竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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塞翁之馬

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「弟なのか?」
「とーちゃんが一緒だったんだ、だから別れたんだけど」
 トール君はあんまり似てないなあと言いながら、俺と虎王を見比べている。
「とーちゃんから、もう何も奪えないと思って、別れるって言ったんだけど……。とーちゃんにとってオマエが、大事な人だから。でもとーちゃんは、金を出そうとしなかったから、俺がたけおを助けて自分のものにするって決めた」
 酷い言い方になってしまったが、どう言えばちゃんと自分の気持ちが伝わるのかよく分からない。
 ちゃんと気持ちを伝えて、それで許してもらえないのであればそれは仕方がない。
「別れるって言ったのは謝る。でも、オマエが殺されちまうって、そんな状況になって、俺はやっと、オマエがいねえとダメなんだって気がついた」
 頭を下げると、しばらく虎王が言葉を出すのをためらっている空気を感じた。
 絶対に許さないと言われたら仕方がない。
 それだけのことを俺はした。
 自己中心的な考えしかなかった。
「オレの気持ちは、そうそう変わんねえよ。捕まったのも、何とか気持ちを変えてほしくて、士龍を探しに行ったら……ゲーセンで取引きを見ちまったからだし」
 虎王にぐっと強く抱き寄せられて、やっと取り戻せたことを実感する。
 抱きしめている指先が小刻みに震えているのが分かる。
 ずっと複雑な気持ちのままで、居させてしまっていた。
 それどころじゃなかったのもあるが、なるだけ考えないようにしていたのもある。
「なんか良かったな。初々しいシーンを見せ付けられちゃんた。身体冷えてるだろ。ホットココアでも飲みなよ」
 化粧を落としてさっぱりとした日高がカップをテーブルへと並べる。
 二人がいることをすっかり忘れて抱き合ってしまっていて、恥ずかしさにかっと身体が熱くなり、ココアも要らないほどだった。
 あ、忘れてたと言えば、父には報告はしていなかった。
「とーちゃんに電話しとかないとな。……心配はしていたからな」
 これで虎王はオレのものだって宣言したいし、虎王の母親も安心させないといけねーし。
「…………あの人は……心配なんかしてねえだろ」
「大事なものは間違えてはいるけど、心配はしていたよ。それに、たけおのかーちゃんすっげえ泣いてたから」
 少し眉を寄せた虎王に、確かにオレも虎王が欲しかったから、助けなかったとか言ってしまったなと、少し反省する。
 いい言い方がわからなかったしな。
 どうして、もう一度と取り戻したいと思った理由とかには、嘘を混ぜるのはできなかった。
 俺は手にしたスマホをいじり、アドレス帳から父親の名をタップした。
 あまり会わないし、いつもは何度もコールするのに、さすがにすぐに出た。
『士龍、…………どうなった?』
 少しだけ焦っている声に心配していることはすぐにわかる。
「もしもし……たけおは、助け出した。だから、大丈夫」
『本当に、か』
「ああ…………だから、たけおは、俺にくれ」
 しばしの間だけ押し黙った後、父は唸るように好きにしろと返してきた。
「たけおは無傷だけど、俺がケガしてるから、後で病院にいくよ。銃創だから、他の病院には行けない」
『銃創だって。一体、どんな具合だ』
「心配してくれるの?ありがと。足を撃たれたけど、貫通したから大丈夫。」
『お前も私の息子だ、当たり前だろう。…………神経に問題あると大変だ、早めに病院にくるんだ』
「わかった。たけおに代わるから……」
 俺は嫌がる虎王に携帯を押し付けた。
 心配は一応しているようだったし、ちゃんと声を聴かせてやりたいと思ったからだ。

 俺は日高が出してくれたココアを飲む。
 暖かいし甘いしミルクの味もして美味しい。
 虎王はスマホを片手にイヤそうな顔で返事をしている。
「シロはさ、この赤毛のドコがいいの?あんまり可愛くはないな」
 興味津々でトール君は、ここぞとばかりに俺に尋ねる。
「ちんこかな。エッチがうまい」
 本音で答えると、トール君はなんとなくだが納得したような顔をする。
「シロも、トールも最低な答えを平気でするよね」
 日高が笑いながら横から茶々をいれる。
「え、最低かな?そこは、大事なとこじゃね?」
「まー、トールは俺の顔が好きらしいけど。まあ、トールの場合は昔からそれは知ってたけどね」
「シロ、顔とか体がイイとかいうのは最低らしいぞ」
 電話を終えた虎王は俺にスマホを返して、隣の俺の髪を軽く撫でる。
「まあ、普通に最低だけど。……そう仕向けたし仕方ないっす。でも、士龍に気にいってもらえるのはすごく嬉しい」
 耳元で言われて、俺は照れてどうしようとか思う。
 虎王は、こういうことにかなり照れとかないのか、平然としている。
 二人も当てられたとばかりの表情をした。
「さてと、俺らはこれからデートいくから、冷蔵庫のもん、好きに食って?寝室も使っていいぜ。俺ら朝まで帰らねえから。帰ってきたら送るし」
 トール君は笑顔を浮かべて、日高の肩をぽんと叩く。
 そういえば夜はデートって言ってたな。
「あー、これから夜景とか?」
「駅前のSMホテル。ヤスの合格祝いにつれてく約束してたからよ。馬とかなんか檻とかなんかスゲエのあるらしいぞ。なんか面白そうだぞ」
 うわ、そんなとこできっとイロイロされちゃうのに、笑顔で語っちゃうトール君はかなり配線がおかし過ぎるだろう。
「まあ、部屋にあるものは好きに使っていいからな」
 そう言い置いて、着替えた二人は仲良く肩を並べて出ていった。

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