竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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青天霹靂

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 虎王の為に、なんでもできるなんて思ってた。
 昨日思ったことはホントだ。ホントだと、思っていた。
 だけど、無理なんだ。父にこれ以上憎まれたまま生きていくなんてできない。
 三人で無言で味気ない朝飯を食うと、学会があると出ていった父を見送り、二人きりになる。
 無言になるのは分かっていたが、空気が重すぎる。逃げるように俺はキッチンに皿を片付けにいく。
「士龍…………、ウソだよな。別れるとか」
 皿を洗い始めた俺に、虎王は食い下がるように背中から抱きついてくる。
 すこしでも気を緩めたら泣きそうになる感情を無理やり抑えこむ。ここで揺らいだら決心が崩れ去ってしまう。
 虎王の腕を力任せに邪険にするように、引き剥がす。
「俺が、終わりだッて言ったら、もう……、終わりなんだよ。オマエ……しつけえぞ」
 そんな風に語調を強めに言わないと、俺の方が参っちまいそうだった。
 …………分かったとひとこと言ってくれれば済む。
 これ以上傷つけなくてもいい。そして傷つきたく、ない。
 そりゃあ無傷じゃすまないけど、まだ付き合って三日目だ。
 今なら傷は浅い。
「あんな奴の言うことなんか、気にしなけりゃイイだろ!なんだよ、オレとアイツだったら、アイツの方とるんかよ!」
 俺の肩を掴んで、激情のままに揺すり返す虎王の掌をグイッと掴み返して、静かに告げた。
「ああ、そうだ」
 俺の言葉を聞くと、虎王は激昂したように目を見開いて眉をギュッと寄せて皺を作って怖い形相になる。
「なんでだよ!アンタも捨てられたんだろ!アイツのこと恨んでねーのかよ。オレは絶対別れねーからな!」
 声をあげて、俺を抱きしめようと腕を掴もうとするので、スッと身を引いて避ける。
 必死で俺との終わりを全力で拒む虎王の態度は、本当に可愛いすぎて、こんな顔をさせたくないと思う。
 嘘だぜなんて言って抱きしめ返してあげられたら、どんなにいいだろう。
 やっと、こんな俺を好きだと言ってくれる人を見つけたんだけどな。
「捨てられただなんて…………とーちゃんを恨むのは、俺にはスジ違いだからさ」
 俺が呟いた言葉に虎王は、まったく理解不能とばかりの顔をした。
 俺が小学卒業するまではと十二年もの嘘の結婚生活に付き合ってくれてたのだ。
 世話になってたじーちゃんへの義理のために、好きな人との生活を諦めて俺の父親をやってくれていた。それなのに、あの人の大事な息子を俺が奪うなんて、できねえだろ。
 今まで奪い続けた俺にできることは、あの人の目につかないとこで、ひっそり生きることだけだ。
「こうやって、今俺が生きてられんのは、とーちゃんのお陰だ。オマエが別れないなら、俺はここで死んでもいい」
 俺の飯を食って、社交辞令でも美味しかったという言葉をくれただけで、もうそれだけで充分だとか思ってる。
 静かに言い返すと、グイッと虎王は俺の胸倉を掴みあげた。 眉を寄せて怒りで真っ赤になっている顔。
 綺麗な赤い頭とコラボレーションして、まるで赤鬼だな。
「な、に、言っちゃってんだよ。冗談でも…………バカなこと言ってんじゃねえよ。あんな、仕事のことしか考えてないような、非情な男の為に死ぬとかアホ言うな」
 俺の首根っこを掴みよせる虎王の拳は怒りにふるふる震えている。
 俺が死ぬと言ったことに、怒っているのが分かって、本当に愛しいと、思う。
 ……あーあ、修羅場とかめんどうくさいな。
 ホントに、めんどくさいことは、キライだ。
 だから、ちゃんと、終わりにする。
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