猛獣のツカイカタ

怜悧(サトシ)

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 佐倉は運転を部下に任せて、工藤が暴れないようにと車に載せてあった荷物用のビニールテープで手際よく両腕と両脚を縛って、さっさと後部座席に放り込んだ。そして自分も後部座席に一緒に座る。
「で、どこに連れていこうっていうんだ」
 こういう時には肝が据わっている男であれば暴れずに連行されるものだが、甘やかしすぎたのか工藤はそういうタイプではなく潔さがない。
 要するに子供なのである。
「甲斐さんのような猛獣は野放しにできねえんでねえ。どうせ破門されても行くところなんざなくて、面汚しになるだけなのは見えてんで」
「ひでえ言い様だな」
 憮然とした表情を浮かべる工藤に、くっくと佐倉は面白そうに笑い声を漏らす。
「そうは言っても、ワシも忙しいし、甲斐さんだけに構ってはらんねえんで、知り合いにでも躾を頼もうかと思ってね」
 ポケットからタバコを取り出して火をつける佐倉を見上げて、彼はうなり声を漏らす。
「……大体、俺は弓華の頼みを聞いてやっただけだ。更迭とかわけがわからねえ」
 弓華とは小西組長の娘である。今回の失態も組長の娘の逆恨みを晴らすために、粛清しようとした高校生に逆に構成員十人を壊滅させられ面目がつぶされたことによるものである。
 最初に後輩の不良たちを差し向けたところでやめておけばよかったのである。
 掟では堅気には直接手を出してはならないというもので、久住組は律儀にその掟を守っている今時では珍しい極道である。
「まあお嬢みたいな女子供のいうことを、いちいち真に受けて聞いてやってるようじゃ、極道はつとまんねえ。若頭任されてるってのに、そこまでの男だとみなされちまう。おやっさんは反省してやりなおせって言ってるだけだ」
「小西のオジキは、先代からの組員が俺につくのを怖がってるだけだろう」
 佐倉は工藤が全く反省の色を見せていないのに、煙草の煙を吹きかけ、心底呆れた表情を浮かべた。
「おやっさんはそこまで肝がちっせえ人じゃねえよ。甲斐さんなど、全然脅威でもねえ。ワシは甲斐さんの補佐だったけども、ワシがおやっさんの左なんはかわらんしなあ」
 佐倉はひとりごちで、二十七歳になる若頭筆頭だった男を見下ろした。
 気風と度胸は先代譲りではあったが、頭の方はあまり回るほうではない。それにどちらかといえば、小西は先代の考え方については擁護派である
 このまま工藤が、小西と反目してしまうとことは厄介である。反目に乗っかって反小西の連中が工藤を抱きこむ可能性がある。
 危険な因子は問題がおこる前につぶしてしまわなくてはならない。
 佐倉はふうっと息をついて算段をおこなうように、工藤を見やる。
 まだ歳若いからと補佐についたが、補佐っていう補佐もできなかったと、自己反省することしきりである。
「ハッ、更迭になった途端に鞍替えかよ」
「そもそもワシがおやっさんを推したンでね。ンなこと言ってるようじゃ、ホントに荒療治が必要みたいだ」
 工藤の言葉に首を振って、外の風景を眺めて車が停まったのを確認すると、煙草を座席の灰皿に押し付けて腰を少し浮かせた。
「着きましたぜ」 
 後部座席のドアが開くと、載せた時同様に肩に担ぎ上げた。
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