竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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愛多憎生

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 これまではアプリのIDだけだったが、こないだ携番を聞いた時、なんとなく兄弟のテーマで探して兄弟船とアナ雪で迷った末に選んだ。
 俺はスマホをひっつかんで通話ボタンをタップする。
「もしもし、たけお、無事か?」
『ざーんねーんでした。呼ばれてないけど、ミネちゃんですよォ、げんきですかあ』
 妙に上ずった耳障りな峰声に俺は苛立つ。
「をい!ミネ、オマエ、うちのショーへーに何してくれてンだ、宣戦布告か?」
 虎王のスマホを持っていることからして、イヤな予感しかしない。
 しかし俺も腹の中が煮えくり返っていて、いつになく怒鳴り声をあげた。
『あらあ、呼び捨てされるほど士龍がマジおことか珍しいね。俺も将兵に肋骨折られてボコボコにされたんだし、おあいこでしょ。殺人犯になりたくないし、急所は外したよ』
 ヘラヘラした声をあげて、峰はわざとなのか俺の癪に触るような口調で続ける。
『この電話してる時点で、察してるだろ?士龍のダーリンも預かってるよん。キャハハ。返してほしければ、1人で学校の横の空き倉庫にあと1時間で来い。1人でな。そうしねえと、ダーリンの口の中でトマトジュース作っちゃうぜ』
 わかりやすい、脅迫だ。
 ピロリと音がして、倉庫に半裸で拘束された虎王の姿が写った画像が送られてくる。
「ハルちゃんの命令?」
『士龍が悪いんだぞ。ハルカを刺激するような事を言うからさ。俺だって今更戦争とかバカやりたくねえよ』
 峰は意味深なことを言って、通話を切った。
「士龍?」
 道郎が俺の顔を覗きこんで、ヒッと声を出して息を飲んだ。
 きっと、いま、俺はひでぇ顔をしている。
「ミッチー、ガッコの隣の倉庫までバイクで乗せてってくれ」
「みんなで一斉に襲撃するか?」
 道郎の言葉に俺は首を横に振った。
「たけおが捕まってるから、それはできない。俺はとりあえず1人で倉庫にいく。ミッチーはナオヤたちを集めてと合流して、小倉ンちの裏のバラックの近くに集合しといてくれ」
 一斉襲撃なんかしたら、虎王はただじゃすまないだろう。
 画像の虎王の口にはガラスのようなものが入って見える。古い白熱灯だろうか。口の中で割ったら痛いだろう。
「士龍は?」
「んー、フクロくらいで済めばラッキーだな。殺されはしねえだろうし、たけおを助けたら合流する」
「またダメな癖でてるぞ。もっと自分を大事にしろよ!」
「時には、自分より大事なもんが男にはあンだよ」
 俺の言葉に止めても無駄だと悟り、道郎はため息をついて部屋の入口にある車椅子を転がしてと座れと顎で示す。
「悪いな」
 俺は車椅子に座ると、道郎は、車椅子を押して病院の出口に向かってくれた。
「ばっか、士龍には数え切れねーくらいの借りがあんだよ」
 
 

 倉庫に着いて道郎のバイクから降り、メットを外して渡して返す。
 道郎はまだ迷っているのか、手に持ってきた松葉杖を地面にたてて、深く息を吐き出した。
「士龍、やっぱり1人で行くのかよ。怪我してるのに1人でなんて、やめた方がいい。俺らが近くで隠れて……」
 道郎がメットごしに不安そうな声をだす。
 こっちは怪我もしてるし、大した抵抗もできないから、悪くしたら半殺しかもしれない。
「一人でこいと指定だ。仲間が見つかったら、虎王の安全が保証できない。俺が戻らなくて連絡もなかったら、二十時に、小倉の家のバラックを襲撃。油断してるだろうし、数でいけば詰ませられる」
「分かってるけど、士龍がひでえ目にあう必要はねえだろ」
 話によれば、虎王の派閥が一網打尽にされて、助けに行ったところを捕まったとのことだった。
 武闘派の虎王の派閥でも、病院送りにされて動ける奴は少ないようだ。
「コッチはリタイヤしてるのがショーちゃんだけだからな。数で押せば勝機はある。お願いだ、ミッチー、頼む」
 俺の言葉に少しだけ驚いた表情をみせる。
 仲間に頼ったことが、今までなかったからかもしれない。
「分かった。任せておけ。士龍、無理はするなよ」
 俺の言葉に道郎は力強く引き受けると、メットをしまってバイクで走り去った。
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