竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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密月陽炎

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「なんだよ、シローちゃん。結婚会見しにきたんだって?」
 ニヤニヤしながら出てきた背の高いツーブロックの茶髪の男は、東高のトップである小倉遥佳(はるよし)である。
 三白眼で目つきは悪く何を考えているかわからない。
「あ、ハルちゃんじゃん。久々だねえ。まあ、俺の彼氏を自慢にきたのよ」
 一番の諸悪の根源ではあるのだけど、入学早々にワンパンで沈めてからは、俺に手は出してこない。
 正攻法では勝てないとは思っているようだ。
「ついに男に走ったって……。へえ、そんなに具合いいならさ、1度使わせてよ」
 小倉は、虎王の背後に回ってケツを撫でる。虎王は青筋をたてているが、流石にトップの小倉相手にはすぐにキレられないのか我慢しているようだ。
「そっちじゃない、たけおは、イイちんこしてる。ハルちゃんには貸してあげないけどね」
 そっちは未開の地だよと小倉の腕をぎゅっと掴んで、俺のだから触らないでねと釘を刺す。
「マジで?シローちゃん、もう処女じゃないのね」
「残念ながら、俺の処女は、たけおに捧げたのよ」
 胸を張ってそう言うと、小倉は酷く嫌そうな表情をして俺を見返す。もしかしたら、ホモが嫌いとかそういうタイプなのかもしれないな。
「悪食すぎねえか、オマエ。富田派の富田だっけ。こいつを落としたのは、打算のためか?」
 小倉は虎王を敵意をもった眼差しで睨みつけ、ぐいっと詰め寄るのに、俺は小倉の動き次第で助けに入れるように身構えた。
「そんなんじゃねえですよ。士龍は。……どんなオンナより、可愛くてエロくて、たまらねえからッすよ」
 低い声で威圧にも負けずに言葉を返す虎王が、いつもよりカッコ良く見えるのは、惚れた欲目なのだろう。
 小倉はへえと呟いて俺に向き直ると、ひょいっと俺のケツを触る。
「シローちゃん、俺にもヤらせてよ?」
 ホモが嫌いってわけでもないのかな。どっちにしろ、そんな誘いにほいほい乗るわけがない。
「ヤダ。俺は一棒主義よ。それに、ハルちゃんは、彼女いるでしょ。浮気はよくねえよ」
 小倉の手をぺちんとはたいて、じゃあねと手を振ると、虎王の背中を軽く叩いて資料室へと入る。
 資料室と言っても、物置きではなく教室とほぼ変わらない。 壊れた教卓の前の椅子が、俺のいつもの定位置なので迷わず座る。
「士龍、いいかげん小倉をかまいすぎ。かまうと調子乗るからさ、アイツ」
 将兵は、ちょっと不安がるような不機嫌な表情になりながらも、俺の前に菓子パンといちごみるくを置く。
 なんだかんだ将兵は俺の好きなものは、すぐにどこからか調達してくる。
「ハルちゃんは俺に対しては口だけだしな。よくトール君には突っ込んでって壊滅してんのにさ」
 教室には、3年のいつものメンツが揃って麻雀をしている。 去年までは幹部として俺を支えてくれてたメンツだ。
 みんな就職が決まったので、こいつらのことは喧嘩とか余計なことには関わらせたくはない。
 それに、虎王をテッペンにしたいから余計なチャチャが入る前にこいつらにはちゃんと言わないとならない。
「しかしマズイな。小倉は士龍が大好きだからよ。ハセガワ潰しにいってたのも、士龍に認められたかったからだろ」
 将兵はタバコに火をつけながら、俺の顔をひどく困ったような顔をして覗き込む。
「それが、士龍は抜け忍の富田とお付き合いなんかしだすし、知らなかった小倉は荒れるんじゃねえの」
「抜け忍て、ココは忍びの里かよ。にんにん。俺もテッペンとかいらねえしなあ。テッペン欲しけりゃ、まあ抜けるしかないだろ?にんにん」
「まー、そうだけどよ。大体さあ、ホントにこのショボいのにどこに惚れたのよ。士龍ならオンナも選び放題だったじゃねえの。喧嘩だって、士龍には勝てそうじゃねえだろ」
 ちらっと虎王を見るといたたまれないような表情をしながら、いつでも反撃をとれる体勢で周りに気を張っている。
 敵意剥き出しすぎなんだよな。
「前も言ったけどさ、最初はカラダかな。オンナとするよりキモチいいし、優しいし」
「まあ、聞いたけどね。えろえろ小悪魔ちゃんだろ。ちゃんと考えたんだよな、シロー」
 俺のおかあさんのように世話をやいてくれる、道郎が麻雀パイを投げてこっちにくる。
 どうやら負けたようである。
「考えて悩んだよ」
「あ、悩んだんだ」
 俺の答えに、道郎は意外そうな表情を向けた。
 どんだけ考えなしだと思われてるんだろう。
「そりゃな、悩んだぞ」
「男同士だし、悩むか。シローでも流石に」
「それは全然悩まなかったけど。弟だからさ。兄弟は流石にイケナイかなって」 
「弟?富田が?」
 将兵は道郎にはこの話を言ってなかったようだ。個人的な話だし、簡単に話していいものじゃないと判断したのだろう。
「とーちゃんが一緒なんだ、俺に似てカッコイイだろ?」
 目元は母親に似てるみたいだが、骨格とか顔つきはなんとなく俺に似てるかなって最近思う。
「富田は、イイのか?1度は、それでオマエを捨てたんだぞ」
 将兵はなんだか複雑そうな顔で虎王に近づく。
 捨てた話をした後に何があったのかってことは、将兵たちにはまだしていなかった。
「村澤さん。オレは士龍を兄貴とか思ってねぇです。そりゃ1度は捨てられたけど、命懸けで助けてくれた人です。……それにオレは、去年、士龍にテッペンとらせたかったんすよ。それくらい憧れてたんです。士龍が手に入るなら何もいらねぇくらい、好きです」
 気恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして真剣に言い募る。
 将兵はこっちが恥ずかしくなると言って、深々とため息をつくとバリバリと茶色い髪を掻いた。
「ほーんと、揃ってアホ兄弟かよ……。士龍がモノにされたってわかったからには、小倉は荒れるぜ」
「ショーちゃん、違うよ、たけおが俺のモノなんだぞ」
 訂正すると、面倒そうな顔でさいでっかと俺を覗き込む。
 同じ年だけど、何故か将兵は達観しているような感じのアニキっぽさがある。本当は将兵が派閥のトップになるのが一番だったのになって、今でも思う。
「…………どっちでも一緒だって」
「とりあえず、世代交代で荒れると思うけど、オマエら手ェ出すなよ。俺はたけおにつく」
「あー、士龍。オレはもうテッペンとかいらないよ」
 虎王は手を横に振って、その話はやめてと言うがそうはいかない。
「と言っても、金崎は仕掛けてくるだろ?その時つくって言ってんの。俺はテッペンとかいらん」
 俺は言い返して、それじゃ意味がないとか言っている虎王に釘をさす。
 金崎は卑怯なヤツで気に入らない。だから、テッペンなんかとってほしくない。内添は、平和主義だから金崎に狙われたら簡単に与するかもしれない。
「ウッチーのとこは、オレが話をつけっから」
「士龍、そいつに本気なんだな。めんどくさがりの士龍が動くと言ってんだもんな。ま、俺らはついてくだけだけど」
 将兵は、俺をマジマジと見ながら吐息をつきながらそう言った。
「ショーちゃん、いつもありがとね」
「まあ、今更でしょ。いつも士龍が俺らを守ってくれてんだからな」
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