竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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青天霹靂

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 ゲーセン裏の駐車場に、大体六十人は集まったが、それで本当に足りるかどうか難しいところだ。
 急に集めても用事でいない奴もいたし、それは仕方がない。
 ヤクザ相手というのには全く自信はない。
 しかも、海東組の場所すら検討つかないのが、かなり苦しいところだ。何人か捜索隊を出しておいたが、あまり有力な情報はないようだ。
 どこかから、たまたま高校生探偵とか通りかかって、うっかり場所とか教えてくんないかな。
 なんて妄想まで浮かんでくるが、リミットは明日なのに何の手がかりもないので苛立つ。
 ざわっ、ざわっ。
 空気が変わって緊張感がビシビシと肌に伝わり、思わず身構える。
 まさか、海東組がここを嗅ぎつけたのか。
 おそるおそる視線を向けると、こちらをやや警戒するような様子で、戦闘モードに入りかけのトール君と後ろにスラリと背の高いかなりのイケメンがゆっくり近づいてくる。
 こんだけ数が集まってるので顔を合わせたくないが、ここで逃げるわけにもいかない。
 周りに軽く手をあげて、一触即発の空気を押さえる。
 ゆっくりと戦意を消してトール君に近づくと、俺の顔に気がついて、戦闘モードを解きながら訝しむような顔を向けて近寄ってきた。
「…………シロ?何かあんのか、まさか俺に報復とか?」
 首を傾げながらも、ハッキリ聞きにくいことを言うのは昔から変わらない。
 そういや、このへんにトール君の母親の店があったのを思い出した。
 そっちに報復に行くと考えたのだろう。
 確かにうちの学校は卑怯な真似をすると思われても仕方が無いことをやっているわけだし、疑われても仕方がない。
「いや、ちがうよ。別件。えっと、ヤクザにカチコミにいくところ。…………昔はいろいろありがとな」
 最後になるかもしれないと考えて礼を言うと、トール君は俺の真意をはかりじっと眺める。
「トール?知り合い?」
 イケメン君は、ピリピリした表情で俺を見上げて俺の制服を見ると眉を寄せて嫌悪を露わにする。
 これは日高康史だろう。目の下にある泣きボクロは、昔から変わらない。
「久しぶり、覚えてるかな?ヤッちゃん。俺、シロだよ」
 でも、昔仲良く遊んだ記憶も変わらない。
「シロ?!橘士龍か?ちょ、オマエでかくなったな!!」
 日高こそ大きくなって、しかもイケメンになっている。
 俺の旧姓を口にして、すぐに綺麗な笑顔を浮かべ、俺を見返す。いつまで経っても美人なやつは美人なのだなと思う。
「ああ、引っ越す前に親が離婚したから、今は、眞壁士龍」
訂正すると、少し目を見開いて俺を見返す。
「東高の眞壁って、シロだったの?」
 テッペン争いをしなくとも、それなりに名前は知られているらしい。
 そう言えば、記憶喪失になったとか言ってたよな。
「ヤッちゃん、記憶喪失なおったの?」
「全部思い出せるわけじゃないけど、昔のことははっきりくっきり覚えているよ」
くすりと笑うと、日高は俺の顔を覗きこむ。昔から可愛いかったけど、今はすごく綺麗だ。
「ヤクザにカチコミって、尋常じゃねえな。何があった?」
 冷静なトール君の口調に、俺はきっと奥歯を噛み締めた。
「俺の恋人を、…………拉致られた」
 ぐッと思わず拳を握りこむ。そうだ、こんな風に話をしている余裕はなかった。
 トール君は、俺の肩に手を軽く置いて、ふと表情を緩める。
「……手ェ貸すぜ」
 これほど心強い助っ人はいない。
「士龍サン……」
 直哉の声が心配そうに響く。北高のハセガワはうちの高校全体の敵だ。
 敵と手を組むとかはあり得ない。だけど、俺はトール君に頭を下げた。背に腹は変えられない。
「トール君、頼む。手を貸してくれ」
 わかったとつぶやき、周りのピリピリした空気を察したのか、トール君は宣言する。
「俺はシロの幼馴染のトール君だ。そのカチコミ、参加すんよ」
 配線は相変わらずおかしいが、北のハセガワとは別人だと言いたいのだろう。
「ハセガワ」
直哉は思わずつぶやくと、トール君はすぐさま怒鳴った。
「ハセガワじゃねぇ、トール君だ」
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