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不倶戴天
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彼が俺を覚えているかどうかなんて、賭けでしかなかった。
「…………オマエ、誰?」
すぐに思い出せないようだったが、俺の言い草に記憶にひっかかるものがあったのだろう。
彼から戦意がまるっと消えて、俺を見る目にハテナマークが浮かんでいる。
「同じ小学校だったシロだよ。覚えてるかな、トール君?」
その頃、俺はハセガワをトール君と呼んでいた。
首を傾げて見返すと、記憶に思い当たったのか俺を軽く見上げ、驚いた顔をしてほおっと声をあげる。
「シロ……か?すげえ、おっきくなったな。日本語もぺらぺらじゃねえか」
多分彼の中では、身長が低くかった俺の記憶のままなのだろう。
彼は小学生の頃からかなりでかかった。
士龍と呼ばすシロと犬のように呼んで、俺をからかう奴等から、守ってくれたり加勢してくれた。
俺の中では、彼はヒーローだった。
だから、戦いたくないと思って、ずっと避けていたのだ。
「いちごみるくいっぱい飲んでるからね」
牛乳は生臭くて嫌いだけど、いちごみるくならかろうじて飲める。
「そっかァ。あ、シロ、コレ返す」
さっき俺が言ったことを覚えていたのか、貸してたオモチャを返すかのように、ひょいっと富田君を俺に投げ渡す。
俺は血と土で汚れた富田君を受け止めながら、トール君に深々と頭を下げた。
「アリガト。ゴメンネ、ウチの子たちさ、トール君を潰したらトップにしてやるって言われたらしくって」
俺の言葉に、彼は心底不快そうに眉をギュッと寄せた。
「トップなんて人にさしてもらうもんじゃねえよな」
不思議そうな顔をして見返す彼に、俺は頷いて同意する。
指名なんかされても、気に入らなければ学内抗争で奪い取ればいいのだ。
「だよねえ」
トール君は、俺が抱きとめている富田君を眺めてちょっとだけ罰が悪そうな表情になる。
「ちっと、そいつヤりすぎちまった。そいつに何かされたわけじゃねえんだが。憂さ晴らししちまったかな」
まあ、戦意を失った相手をサンドバックにする真似は見たことがないので、本当に八つ当たりされていたんだろうなと見て取れる。
意識はあるのか、眉を寄せて唸っているみたいだが、ぐったりとして動かないが重症ではなさそうだ。
ほっと息を吐いて富田君を担ぎ直した。
「昔から、トール君はヤッちゃん大事だからな。でも、トール君は東高に来ると思ってたケド」
トール君は、勉強は得意ではなかった覚えがある。
「まあ、シロは引っ越したから、中学校は別だったもんな。ヤスと一緒に受験頑張った。あ、そうだシロはなんで東高なんだ?」
きっと日高と一緒に同じ高校いきたかったんだろうな。
日高は綺麗な顔して、スポーツも勉強もなんでもできるやつだった。
「俺は間違えて東高きちゃったんだ。トール君はヤッちゃんと付き合ってるの?」
「おう、すげえ大事にしてたのによ……」
苦々しい口調なのは、金崎の一件がまだ尾を引いているのだろう。
さっぱりとした性格のトール君らしくもない。
まあ、されたことを考えれば当然のことだ。
「……卑怯なコトしてすまないな」
東高を代表するつもりはないが、一応同じ学ランをきている仲間がしたことだから頭を下げておく。
「シロがしたわけじゃねえし。………ヤスに痛ェ思いさせたくなかったけど、他のやつにやられるくらいなら、気にせず突っ込めば……よかったかもな」
「……ちょ、そうなの?」
「ぜってえ許せねえ……」
「…………オマエ、誰?」
すぐに思い出せないようだったが、俺の言い草に記憶にひっかかるものがあったのだろう。
彼から戦意がまるっと消えて、俺を見る目にハテナマークが浮かんでいる。
「同じ小学校だったシロだよ。覚えてるかな、トール君?」
その頃、俺はハセガワをトール君と呼んでいた。
首を傾げて見返すと、記憶に思い当たったのか俺を軽く見上げ、驚いた顔をしてほおっと声をあげる。
「シロ……か?すげえ、おっきくなったな。日本語もぺらぺらじゃねえか」
多分彼の中では、身長が低くかった俺の記憶のままなのだろう。
彼は小学生の頃からかなりでかかった。
士龍と呼ばすシロと犬のように呼んで、俺をからかう奴等から、守ってくれたり加勢してくれた。
俺の中では、彼はヒーローだった。
だから、戦いたくないと思って、ずっと避けていたのだ。
「いちごみるくいっぱい飲んでるからね」
牛乳は生臭くて嫌いだけど、いちごみるくならかろうじて飲める。
「そっかァ。あ、シロ、コレ返す」
さっき俺が言ったことを覚えていたのか、貸してたオモチャを返すかのように、ひょいっと富田君を俺に投げ渡す。
俺は血と土で汚れた富田君を受け止めながら、トール君に深々と頭を下げた。
「アリガト。ゴメンネ、ウチの子たちさ、トール君を潰したらトップにしてやるって言われたらしくって」
俺の言葉に、彼は心底不快そうに眉をギュッと寄せた。
「トップなんて人にさしてもらうもんじゃねえよな」
不思議そうな顔をして見返す彼に、俺は頷いて同意する。
指名なんかされても、気に入らなければ学内抗争で奪い取ればいいのだ。
「だよねえ」
トール君は、俺が抱きとめている富田君を眺めてちょっとだけ罰が悪そうな表情になる。
「ちっと、そいつヤりすぎちまった。そいつに何かされたわけじゃねえんだが。憂さ晴らししちまったかな」
まあ、戦意を失った相手をサンドバックにする真似は見たことがないので、本当に八つ当たりされていたんだろうなと見て取れる。
意識はあるのか、眉を寄せて唸っているみたいだが、ぐったりとして動かないが重症ではなさそうだ。
ほっと息を吐いて富田君を担ぎ直した。
「昔から、トール君はヤッちゃん大事だからな。でも、トール君は東高に来ると思ってたケド」
トール君は、勉強は得意ではなかった覚えがある。
「まあ、シロは引っ越したから、中学校は別だったもんな。ヤスと一緒に受験頑張った。あ、そうだシロはなんで東高なんだ?」
きっと日高と一緒に同じ高校いきたかったんだろうな。
日高は綺麗な顔して、スポーツも勉強もなんでもできるやつだった。
「俺は間違えて東高きちゃったんだ。トール君はヤッちゃんと付き合ってるの?」
「おう、すげえ大事にしてたのによ……」
苦々しい口調なのは、金崎の一件がまだ尾を引いているのだろう。
さっぱりとした性格のトール君らしくもない。
まあ、されたことを考えれば当然のことだ。
「……卑怯なコトしてすまないな」
東高を代表するつもりはないが、一応同じ学ランをきている仲間がしたことだから頭を下げておく。
「シロがしたわけじゃねえし。………ヤスに痛ェ思いさせたくなかったけど、他のやつにやられるくらいなら、気にせず突っ込めば……よかったかもな」
「……ちょ、そうなの?」
「ぜってえ許せねえ……」
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