斬り裂くのは運命と識れ【完全版】

怜悧(サトシ)

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謝らないで欲しくて仕方がなかった。謝られるだけ、それだけ、何もできない自分が悔しくて悲しくなる。彼女を救えなかったように、また、彼を救うことができないのだろうか。
「なあ、オレがアンタを噛んだら…………。アンタのヒート収まるか?」
 思わず聞き返すと一瞬だけ統久は目を見開いて驚き、桑嶋の顔を見返したが、暫くしてからすっと表情を戻すとポンポンと桑嶋の頭をそっと撫でて首を横に振る。
「セルジュ、オマエは優しい奴だな。噛むっていうことは、俺の番になってくれるってことか。そんな同情とかはいらねえし、これは俺の問題だから気にするな」
 辛くないわけじゃないけど、もう慣れているから大丈夫なのだと告げて、統久は自らの身体を見下ろした。
 華奢でもなく、自分より劣る存在を潜在的に守ろうとするアルファには、自分の存在が愛されるものではないとは、なんとなく統久には分かっていた。
 気まぐれな同情で番うことで、後で傷つくのは桑嶋の方だろうと思う。
 年長者としては、そんな同情に流されてはいけないというのは統久には分かっていた。
「同情じゃない。そりゃ、オレは嫁ぎ先を逃げ出したオメガの子で、ベータに育てられた身分も何もないアルファだけど、いつかは成り上がってやるから……だから」
 頭を撫でていた腕を掴まれて統久は目を見開いて、真剣な表情の桑嶋を見返す。
 まるでプロポーズだ。
「セルジュ。オマエは、まだヒートに酔ってんだと思うけどな。オメガの発情期を目の当たりにするのは初めてだろ?」
 諫めるように諭すと桑嶋を見返した統久は、まるで傷ついたような表情にぶつかり、焦って思わず言い直す。
「……気持ちは純粋に嬉しいよ。素直に受け取れないのは、俺の防衛本能だ。……一緒に子供を作ってほしいし、だから、ヒートが終わって次のヒートも俺を噛みたいと思ってくれんなら同じこと言ってくれよ」
 提案された言葉に桑嶋は頷いた。
 「人のことばっか考えて悠長してたら歳食うぞ。1年に1人産んだとして、5人産むのに何歳になるんだ?アンタも歳考えろよ、高齢出産はキツイだろ」
 何度も見合いしたと言っていたが、普通の気位の高いアルファの男に、この性格じゃあ断られてしまうのはわかる。
 ガツガツしてそうなのに、肝心なとこで人のことばかり気にしている。大体ヒートはアルファを惑わせる為のものなのに、それを利用すらもできないお人好しだ。
 これじゃあ、婚期とか言ってる場合でもないだろう。
 いつでも本気なのかどうなのかすら分からずへらへらとして、まるで誠意のない男だと思い込んで嫌いだった。
 だけど、それがすべて防衛本能ゆえの行動だとしたら。
 桑嶋は統久をヒートの苦しみから救わせて欲しいと心から願った。
「くはっ、セルジュ、おもしれえとこ心配すんだな。そんときゃ5つ子でも産むか」
 軽くベッドで身体を伸ばして、彼は困ったような顔を桑嶋に向けると、ホントに優しい子だねと笑いかける。
「実際はさ、それが運命だっていうなら受けて立つみたいな意地で5人とか言ってるだけだからさ」
 饒舌に語りながら投げやり気に言うが、面白がるような表情で唇を舐める。
「確かにオレが会ったオメガの奴らは運命に恨み言しか言ってなかった」
「他の奴と俺は根本的に違うだろ。俺は頭脳明晰だし、身体能力ずば抜けてるし、顔もイケメン過ぎるだろ。オメガでプラマイゼロ、いやそれでもプラスだからさ」
 普通の奴が言ったら引くが、彼にはオメガ性を差し引きしてもあまりある能力があるのは頷けた。
 運命を受け入れた上で、それを超えようとする彼が勇ましく、だけど毎度あのような発情期を迎えるとしたらと考えるとそれが悲しくも思えた。
「オレは、次のヒートもアンタを抱ける気がします」

 彼は桑嶋の言葉に何も返さず、まるで期待などはしていない表情でただ目を閉じて口元に笑みを刻んだだけだった。

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