猛獣のツカイカタ

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
上 下
4 / 23

4

しおりを挟む

 体に加わる力の違和感に重たい瞼を開くと、あらぬ方向に手首と足首を全裸で括られていることに気付き、工藤は細い目を大きく見開いた。
 一体、これは、何だ。
 何が起こった……一体ここはどこなんだ。
 状況把握よりも先に、怒りでかああっと頭に血がのぼってくる。
 体を捻って左右に揺さぶろうとするが、鎖と革の拘束は解ける様子も見えない。視線をめぐらすと何か作業をしているのだろうか、椅子に座ったままの男を視線の先に見つけた。
「……をい。テメエ、ふざけてんじゃねえぞ、カマ野郎、今なら許してやるから、早く外せ」
 工藤は 地の底から低く唸る様な声をあげて、相手を威嚇するように睨みながら告げる。
 相手をどのように威嚇すればいいのかは、生まれついての極道である工藤には息をするのと同様にわかっていた。
 常ならば大抵の輩は震え上がって彼に逆らうことはしないのが常であった。
 串崎は椅子から立ち上がると、床に転がしたままの工藤を見下ろす。
 そして串崎は、これまで対峙してきた輩とは異なる態度を見せ、薄い唇を引き上げてまるで馬鹿にしたような表情で哂った。
「まあ、今の状況把握もできないだなんて、本当に獣以下のお馬鹿さんなのね」
「あァ、愚弄しやがって、ぶち殺されてぇのか、このカマ野郎」
 視線で威嚇する工藤に、煽って馬鹿にするように串崎はくすくすと転がすように笑いを漏らす。
「しょうがないから、教えてあげるわね」
 上から拘束された工藤を見下ろすと、壁にかけられているアンティーク風味の大きな姿見を掲げて工藤に見せ付ける。
 全裸で蛙の解剖をおこなう前のような情けない姿を晒しているのは、鏡で何度も見慣れた己の姿で、性器まで丸出しで暴かれていることに、工藤は目を白黒させた。
「ねえ、恥ずかしいでしょう。いいかげん状況の把握はできたかしら。それにしても綺麗な彫り物ね。かなりお金かけて彫らせたのね」
 串崎は、手術をする医師が使うような薄いゴムの手袋を嵌めると指先で撫でるように、炎と鬼を描かせた刺青をつつっと這わせていく。
「さ、わるな、は、ず、せ」
 自分の極道としての矜持である刺青に触れられるのを嫌がるように、逃れようと身を捩る工藤を眺め、口元を酷薄に引き上げる。
「まだわからないのね。本当にお馬鹿さん。これじゃ流石のトラさんも手を焼くわけよねえ。いいかしら?よく聞くのよ。あたしは調教師の串崎一真よ。あなたが素直に言うことが聞ける子になるようにして欲しいって、トラさんに依頼をされたの」
 本来の工藤であれば、相手が言うことを聞かない時には、組の威信をかけて潰すと脅すのであるだろうが、元より組の力を持つ男からの依頼では、そのような脅しは全く意味をもたない。
「うるせえ。虎公がどういおうと関係ねえ。四の五いうんじゃねえ。はずせって俺は言っている」
 人の話を聞く気もなく俺様な態度をとり続ける工藤に、串崎も呆れ返った表情を浮かべて肩を聳やかす。
「本当に馬鹿ね。アタシも命が惜しいもの、貴方の牙が抜けるまでは拘束は外さないわ。そんな風に凄んで見せても無駄だとすぐに気がつくわ」
 串崎は手袋を嵌めたままの掌に、大きな瓶から液体を垂らして緩慢な動作で、まだ何の兆しもない工藤のペニスを掴むと、ゆるゆると動かしながら粘ついた液体をまぶしていく。
「ッく……キモチわりい。触るな。ッンなとこ、触るんじゃねえ」
 ガツガツと体を揺らして床に背中を叩きつけるような動作をするが、串崎はその手を緩めることはなく、先端をくすぐるように指腹で刺激をする。
「本当は気持ちがよくて仕方ないくせに。まったく、意地っ張りね。貴方はここじゃ何の力ももたない、ただの人間……いいえ、人間以下なのよ」
 面白がるように芯を持ち始めた工藤のペニスをいじりながら、顔を覗き込む串崎の顔に工藤はペッと唾を吐きかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...