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不倶戴天
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生まれてから十年間、俺は両親とドイツで暮らしていた。
父親がドイツの病院に勤めていたこともあり、日本に戻ったのは十一歳の時だった。
日本に帰ると父親は家に帰らなくなったし、母親も看護婦を目指して学校に行き始めたので、いつも家でひとりだった。
日本語は、なんとか書けるし読めるようにもなったけど、発音がうまくできなくて学校には友達もいなかった。
「なあ、タチバナって、ちんちんついてんの?外人って、みんな女の子なの」
この頃は、まだ両親は離婚していなかったので、橘と呼ばれていた。
「おんなのこ、ちがう」
クラスメイトは、休み時間になると俺の持ち物を盗った隠したりする。
最初のうちは気にならなかったけど、多分イジメってやつなんだなと、鈍い俺でもぼんやりと分かっていた。
「ぼく、がいじんではない。ちんちんある、おとこのこ」
「外人じゃないなら、ちゃんと日本語しゃべれ。そんな片言じゃ、わからねーよ」
「だよな。日本語しゃべれよ」
やんややんやと、男子たちが意地悪くからんできた。
自分の何が気に入らないのかも俺にはわからなかった。
日本語をちゃんと話しているつもりなのに、彼らにはまったく通じていないようだった。
日本語は文法とかが難しいし、うまく話すのが大変だ。ニュアンス的なモノが掴めてなかったが、子どもの俺には違いが分からなかった。
両親とも話すのはドイツ語だった。日本にくるまでは、自分が日本人だということも知らず、日本語は話したこともなかった。
「日本人は髪の毛黒いんだよ。こんな金髪でよく日本人っていえるよねー、うそつきじゃん」
「うーそつき、うーそつき」
髪をグイグイ引っ張られて、痛みに泣きながら首を振ってぼくは日本人だって言っても笑われた。
外人だと言われるのは寂しいし、学校にいくのももう嫌になっていた。
日本には飛び級制度がない。授業は日本語が難しいだけで、内容は簡単で別にわざわざ覚えるようなこともない。
もう、学校はやめよう。
「をい。てめぇら、何してんだ?そいつ泣いてんじゃん」
周りの男子より頭二つくらい大きい男子が、席の近くまでズカズカ歩いてくると、途端に男子が静かになる。
髪の毛を引っ張っていた男子が、ビクビクと震えあがって、ずるっと俺の髪の毛を離した。
俺をみおろす表情は、釣り目でひどく野生的な獰猛な獣のようだった。
今度は、この男子にいじめられるのだ。いじめられる相手が変わるだけで、この地獄のような日々からは逃れられない。
「トール君、別にタチバナをいじめてたわけじゃないぞ」
言い訳をする言葉など聞いていないのか、邪魔だとばかりに、彼は男子達を邪険に押しのけると、涙でべしょべしょの顔をじっと見る。
そして自分のシャツの袖口を引っ張ると、俺の顔をゴシゴシと拭った。
「こいつ、天使みてえだな。すんげえ、髪キラキラじゃん」
彼の言葉の意味はよくわからなかった。だけど、彼が俺の顔を褒めてくれているということは、よく分かった。
「オマエらなぁ、可愛いからって泣かすなよ。今度コイツ泣かせたら、オマエらぶんなぐるぞ」
そう周囲に言い放った彼は、その日から俺のヒーローだった。
彼が声をかけたその日を境に、俺に対してのイジメは、全くなくなったのだ。
俺も彼といつも一緒に居る幼馴染と遊ぶようになり、学校も楽しくなった。喧嘩の仕方や護身術を教えてもらったり、小学校を卒業するまでの二年間は、本当に愉しい日々だったのだ。
そうやって小学校のころは、ハセガワの幼馴染みだった日高康史と一緒に常に遊んでいた。
日本語での話し言葉も、彼らから教わったし、俺はチビとか外人とか女とか言われる度に、喧嘩をするようにもなり、ハセガワが手を貸してくれたりしたのだ。
父親がドイツの病院に勤めていたこともあり、日本に戻ったのは十一歳の時だった。
日本に帰ると父親は家に帰らなくなったし、母親も看護婦を目指して学校に行き始めたので、いつも家でひとりだった。
日本語は、なんとか書けるし読めるようにもなったけど、発音がうまくできなくて学校には友達もいなかった。
「なあ、タチバナって、ちんちんついてんの?外人って、みんな女の子なの」
この頃は、まだ両親は離婚していなかったので、橘と呼ばれていた。
「おんなのこ、ちがう」
クラスメイトは、休み時間になると俺の持ち物を盗った隠したりする。
最初のうちは気にならなかったけど、多分イジメってやつなんだなと、鈍い俺でもぼんやりと分かっていた。
「ぼく、がいじんではない。ちんちんある、おとこのこ」
「外人じゃないなら、ちゃんと日本語しゃべれ。そんな片言じゃ、わからねーよ」
「だよな。日本語しゃべれよ」
やんややんやと、男子たちが意地悪くからんできた。
自分の何が気に入らないのかも俺にはわからなかった。
日本語をちゃんと話しているつもりなのに、彼らにはまったく通じていないようだった。
日本語は文法とかが難しいし、うまく話すのが大変だ。ニュアンス的なモノが掴めてなかったが、子どもの俺には違いが分からなかった。
両親とも話すのはドイツ語だった。日本にくるまでは、自分が日本人だということも知らず、日本語は話したこともなかった。
「日本人は髪の毛黒いんだよ。こんな金髪でよく日本人っていえるよねー、うそつきじゃん」
「うーそつき、うーそつき」
髪をグイグイ引っ張られて、痛みに泣きながら首を振ってぼくは日本人だって言っても笑われた。
外人だと言われるのは寂しいし、学校にいくのももう嫌になっていた。
日本には飛び級制度がない。授業は日本語が難しいだけで、内容は簡単で別にわざわざ覚えるようなこともない。
もう、学校はやめよう。
「をい。てめぇら、何してんだ?そいつ泣いてんじゃん」
周りの男子より頭二つくらい大きい男子が、席の近くまでズカズカ歩いてくると、途端に男子が静かになる。
髪の毛を引っ張っていた男子が、ビクビクと震えあがって、ずるっと俺の髪の毛を離した。
俺をみおろす表情は、釣り目でひどく野生的な獰猛な獣のようだった。
今度は、この男子にいじめられるのだ。いじめられる相手が変わるだけで、この地獄のような日々からは逃れられない。
「トール君、別にタチバナをいじめてたわけじゃないぞ」
言い訳をする言葉など聞いていないのか、邪魔だとばかりに、彼は男子達を邪険に押しのけると、涙でべしょべしょの顔をじっと見る。
そして自分のシャツの袖口を引っ張ると、俺の顔をゴシゴシと拭った。
「こいつ、天使みてえだな。すんげえ、髪キラキラじゃん」
彼の言葉の意味はよくわからなかった。だけど、彼が俺の顔を褒めてくれているということは、よく分かった。
「オマエらなぁ、可愛いからって泣かすなよ。今度コイツ泣かせたら、オマエらぶんなぐるぞ」
そう周囲に言い放った彼は、その日から俺のヒーローだった。
彼が声をかけたその日を境に、俺に対してのイジメは、全くなくなったのだ。
俺も彼といつも一緒に居る幼馴染と遊ぶようになり、学校も楽しくなった。喧嘩の仕方や護身術を教えてもらったり、小学校を卒業するまでの二年間は、本当に愉しい日々だったのだ。
そうやって小学校のころは、ハセガワの幼馴染みだった日高康史と一緒に常に遊んでいた。
日本語での話し言葉も、彼らから教わったし、俺はチビとか外人とか女とか言われる度に、喧嘩をするようにもなり、ハセガワが手を貸してくれたりしたのだ。
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