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しおりを挟む体に加わる力の違和感に重たい瞼を開くと、あらぬ方向に手首と足首を全裸で括られていることに気付き、工藤は細い目を大きく見開いた。
一体、これは、何だ。
何が起こった……一体ここはどこなんだ。
状況把握よりも先に、怒りでかああっと頭に血がのぼってくる。
体を捻って左右に揺さぶろうとするが、鎖と革の拘束は解ける様子も見えない。視線をめぐらすと何か作業をしているのだろうか、椅子に座ったままの男を視線の先に見つけた。
「……をい。テメエ、ふざけてんじゃねえぞ、カマ野郎、今なら許してやるから、早く外せ」
工藤は 地の底から低く唸る様な声をあげて、相手を威嚇するように睨みながら告げる。
相手をどのように威嚇すればいいのかは、生まれついての極道である工藤には息をするのと同様にわかっていた。
常ならば大抵の輩は震え上がって彼に逆らうことはしないのが常であった。
串崎は椅子から立ち上がると、床に転がしたままの工藤を見下ろす。
そして串崎は、これまで対峙してきた輩とは異なる態度を見せ、薄い唇を引き上げてまるで馬鹿にしたような表情で哂った。
「まあ、今の状況把握もできないだなんて、本当に獣以下のお馬鹿さんなのね」
「あァ、愚弄しやがって、ぶち殺されてぇのか、このカマ野郎」
視線で威嚇する工藤に、煽って馬鹿にするように串崎はくすくすと転がすように笑いを漏らす。
「しょうがないから、教えてあげるわね」
上から拘束された工藤を見下ろすと、壁にかけられているアンティーク風味の大きな姿見を掲げて工藤に見せ付ける。
全裸で蛙の解剖をおこなう前のような情けない姿を晒しているのは、鏡で何度も見慣れた己の姿で、性器まで丸出しで暴かれていることに、工藤は目を白黒させた。
「ねえ、恥ずかしいでしょう。いいかげん状況の把握はできたかしら。それにしても綺麗な彫り物ね。かなりお金かけて彫らせたのね」
串崎は、手術をする医師が使うような薄いゴムの手袋を嵌めると指先で撫でるように、炎と鬼を描かせた刺青をつつっと這わせていく。
「さ、わるな、は、ず、せ」
自分の極道としての矜持である刺青に触れられるのを嫌がるように、逃れようと身を捩る工藤を眺め、口元を酷薄に引き上げる。
「まだわからないのね。本当にお馬鹿さん。これじゃ流石のトラさんも手を焼くわけよねえ。いいかしら?よく聞くのよ。あたしは調教師の串崎一真よ。あなたが素直に言うことが聞ける子になるようにして欲しいって、トラさんに依頼をされたの」
本来の工藤であれば、相手が言うことを聞かない時には、組の威信をかけて潰すと脅すのであるだろうが、元より組の力を持つ男からの依頼では、そのような脅しは全く意味をもたない。
「うるせえ。虎公がどういおうと関係ねえ。四の五いうんじゃねえ。はずせって俺は言っている」
人の話を聞く気もなく俺様な態度をとり続ける工藤に、串崎も呆れ返った表情を浮かべて肩を聳やかす。
「本当に馬鹿ね。アタシも命が惜しいもの、貴方の牙が抜けるまでは拘束は外さないわ。そんな風に凄んで見せても無駄だとすぐに気がつくわ」
串崎は手袋を嵌めたままの掌に、大きな瓶から液体を垂らして緩慢な動作で、まだ何の兆しもない工藤のペニスを掴むと、ゆるゆると動かしながら粘ついた液体をまぶしていく。
「ッく……キモチわりい。触るな。ッンなとこ、触るんじゃねえ」
ガツガツと体を揺らして床に背中を叩きつけるような動作をするが、串崎はその手を緩めることはなく、先端をくすぐるように指腹で刺激をする。
「本当は気持ちがよくて仕方ないくせに。まったく、意地っ張りね。貴方はここじゃ何の力ももたない、ただの人間……いいえ、人間以下なのよ」
面白がるように芯を持ち始めた工藤のペニスをいじりながら、顔を覗き込む串崎の顔に工藤はペッと唾を吐きかけた。
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