竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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青天霹靂

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 洗濯室のかごの中に着てきたシャツを見つけて、着直して、ジャンパーを羽織ってバックを掴む。
「ンじゃ、帰るわ…………じゃあな……」
 一応虎王には声をかけたが、壁際でしゃがみ込んだままで返事はなかった。
 泣かせてしまったな。酷いことをした自覚はある。
 罪悪感に苛まれながらも、虎王をそのまま置いて俺はマンションを出た。

 ここに来た時は、アホみたくはしゃいで喜んでたのに、帰りにはこんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。
 …………足が重たい。
 人生なんてそんなもん、だな。うまくいきそうだなんて考えて浮かれていたら、軽く足元をすくわれちまう。
 包丁で切りつけた首筋の傷が、ヒリヒリ痛い。
 痛くて痛くて…………心臓が掴まれるように、ぎゅうぎゅうと痛くてたまらない。
 そのまま、包丁で喉まで切り裂けば、きっとこんなに痛くなかったかもしれない。
 さらっと死ねて辛くもなくて、きっとその方がよかったかもしれない。方向すら分からず、パタパタと目から汁が落ちてきて前もよく見えない。
 ……ああ……しょっぺえな。
 あっさりと振ったのは俺の方なのに、しっかりとダメージ受けてやがる。涙出すほどとか、ないわ。
 …………情けねーな。
 帰り方わからないし、適当に歩いたので迷子だ。
 スマホで直哉の名前を押すと、即座に電話が繋がる。
『……士龍サン?……どうしたすか?』
「ナオヤ、まいごなう。なあ、バイクで迎えきて。なんか、寒くて行き倒れて死にそうだから早くきて」
 律儀にすぐに電話に出てくれた直哉に、俺はなるだけ軽い口調で頼んだ。
 目印代わりにしたコンビニの前の縁石に座り込む。
 今日はホントに憎たらしいくらい、いい天気だ。
 デート日和だ。太陽が勿体なくて見ているのもむかつくな。
 父のことを知らなければ、きっと楽しい一日になってた。
 今すぐ太陽が落ちてきて、俺に直撃して全部燃やしてくれれば、楽なのにな。
 そんなうまい話を神様は、もってきちゃくれない。
 きっと、明日も同じように、やってくる。
 駐車場の縁石に座って待っている間、やってくる客に変な目で見られる。怪我してるし、血だらけだしな。
 パタパタ涙は垂れてくるし、最悪。
 よく、虎王の前で泣かないで我慢したよね。ホントに俺、えらいよね。
 すげー、胸いてえのになあ、平気な顔できてたよね。
「ちょっ、士龍サン。ホントに何してんすか!怪我してんじゃないすか」
 バイクから降りて近づいてきた直哉は、俺のシャツが血に染まっているのを見て、かなり慌てたように駆け寄ってくる。
 パタパタと焦ってくる様子は、まるでわんこみたいで可愛いなあとか、ぼんやり考える。
「大丈夫、自分でヤッたヤツだから……。手加減してある」
 軽く皮膚だけ軽く切っただけで、血管まではいってない。
 よっこいせと腰をあげて、直哉が停めたバイクまで歩み寄り、勝手にバイクのタンデムへと跨る。
「士龍サン?富田は、どうしたんすか?!」
 俺の様子が変だと思ったのか、直哉は勘がいいのか核心をついてくる。
「んー……………。色々面倒になったから捨てた」
 直哉の表情が固まり、俺の真意を問うような目をする。
 面倒になったのは確かだ。ホントのこと、だ。
 自分の弟だなんて、面倒くさすぎる。
 男同士だってだけで普通に歓迎はされないのに、更に父親が一緒とか。
 俺には無理難題すぎる。
 俺は俺の意思を通しただけだから、虎王は悪くは無い。
「ゴメン、本気とかオマエらにいっといて、舌の根もかわかんうちに」
 直哉はため息をついて首を振ると、バイクに跨りながら俺にメットを手渡す。
「俺らはどんな理由だとしても、士龍サンの味方っすから。だから、そんな顔しねえでください」
 いつだって、こいつらは俺の味方をしてくれるのは、知ってる。ホントにみんなには、俺は助けられている。
「……村澤さんの家にいきましょうか。俺だと士龍サンは本音だせないでしょ」
 メットをかぶると、直哉は気を使って言ってくれる。
 確かに年下だから、あんまみっともねえことは、言えない。

「悪い。…………ショーちゃんには、メールしとく。でも、まー、たけおは悪くねえのは確かだ。間違っても…………オマエら手ェ出すなよ」
 直哉の虎王より少し細い腰に腕を回してから、念のため釘を刺しおく。
 この後に及んで変な心配していて、我ながら、ホントに未練がましい。

 もう、終わったことだから忘れなきゃいけない。
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