん!よくも、貴様ァ、ハセガワァ――ッ!」
元宮の声がして、仲間が一斉にハセガワに向かって殴りかかろうとしているのが視界に入る。
ダメだ。そんな攻撃じゃ、ヤられる。
仲間の一斉攻撃でハセガワの意識がオレから逸れた。
重たい脚がオレの腹から外れて、仲間の方へ体を向きなって隙のない構えを見せる。オレは身体の痛みを堪えて身を起こした。
まるで虫でも追い払うような軽い動きでハセガワは三門の攻撃もかわして、オレと同じように地面へと殴りつけ沈めていく。
まずい。助けなきゃ。
オレは背後から落ちてた鉄パイプを拾うと、ハセガワの頭上に振りかぶった。
瞬間、腹部にドカリと回し蹴りが入り、横の建物の壁まですっ飛んで叩きつけられた。敵意を向けた瞬間に、すぐに回り込まれて全然攻撃がはいらない。
……バケモノかよ。
「多勢に無勢とか、……卑怯なんじゃねえの?」
多勢に無勢でもまったく歯がたたないというのに、卑怯もへったくれもないだろう。
怒りを露わにしたハセガワは、視界の隅で仲間達をグチャグチャに殴る蹴るのサンドバック状態にしている。
無理だ。これは、潰される。なんとか、しねえと。
報復は、オレの失策にほかならない。
クラクラする頭をなんとか奮い立たせて、壁を支えにたちあがると、元宮へと叫ぶ。
「ミヤ、逃げろ!…………ハセガワはオレが抑える」
こんな体でこのバケモノを抑えられるわけはないが、時間を稼げば元宮なら逃げられるはずだ。
オレは捨て身の攻撃で、ハセガワの胸元にタックルをくらわせ壁に押し付ける。いままで、攻撃は全く効かなかったのに、初めてハセガワの体を抑えることができた。
案外、このままいけるのではないか。
動きを封じるように、ギリギリと壁に身体を押し付けてその顔を見て愕然とした。ハセガワは全く痛みを感じている様子はなく、ただオレに反撃をしていないだけのようだ。
元宮たちが一斉に逃げたのを確認してから殴りつけようと拳を引き上げると、ハセガワは簡単にオレの身体を引きはがして、唇を引き上げて心底楽しそうに笑った。
「仲間を逃がすための囮とか、そういうのキライじゃねえ」
ハセガワがオレの攻撃を受けたのはわざとで、仲間が逃げきるまで見逃したというのか。
「だけど、俺のほうが報復はしてえ気分なンだよ。ちょっとばかり、殴られとけ。なあ、タケちゃん、だったっけ」 
ハセガワはそう宣言すると、オレを壁に押し付けて、急所にはならない腹部をゴツゴツと殴り始めて、痛みに意識が遠のいていく。
……あいつら、ちゃんと逃がせてよかった……。
メンツとか、正直どうでもよかった。ただ、オレの眞壁への対抗心でしかなかったから。

…………そんなのに、巻き込めねえだろ。




全身の痛みと脳震盪で朦朧とする意識の中、微かに聞こえる話し声に、オレの頭の中はパニックになっていた。
「そっかァ。あ、シロ、コレ返す」
バサッと雑な扱いで体を放り投げられた。直後に逞しい腕に体を受け止められるのが分かった。
「アリガト。ゴメンネ、ウチの子たちさ、オマエ潰したらトップにしてやるって言われたらしくって」
 ハセガワと話しているのが、独特のイントネーションと声で眞壁だと分かった。
 何故、眞壁がこんなところにいるのだろう。
「トップなんて人にさしてもらうもんじゃねえよな」
「だよねえ」
「ちっと、そいつヤりすぎちまった。そいつに何かされたわけじゃねえんだが。憂さ晴らししちまったかな」
 なんでコイツが、オレを助けになんか来てるのだという疑問と、敗北感に加えて嫌悪感がモヤモヤと湧きあがる。
身体の自由は効かないし、瞼も開かない。眞壁に抱きとめられて、胸板の厚みに安心感を覚える。でも、そんなの素直に受け止めることなんてできない。
元宮の奴が、眞壁に泣き付いたのだろうか。
大いにありえることだ。一年の頃は元宮は派閥の中でも、特に眞壁のお気に入りだったことは知っている。一度懐に入れた人間に頭を下げられたら、オレの自業自得でも眞壁は動くだろう。
それにしても眞壁とハセガワが知り合いだったことは、到底信じられない。ハセガワもまるですっかりオレのことを忘れたかのように、無防備に眞壁と話しているようだった。
頭がぼんやりとして整理ができないが、どうやら、オレは眞壁に助けられてしまったようだ。
こんなんじゃ、ライバルとしてなんか絶対に見てもらえない。
対等な立場になんて、なれない。
ハセガワが立ち去って駐輪場へとオレを背中に担いで歩いていく眞壁に、オレは漸く言葉をかけた。
「……テメェ、眞壁。……なんだよ、ハセガワと……仲良しなんじゃねえか」
こういう時には礼をすべきなのだと分かってはいたが、負けた気がしてそんなことは言えなかった。
「同小でイジメられてたのを助けてもらってたんだよ」
 眞壁はイジメにあっていたような感じではないが、過去には色々あるかもしれない。
 オレの体は結構重めなのに、眞壁はやすやすと抱えながら、原チャに跨った。
「オチたくなかったら、きっちり腰掴んどけよ」
原チャの二人乗りは、流石に捕まるだろうと思ったが、ここで置き去りにされるのもキツイなと思い、そのまま意識を手放した。

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