竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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番外編:旅行に行こう

※3

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「っ、やッ、たけお、ああ、もっ、とぉ、ぬかな.....っで」
ずるっと身体の奥から引き抜かれる感覚に、物足りないと震えながらねだる声に、虎王は大きく息を吐いて気を鎮めるように士龍の背中を撫でる。
「士龍、変な黒い雲が近づいてきてっから.....、夜にいっぱいしような」
身体をぐいと引き寄せて、虎王は士龍の涎塗れの唇を舐めてもくもくとした雲を指さす。
天気が急に変わることは南の島ではよくあることらしい。
気だるげに空を見上げた士龍は、こくりと頷いてぼんやりと雲が流れるのを見ていたが、ハッとして体を少し起こし直す。
「Es ist .....ernst!.....トールくん、たち、えんえーって、だいじょ、ぶかな」
頭を何度か振って翻訳機能を回転させているのか、たどたどしい言葉で紡ぐ。
慌てる士龍の様子に虎王は、海を眺めて少し波が高くなってるかもなと呟いて水着を上に上げて履き直すと、
「ハセガワか居ればなんとななるんじゃねえかな。無敵だし」
「自然相手で、無敵 かんけーない、よ」
士龍もカピカピになっていると呟きつつ、水着を引き上げると、フラフラしながら体を洗うためにか海の中に入っていき、歩いて元の砂浜の方に向かっていく。
虎王は岩場に残されたビニールボートを抱えて、その背中を追い掛けた。
「まさか、波に飲まれたりして無いと思うけどな」
「でも、さっき海兵さんが大きい渦があるって言ってたし」
「あ、それ、ハセガワたちに話したのか?」
「あ、言うの忘れた」
どうしようと言って、少し不安そうに視線を揺らす士龍の肩を背後から虎王は抱き寄せる。
「とりあえず、元のとこに戻るぞ。あっちも雲に気がついて戻ってきてるかもしれねえからな」
あんまり心配してんなよと、囁き腰まで浸かりながら海を歩く士龍に合わせて横を歩いていく。
大粒の雨が上半身にパツパツ当たり始める。
「何にもないならいいんだけど....」
生温い風と雨が不安をより一層煽るのである。
「あっちに戻ってきてなけりゃ、通報して救助を待つか」
大股で歩き始めた途端、ザーザーと打ち付けるような激しい雨粒に、士龍はふらつく身体にムチを打ち、海からあがると砂浜を全速力で駆け出した。


元の場所に戻るが人影はまったくなく、降りしきる大粒の雨と荒れ始めた紺色になった海を眺めて、士龍は息を飲んだ。
泳ぐことができれば、そのまま探しに飛び込んだのだろうが、カナヅチでは二次災害必至である。
左右を見回して、遠くを見つめるが何も見えない。
「たけお、俺、救助の通報してくる」
「士龍、大事にしたらヤバくないか?ホテルに戻ってきてるかもだろ」
「戻ってきてたら、絶対トール君たちは俺らを待ってるはずだし、ンなこと言ってられねえよ。まだ、戻ってきてないんだ。何かあったに決まってる」
「てか、ついた島でいいことしてて、雨宿りしてるかもだろ」
救助を呼んでそれを見られたらヤバいだろうと推測する虎王に一理あるとは思うが、もし溺れていたりしたら迷いは仇にしかならない。
士龍は首を横に振る。
「そんときは、寒さに身を暖めあってたとか、遭難だし、なんか言い訳するよ、ヤッちゃんが」
「そりゃそうだけど、なあ」
猶予は無いのだと言って、ホテルの入口に置いておいたバッグから携帯を取り出して、警察へと連絡を入れようとする。
「焦ったって仕方がないけど、ここで待ってるだけとか、俺は無理。泳いで行けたら、すぐに行くのに!」
すぐに電話が繋がったのか士龍が状況を説明し始めると、雲がパッとはけてまたゆっくりと明るい空に変わっていく。
仲間思いで友達思いだよなと、感心しながら虎王は、だんだん波が静まっていく海を眺める。
「おい、あれ、あの影じゃねえかな」
虎王が指さす先には小さな黒い点が見え、徐々に近づいてくる。
士龍は話していた電話を握り締めながら、影を視線で追いかける。
背中に康史を乗せた東流は、浜にあがると康史の身体を降ろして気遣うように背中を撫でている。
士龍たちは、慌てて二人に駆け寄った。
「遅いよ!もう救助隊呼ぼうとしてたんだ」
士龍は心配し過ぎたのと安心からか珍しく怒った口調で東流に食ってかかった。
「途中でよ、すげえ雨になったから、止むまで避難してた。ワリィな」
「ああ……まあ、無理して帰ってくるより、正解だよ」
雨の中じゃ泳ぐのは危ないだろう。
士龍は胸を撫で下ろしながら、深く息をつく。
「あそこの岩場より先は危ないんだって言われて、えんえーとか言ってたから」
「マジで?なんで?」
東流は、危ないという言葉に首を捻って海を見渡す。
「なんか、渦潮のたまりって場所があってあぶなくて、死人が出たらしいよ。海兵の人が言ってたから。大丈夫だった?」
「あー、それか。大丈夫じゃなかったかな」
康史は先に確認しておくべきだったとぼやいて、士龍の顔をじいっと見て、
「先に聞いてたりした?シロ」
「あー、うん。2人が泳ぎに行った時は忘れてたかな。まあ、無事で何よりだよね」
東流は康史を見てから、士龍の顔を剣呑な顔をして見返す。

「シロ、腹でいい。1発だけ殴らせろ」 
「っちょ、勘弁。しんじゃう」
慌てて士龍は東流がら一歩飛び退いて首を振る。
「死なない死なない、ヤスが溺れて危なかったんだ。それくらいいいよな?」
「痛いのイヤだ、えんえーの意味がすぐに分からなくて、うっかり言うの忘れた」
ぶんぶんっと首をを振る士龍の前に虎王は阻むように立って、頭を下げる。
「オレが代わりになりますから、すんませんが.....」
「トール、馬鹿言ってねえの」
「.....冗談だ。まあ、ヤバかったのは確かだけどな。気にすんな」
士龍の肩をぽんと叩いて、ホッとした士龍はあっと思い出したように救助隊呼んだのキャンセルしなきゃと電話をかけた。
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