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「ち、時限爆弾か」
「あの木箱が爆発した。重みが減ると、爆発する仕組みかもしれない」
「……う……っ……」
 統久は派手な爆弾の音と焦げ臭いに微かに瞼を開いて、低い声で呻いて身じろぎする。
「隊長、意識戻ったのか。とりあえず、ここから脱出するぞ」
「待ってくれ、やばい。なんか撒かれてる」
「火の回りが速いな。オイル……だな」
 爆発の割りに火が部屋の中を走る速度に焦ってシェンがいち早く走り出す。
「ッああ……せる、じゅ……ごめん……ッ」
 掠れた声で謝罪をする統久に、セルジュは頭を横に振ってシェンの背中を追って走り出す。
「そんな場合じゃない。とりあえず、地上にあがる。ちっと熱いけど我慢してくれ」
 上着を着せておいてよかった。少しくらいは熱を遮断できるかもしれない。
 火が差し迫ってくるのを振り切って、先に地上にあがっていたシェンが腕を差し伸べてくる。
 統久だけでも先に地上にあげた方がいいだろう。
 身体の抵抗力は下がっているだろうし、煙を吸ったら胎児にも影響が出てしまう。
 セルジュは必死の形相で、シェンに統久を地上へあげるように受け渡す。
「た、のむッ」
「オマエも早くあがれッ」
 中にあるものが引火して、更に爆発を強めているのか熱風が背中を焼くような熱さで降りかかってくる。火が足元に飛んでじりじりと足が燃え始めてうまく動かせない。
「馬鹿ッ、遅え。いいから上にあがってこい。一酸化炭素中毒で動けなくなるぞ」
 統久を引き上げたシェンは必死の形相で腕を伸ばして、声を荒げる。
「ッ……ち、く、しょッ」
 熱でひりつく足を必死に動かし、細い鉄の階段を一気に駆け上がった。
  中を覗くとごうごうと炎と真っ黒な煙で充満しているのを確認し、セルジュはすぐに床の蓋を閉めた。
「大丈夫か、足焦げてるけど」
「ああ、ちょっとだけ火傷したくらいだ。ッふー、ふ、うう、いつ崩れるかわかんねえ、長居は無用だな」
 実際はかなりの火傷を負っていて動かすのが困難だったが、そんな場合ではない。
 セルジュはシェンから統久を受け取ると、早足で入り口まで向かいだす。
「ま、まって……くれ。て、てじょう、と……あしかせ……がッ、ばくはつする、かいじょ、できないっ」
 掠れた声で必死に外に出るのを制止する統久に、セルジュは足をとめて、細い手足を眺めるが手錠も足枷もついていない。
「そんなもん、ついて無いぞ」
 統久は腕も足も動かすことができないのか、枷の感覚もつかめないのか首を軽く横に振る。
「ほら、見ろよ」
 セルジュは腕をとってその手首に何もついていないことを確認させて、やっと落ち着いたかのような表情を浮かべたが、ドカンドカンと響く砲撃の音にハッとして悲痛な声をあげた。
「……ッ……あ、あ、あゆみが、あゆみが中に……ッ」
 統久の言葉に一瞬何を言っているのか分からず混乱しているのかと目を覗き込む。
「局長が?どうして、アンタを助けにきたのか。確か、今週から休暇をとるって言ってたが」
 もしかしたらここの情報を仕入れて、自分のように休暇を取って彼を助けにきたのかもしれない。
 だとしたら、自分にも教えてくれればいいのに。
 一番近くにいると思っていた自分の上司が、こんな大事な情報を黙っていたことに腹が立ちながらも、セルジュはうでを統久の腕をぎゅっと握り締めた。
「たすけて、くれ。あゆみを……あゆみ……がッ」 
 統久が、誰より大切だと告げた弟のことである。
 もしここに来て捕らえられているならば、自分が救わないわけにはいかないだろう。
「分かってる。……大丈夫だからな。少し、やすんでおけよ」
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