竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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意志薄弱

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 奢りだと言われてちょっと良さげなイタリアンレストランに連れ込まれて、普通に飯を食っているのだが、なんだか違和感だ。
 いつもイライラしたような富田君の表情は、この間からひどく落ち着いていて、普通にイケメンに見える。
 好戦的にイラついている表情は、野生動物みたくて近寄りづらい感じだったんだけどな。
 なんだか少しは好意をもたれているような錯覚をしそうになってしまう。
 身体を繋げているからなのかもしれない。実際に俺もそうなんだから、きっと富田君もそうなのだろう。
 まやかしみたいなもんで、いつ消えるかわからない、そんな頼りない気持ちだ。
 今日にでも最後だと言われそうな、不安はある。
 苛まれそうな気持ちもどうにかしたい。

「こないだの朝飯の…………。その、礼だ」
 富田君は、あまり口数は少ないほうで、しゃべらないイメージだけど、色々話してきて少しづつ分かってきた。
 元々脅迫とかしてくるタイプでもない。
 今更だけど、ホントになんでこんな真似してるのかも、本当に謎すぎる。
 1回だけだと思ったし。
 俺は海鮮スパゲティをくるくるとフォークに絡ませながら、富田君の顔をちらと見やる。
「朝飯気に入ったのか。また、作るよ…………」
 仕上げにエビを刺して口に運ぶ。
 まただなんて、フラグを残したりして、我ながらあざといかもしれない。
 こんなん、デートみたいだとか思う自分もどうかしてるし、話題が思いつかなくて居心地悪い。
「アンタ、料理うまいのな」
「ひとりで食うのも、うまいほうがいいし。ラップしとけば、かーちゃん食うしな」
「ああ、そういや…………オマエのおふくろさん、前に会ったけどさ、すげえ美人な」
「……え、もしかして俺に飽きたからかーちゃんとか……?それは待て。俺はお前をとーちゃんとは呼べない」
 思わず混乱しながらスパゲティをぐるぐると回してると、おいおい巻きすぎと手を掴まれる。
「美人とは言ったけど。熟女好きじゃないし年下好きでもないから。こないだから変な心配すんなよ。……襲ったりとか……しねえから」
 もごもごと言うけど、まあ、普通にそんなことしないだろうな。手を掴まれたとこから、熱がじっとりと伝わってくる。
「まあ、卑怯モンのオレが言っても信憑性ないけどさ」
 自嘲するように呟く富田君に、なんだか俺の心のどこかが疼くように痛む。
 卑怯者だと言いながら、脅迫をやめないのは、何故だろう。
 暇つぶしというわけでもなさそうだけど、考える度に深みにはまって頭がぐるぐるする。
「……いや、ふつーにかーちゃんはねえよ。なに、マジに答えてんだよ」
 思わず巻きすぎたスパゲティを口に含んで、モシャモシャと食べて会話をかきまぜた。
「そうだな…………あと、あー、あのよ……コレ」
 ゴソゴソと富田君は、ポケットから小さい袋を取り出して俺に手渡す。
「……なに?」
「…………運気の良くなるっていう、なんかが彫ってある……腕輪だ。アンタに似合うかと思って」
 袋をあけるとシルバーのバングルが入っていた。なんだか頬が緩むのを我慢しながら腕を通す。
 なんだか、変な感じだけど、嬉しくてすぐに腕に嵌めた。
「運気ね?…………ありがと」
 富田君に貰っただけで、すごく運がイイことなんだけどな。
 ちらっと富田君の顔を見ると、照れた表情で視線を逸らした。
「…………おう…………」
 もしかして、少しは……期待してもいいのだろうか。
 そんな気持ちになって、心臓の動悸がどうにかなりそうなくらいバクバクしていた。
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