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さすがに2名分の楽器の荷物運びが、仕事の後の身体にはこたえたようで、風呂に入ったあとすぐにベッドへと直行した。
ソファーはでかいし、そこで寝ろと言う言葉にも斎川は反論しなかった。
「ねえ、ミカちゃん?寝てるの?」
耳元で、斎川の少し掠れたような声がしたような気がしたが、身体がどろのように重くて身動きができない。
「じゃあ、いいかな。もう少しゆっくり寝ていてね」
唇から何か子供の時に飲んだ風邪薬のような、甘ったるいシロップが少量づつ流れ混んできて、重たい身体が浮遊するように楽になる。
「ミカちゃんは寝てるだけで、いいからね」
脳に染み込むような艶やかな声が聞こえていて、俺は夢うつつの中、声の主の言葉に頷いていた。
いつもの時間に激しく鳴るスマホのアラームを止めて、半身をダラダラと起こす。
早めに寝たからか、身体の疲れはとれている。
斎川をソファーに残して寝室で寝てしまったが、初対面のヤツを残してよかったものか。
まあ、盗まれて困るものはないんだが。
太ももの付け根が少しだるい気もしたが、荷物運びの比重のせいかもしれない。
リビングのドアを開くと、斎川は渡した上掛けをかけて大人しく寝ている。
朝飯どうするかな。
いつもは、コンビニで飯を買ってそのまま職場にいくのだが、コイツの分も必要だな。
二度手間になるなと、ため息をついて俺はコンビニへと向かった。
「ミカちゃん、おはよ」
寝ぼけ眼を向けて斎川は起き上がると、差し出したおにぎりとパンを見て、手料理じゃないんだと呟く。
昨日さんざん料理はできねえって言ったのは覚えてないようだ。
「オマエの好き嫌いはしらねえし、昼飯分も適当に買ったんだけど」
「あー、ありがと。オマエじゃなくて、タカネだよ。じゃあ夕飯は用意するよ。キッチン使っていいよね」
昨日はない笑顔を向けられて、俺はすこしたじろいで視線を逸らした。
イケメンの笑顔は凶器だ。
「好きにしろ。あんまり家探しするなよ。金目のものは無いからな」
そろそろ仕事に行かないとまずい時間である。
「それは分かってる。ミカちゃん、お金なさそうだからな」
「殴るぞ……」
俺は作業着に着替えると、そのまま斎川を残して部屋を出た。
『そんで、カズが折れて泊めたのは分かったけど、一人で残してきて大丈夫?』
仕事終わりに要から電話がかかってきたが、家探しされて困るものはなにもない。
財産は、楽器くらいのものだが、まあ売ったとしてもそんなに価値のあるものでもない。
「サイコパスじゃなきゃ、問題ねえし。まあ、へそ曲げちまったのも俺の責任だしな」
そう告げると、要はすぐに謝れば済んだ話だけどとかもそもそ言って、次の練習の日を確認してから電話を切った。
自分が連れてきた手前、斎川のことが気になっているのだろうな。
俺が短気を起こして、追い出す可能性があったし。
まあ当然の心配だろうと思い、漸く帰りついたアパートの窓に電気がついているのを不思議な気分で見上げた。
今日はストリートしてないのかと思いながら、鉄の階段をあがって、ドアを開く。
「タダイマ」
チャランチャランと聴いたことのあるリフが耳に入る。
バラード曲。
忘れようもない、俺が中学の時に初めて作った曲だ。
そんなには張ってない甘い声が、耳に流れ込む。適当につけた歌詞だろうか、柔らかい感じの言葉を並べている。
「…………」
リビングに入っていくと、散らかった部屋に俺がしまっていた楽譜が散らばっている。
ちらと俺の気配に気づいたのか、顔をあげて斎川は俺を見上げ、唄を止めた。
「……あ、ミカちゃん。オカエリ」
「家探しするなって……」
「んー、この曲好きだなあ。寂しいけど意思がある、歌詞ないの?」
「歌詞はない……オマエなあ……」
「ミカちゃん、おれ、夕飯作ったから、シャワー浴びてきて。腹減ったよ!」
斎川は、ギターを置くとキッチンを指さして、俺に命令をする。
言うことを聞く約束だったな。
釈然としないまま、俺は浴室へと向かった。
ソファーはでかいし、そこで寝ろと言う言葉にも斎川は反論しなかった。
「ねえ、ミカちゃん?寝てるの?」
耳元で、斎川の少し掠れたような声がしたような気がしたが、身体がどろのように重くて身動きができない。
「じゃあ、いいかな。もう少しゆっくり寝ていてね」
唇から何か子供の時に飲んだ風邪薬のような、甘ったるいシロップが少量づつ流れ混んできて、重たい身体が浮遊するように楽になる。
「ミカちゃんは寝てるだけで、いいからね」
脳に染み込むような艶やかな声が聞こえていて、俺は夢うつつの中、声の主の言葉に頷いていた。
いつもの時間に激しく鳴るスマホのアラームを止めて、半身をダラダラと起こす。
早めに寝たからか、身体の疲れはとれている。
斎川をソファーに残して寝室で寝てしまったが、初対面のヤツを残してよかったものか。
まあ、盗まれて困るものはないんだが。
太ももの付け根が少しだるい気もしたが、荷物運びの比重のせいかもしれない。
リビングのドアを開くと、斎川は渡した上掛けをかけて大人しく寝ている。
朝飯どうするかな。
いつもは、コンビニで飯を買ってそのまま職場にいくのだが、コイツの分も必要だな。
二度手間になるなと、ため息をついて俺はコンビニへと向かった。
「ミカちゃん、おはよ」
寝ぼけ眼を向けて斎川は起き上がると、差し出したおにぎりとパンを見て、手料理じゃないんだと呟く。
昨日さんざん料理はできねえって言ったのは覚えてないようだ。
「オマエの好き嫌いはしらねえし、昼飯分も適当に買ったんだけど」
「あー、ありがと。オマエじゃなくて、タカネだよ。じゃあ夕飯は用意するよ。キッチン使っていいよね」
昨日はない笑顔を向けられて、俺はすこしたじろいで視線を逸らした。
イケメンの笑顔は凶器だ。
「好きにしろ。あんまり家探しするなよ。金目のものは無いからな」
そろそろ仕事に行かないとまずい時間である。
「それは分かってる。ミカちゃん、お金なさそうだからな」
「殴るぞ……」
俺は作業着に着替えると、そのまま斎川を残して部屋を出た。
『そんで、カズが折れて泊めたのは分かったけど、一人で残してきて大丈夫?』
仕事終わりに要から電話がかかってきたが、家探しされて困るものはなにもない。
財産は、楽器くらいのものだが、まあ売ったとしてもそんなに価値のあるものでもない。
「サイコパスじゃなきゃ、問題ねえし。まあ、へそ曲げちまったのも俺の責任だしな」
そう告げると、要はすぐに謝れば済んだ話だけどとかもそもそ言って、次の練習の日を確認してから電話を切った。
自分が連れてきた手前、斎川のことが気になっているのだろうな。
俺が短気を起こして、追い出す可能性があったし。
まあ当然の心配だろうと思い、漸く帰りついたアパートの窓に電気がついているのを不思議な気分で見上げた。
今日はストリートしてないのかと思いながら、鉄の階段をあがって、ドアを開く。
「タダイマ」
チャランチャランと聴いたことのあるリフが耳に入る。
バラード曲。
忘れようもない、俺が中学の時に初めて作った曲だ。
そんなには張ってない甘い声が、耳に流れ込む。適当につけた歌詞だろうか、柔らかい感じの言葉を並べている。
「…………」
リビングに入っていくと、散らかった部屋に俺がしまっていた楽譜が散らばっている。
ちらと俺の気配に気づいたのか、顔をあげて斎川は俺を見上げ、唄を止めた。
「……あ、ミカちゃん。オカエリ」
「家探しするなって……」
「んー、この曲好きだなあ。寂しいけど意思がある、歌詞ないの?」
「歌詞はない……オマエなあ……」
「ミカちゃん、おれ、夕飯作ったから、シャワー浴びてきて。腹減ったよ!」
斎川は、ギターを置くとキッチンを指さして、俺に命令をする。
言うことを聞く約束だったな。
釈然としないまま、俺は浴室へと向かった。
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