4 / 26
4
しおりを挟む
セルジュは二人のやりとりに、それまでの関係がどういうものだったかを悟ったが、それについてとやかく言う気にはなれなかった。
あの発情期を一人きりで堪えるには、精神的にも肉体的にも無理が出る。
番になる前に一度だけ垣間見た彼の発情期は、酷く淫らで苦しげで……そして悲哀に満ちていた。
アルファを求めてしまう体を抑えるために、気持ちがまったく無かったとしても、体の充足を得るために縋りたくもなるだろう。
「それにしても、ディーナルに連なる者が婿養子とは、よく親御さんが赦したな」
遠野はセルジュの顔をしげしげと眺めて、面白がるような表情を浮かべた。
「……ディ?いやオレには親はいないんで。 ……養父母は、鹿狩の家から多額の結納をいただいたので喜んでいたくらいですよ」
「その金の眼と髪で、ディーナルと無縁だとはいえないと思うが……」
遠野は少し考え込んだが、それ以上そのことには触れないほうがいいかもしれないと呟いてから、ちらと窓の外を眺めた。
ディーナル……。
統久は少し驚いた表情をしたが、自分の伴侶の容姿を眺めてそういえばと顎先に手をやった。
「ディーナルの縁者で参列している人もいるだろうからな、そのうち嫌でも分かるんじゃないかな。まあ、それで離縁になって、もし野良のオメガになったら私が飼ってあげるよ、統久」
祝いの席にふさわしくない不吉な言葉を続ける遠野に、さすがの統久もむっとした表情を浮かべた。
「確かにディナールの直系一族は金の眼に赤い髪だったな。セルジュのは黄土色に見えるが、珍しくもない配色だろう。たまたまじゃないか」
「アルファでさえなければね。私は、君がまた傷つくのではないかというのが心配なんだよ」
遠野のうわべだけに聞こえる言葉に、統久は眉を寄せた。
ディナール皇家は、人類が宇宙に出る前に権勢を誇っていた王家の一族である。
人類が宇宙に出た後に発現した第三の性アルファを積極的に研究をおこない、人為的にアルファの血統を作った先駆けであった。
人為的な操作をおこなったが故に、その血統は他と逸している金の瞳と赤い毛髪をもっていると言われていた。
どちらにしろ、ディナール皇家が出てくるのは、面倒な話になりかねない。
「とりあえず、セルジュ、今から黒髪にでも髪の毛染め直す?」
「今からって、披露宴に間に合わないだろ。気にしないでいいよ、何があってもアンタと別れる気はないし」
遠野の言葉に気にするなと統久に告げてセルジュは、余計なことは言うなと非難するように遠野を強く見返した。
「悪いな。じゃあ邪魔者はさっさと退散いたしますか」
遠野は軽く頭を下げると、統久の不安な顔に少しは気が晴れたのかにこやかな笑顔を浮かべて手を振って出て行った。
「ホントに腹黒いヤツだ……。だから、どうしても好きになれねえんだよな。アイツのことは」
遠野を見送ってから暫く黙り込んでいたセルジュは、ぽつりと口を開いた。
「オレは、父親を知らない。覚えてもいないし捨てられたわけだし、そんなのに振り回される気もない」
きっぱりと告げられて、統久はこくりと頷く。
いつでも心を落ち着かせる言葉をくれる彼には、番になってくれたことに感謝しかない。
顎先をとられ柔らかい唇が覆いかぶさり、ちゅくちゅくと啄ばむ様にくくちづけを施されて、統久は心地よさに身体を預けた。
不安に思うようなことはない。いつまでも傍にいてくれると言った言葉を、統久は信じていればいいのだ。
あの発情期を一人きりで堪えるには、精神的にも肉体的にも無理が出る。
番になる前に一度だけ垣間見た彼の発情期は、酷く淫らで苦しげで……そして悲哀に満ちていた。
アルファを求めてしまう体を抑えるために、気持ちがまったく無かったとしても、体の充足を得るために縋りたくもなるだろう。
「それにしても、ディーナルに連なる者が婿養子とは、よく親御さんが赦したな」
遠野はセルジュの顔をしげしげと眺めて、面白がるような表情を浮かべた。
「……ディ?いやオレには親はいないんで。 ……養父母は、鹿狩の家から多額の結納をいただいたので喜んでいたくらいですよ」
「その金の眼と髪で、ディーナルと無縁だとはいえないと思うが……」
遠野は少し考え込んだが、それ以上そのことには触れないほうがいいかもしれないと呟いてから、ちらと窓の外を眺めた。
ディーナル……。
統久は少し驚いた表情をしたが、自分の伴侶の容姿を眺めてそういえばと顎先に手をやった。
「ディーナルの縁者で参列している人もいるだろうからな、そのうち嫌でも分かるんじゃないかな。まあ、それで離縁になって、もし野良のオメガになったら私が飼ってあげるよ、統久」
祝いの席にふさわしくない不吉な言葉を続ける遠野に、さすがの統久もむっとした表情を浮かべた。
「確かにディナールの直系一族は金の眼に赤い髪だったな。セルジュのは黄土色に見えるが、珍しくもない配色だろう。たまたまじゃないか」
「アルファでさえなければね。私は、君がまた傷つくのではないかというのが心配なんだよ」
遠野のうわべだけに聞こえる言葉に、統久は眉を寄せた。
ディナール皇家は、人類が宇宙に出る前に権勢を誇っていた王家の一族である。
人類が宇宙に出た後に発現した第三の性アルファを積極的に研究をおこない、人為的にアルファの血統を作った先駆けであった。
人為的な操作をおこなったが故に、その血統は他と逸している金の瞳と赤い毛髪をもっていると言われていた。
どちらにしろ、ディナール皇家が出てくるのは、面倒な話になりかねない。
「とりあえず、セルジュ、今から黒髪にでも髪の毛染め直す?」
「今からって、披露宴に間に合わないだろ。気にしないでいいよ、何があってもアンタと別れる気はないし」
遠野の言葉に気にするなと統久に告げてセルジュは、余計なことは言うなと非難するように遠野を強く見返した。
「悪いな。じゃあ邪魔者はさっさと退散いたしますか」
遠野は軽く頭を下げると、統久の不安な顔に少しは気が晴れたのかにこやかな笑顔を浮かべて手を振って出て行った。
「ホントに腹黒いヤツだ……。だから、どうしても好きになれねえんだよな。アイツのことは」
遠野を見送ってから暫く黙り込んでいたセルジュは、ぽつりと口を開いた。
「オレは、父親を知らない。覚えてもいないし捨てられたわけだし、そんなのに振り回される気もない」
きっぱりと告げられて、統久はこくりと頷く。
いつでも心を落ち着かせる言葉をくれる彼には、番になってくれたことに感謝しかない。
顎先をとられ柔らかい唇が覆いかぶさり、ちゅくちゅくと啄ばむ様にくくちづけを施されて、統久は心地よさに身体を預けた。
不安に思うようなことはない。いつまでも傍にいてくれると言った言葉を、統久は信じていればいいのだ。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
後発オメガの幸せな初恋 You're gonna be fine.
大島Q太
BL
永田透は高校の入学時検診でオメガと判定された。オメガの学校に初めてのヒート。同じ男性オメガと育む友情。そして、初恋。戸惑う透が自分のオメガ性と向き合いながら受け入れ。運命に出会う話。穏やかに淡々と溺愛。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる