19 / 26
19
しおりを挟む「ち、時限爆弾か」
「あの木箱が爆発した。重みが減ると、爆発する仕組みかもしれない」
「……う……っ……」
統久は派手な爆弾の音と焦げ臭いに微かに瞼を開いて、低い声で呻いて身じろぎする。
「隊長、意識戻ったのか。とりあえず、ここから脱出するぞ」
「待ってくれ、やばい。なんか撒かれてる」
「火の回りが速いな。オイル……だな」
爆発の割りに火が部屋の中を走る速度に焦ってシェンがいち早く走り出す。
「ッああ……せる、じゅ……ごめん……ッ」
掠れた声で謝罪をする統久に、セルジュは頭を横に振ってシェンの背中を追って走り出す。
「そんな場合じゃない。とりあえず、地上にあがる。ちっと熱いけど我慢してくれ」
上着を着せておいてよかった。少しくらいは熱を遮断できるかもしれない。
火が差し迫ってくるのを振り切って、先に地上にあがっていたシェンが腕を差し伸べてくる。
統久だけでも先に地上にあげた方がいいだろう。
身体の抵抗力は下がっているだろうし、煙を吸ったら胎児にも影響が出てしまう。
セルジュは必死の形相で、シェンに統久を地上へあげるように受け渡す。
「た、のむッ」
「オマエも早くあがれッ」
中にあるものが引火して、更に爆発を強めているのか熱風が背中を焼くような熱さで降りかかってくる。火が足元に飛んでじりじりと足が燃え始めてうまく動かせない。
「馬鹿ッ、遅え。いいから上にあがってこい。一酸化炭素中毒で動けなくなるぞ」
統久を引き上げたシェンは必死の形相で腕を伸ばして、声を荒げる。
「ッ……ち、く、しょッ」
熱でひりつく足を必死に動かし、細い鉄の階段を一気に駆け上がった。
中を覗くとごうごうと炎と真っ黒な煙で充満しているのを確認し、セルジュはすぐに床の蓋を閉めた。
「大丈夫か、足焦げてるけど」
「ああ、ちょっとだけ火傷したくらいだ。ッふー、ふ、うう、いつ崩れるかわかんねえ、長居は無用だな」
実際はかなりの火傷を負っていて動かすのが困難だったが、そんな場合ではない。
セルジュはシェンから統久を受け取ると、早足で入り口まで向かいだす。
「ま、まって……くれ。て、てじょう、と……あしかせ……がッ、ばくはつする、かいじょ、できないっ」
掠れた声で必死に外に出るのを制止する統久に、セルジュは足をとめて、細い手足を眺めるが手錠も足枷もついていない。
「そんなもん、ついて無いぞ」
統久は腕も足も動かすことができないのか、枷の感覚もつかめないのか首を軽く横に振る。
「ほら、見ろよ」
セルジュは腕をとってその手首に何もついていないことを確認させて、やっと落ち着いたかのような表情を浮かべたが、ドカンドカンと響く砲撃の音にハッとして悲痛な声をあげた。
「……ッ……あ、あ、あゆみが、あゆみが中に……ッ」
統久の言葉に一瞬何を言っているのか分からず混乱しているのかと目を覗き込む。
「局長が?どうして、アンタを助けにきたのか。確か、今週から休暇をとるって言ってたが」
もしかしたらここの情報を仕入れて、自分のように休暇を取って彼を助けにきたのかもしれない。
だとしたら、自分にも教えてくれればいいのに。
一番近くにいると思っていた自分の上司が、こんな大事な情報を黙っていたことに腹が立ちながらも、セルジュはうでを統久の腕をぎゅっと握り締めた。
「たすけて、くれ。あゆみを……あゆみ……がッ」
統久が、誰より大切だと告げた弟のことである。
もしここに来て捕らえられているならば、自分が救わないわけにはいかないだろう。
「分かってる。……大丈夫だからな。少し、やすんでおけよ」
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
後発オメガの幸せな初恋 You're gonna be fine.
大島Q太
BL
永田透は高校の入学時検診でオメガと判定された。オメガの学校に初めてのヒート。同じ男性オメガと育む友情。そして、初恋。戸惑う透が自分のオメガ性と向き合いながら受け入れ。運命に出会う話。穏やかに淡々と溺愛。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
没落貴族の愛され方
シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。
※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる