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愛多憎生
※108
しおりを挟む「だいじょうぶ………か…ッ、士龍……!?」
視界がぐらぐらとブレて見える。
なんかに揺さぶられてんのかなとか考えてると、ようやく焦点が合ってきて、必死に俺を呼ぶ泣きそうな面した虎王の顔にぶちあたる。
…………なに泣いてやがんだ、コイツは案外泣き虫だよな。
死んだわけじゃ、あるまいし。
ぼやけた視界の中の虎王に手を伸ばしかけてから、なんかぬるぬる汚い液まみれの自分の様に思い当たり、そのまま拳を握りこんで下ろした。
触ったら虎王まで汚してしまうみたいで、なんだかひどくイヤだった。
「…………ッと、飛んで、たみてぇ。どんくらい、たったかわかる、か」
重い頭をあげて周りを見回すと、小倉たちは既にここには居ないようだ。
「終わって、から……三十分は、経ってない」
俺の様子に虎王は複雑そうな表情を浮かべる。
正直言えば日高みたいに記憶とか消せたら、どんなに楽だろう。しかし残念だが俺の場合は、残念ながらバッチリ記憶もあるようだ。
俺はコンクリ床に散らばったままの服を掴むと、松葉杖を引き寄せる。シャツは破かれたんだったな。まあ、コートは外にあるし。
「トイレで軽く身体を拭って服着てくるから、待ってろ」
「待って、手伝う、よ」
「…………オマエはくんな。そこで待っててくれ」
泣きそうな面でこれ以上汚れた自分を見られるのは、普通に精神的に苦痛だ。いつもは、綺麗に拭いてくれる虎王が俺に触れられなかったのは、多分もう触れたくないからだ。
かなり激しく使われたのか、中までピリピリとした痛みと鈍痛がきている。
倉庫の中のトイレに入ると、トイパで身体を拭って軽くいきんで腹の中のものを出す。
泣きたいのは俺の方なんだけど、そういう感傷みたいなもんは不思議となかった。
便座に座りながらズボンを履いて、軽く手洗いでウガイをしてから、松葉杖を使って倉庫の中に戻る。
なんだか呆然としきったままの虎王の肩を叩くと、半裸の俺にあわてて自分のシャツを脱いで肩にかけてくれる。
「シャツ…………オレの着てくれよ」
虎王は学ランの襟をしめて、俺の体に触れようかどうしようか躊躇っているようだった。
もう、触れてはくれないかもしれないな。
「ワリィ、ありがとな。じゃあ、いくか」
「あ、ああ。病院戻るんだよな。バイク学校だから、ちと取ってくる」
ゴシゴシと目元を拭って、虎王は振り返る。
まだ、泣いてたのか。泣かせたくはなかったんだけどな。
「不正解。これから小倉んとこ、ツブシにいくんだよ。ミッチーには、先に指示しといた。今何時?」
二十時に俺が戻らなきゃ決行しろとは伝えている。
「っ、て、ムチャだ。士龍、そんなカラダで潰すとか」
「何時?」
慌てる虎王に、俺は静かに怒りを抑えながら聞いた。
「十八時半だ……あんま……無茶は……」
「オッケー、すぐにバイク持ってきて。今回は完膚なきまでに、ブッ潰す。どうせ脅迫してくるつもりだろうが、動画とか関係ない。オマエも、手え貸せよ」
俺は扉から外に出ると、上着を隠したドラム缶へと松葉杖ついて歩み寄る。上着をドラム缶から取り出し、胸ポケットに入れていたタバコを取り出すと一本咥える。
痛み止めにはならないけど、少し気が楽になるかなと火をつけて一服吸い込んだ。
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