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社会人編 season2
第8話→sideY
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まったく予想はしてなかったわけではないが、まさかこうくるとは思わなかった。
諭せばどうにかなる方面じゃなく、東流は根本的にオレの書いたシナリオをひっくり返すようなことを、あっさりと言ってのける。
「トール、何言ってんの?」
オレの動揺は、半端ない。
長いこと頭の中でシュミレーションした結果とあまりに乖離しすぎて事態を飲み込めない。
東流は、今までの職業とキャリアをすべて捨てると言っているのだ。
8年間とはいえ、つみあげたものは東流にもあるだろう。
それを、なんてあっさりと言うのだろうか。
東流が長距離の仕事の時には、会えなくてもそう考えてオレは諦めていたってのに。
「そんなふうに、簡単に辞めれんなら!なんで、もっと早く…………辞めてくんないんだよ…………」
会えない期間が長くなる度に、ずっと自分自身に言い聞かせてきたのに、この子の為なら辞められるってのだろうか。
思わず取り繕えなくなったオレの様子に、東流はちょっと目を見開いて軽く息を吐き出すと、
「馬鹿だな。そりゃ簡単なことじゃねえよ。だけど、オマエだけが、そんな大変な想いするこたねえよ。どっかで、この子に罪悪感抱いてるだろ?ンなの顔みりゃわかる」
「そんな風に言うな。……オレは薄情なんだ…………」
罪悪感だ?
そんなもんなんか……まったくないなんていえば嘘になるけど、死んだ彼女を責めるくらい、オレはひどく薄情だ。
「だからさあ、それはオマエがこの子のことを、ひとりで抱え込もうとしてるからだろ。それに、俺は別に今後の身の振り方の当てがなく言ってるわけじゃねーよ」
東流は弁護士の横からかっさらって、よっこらせと腕に一望を抱えあげると、オレの方に戻ってくる。
「かーちゃんもさ、ここんとこ体の具合が悪いからさ、店たたむとか言ってるし。キタラも、相変わらずフリーターだし。だから、あの店を改装してバーにしたいなって考えてたんだ。適度に金も貯まったし、いい機会だからやっちまうかなって」
言っていることはかなりもっともで、ちゃんと考えているようなんだが、腑に落ちないのは東流がそんなことを言い出した理由からだろう。
何のことはない。
オレは、息子に嫉妬しているのだ。
「なんで……トールがそこまですんの?」
「そんなの決まってんだろ、オマエの子供じゃんよ」
そんなのは信用ならない。
「顔が、相手に似てても?」
オレに顔が似ているから、だから情がわいてんだろ。
顔が好きだから、オレ以外にでも必死になるんだろ。
そんなこと、分かってるんだからな。
騙されないぞと睨みあげると、東流はちょっと眉を寄せる。弁護士がいようと息子がいようと、既に俺は関係ないくらいに、取り乱していた。
「は?何言ってんだよ。オマエにたとえ似てなくても、お前の子供だってなら、俺は全力で守るけど」
ニッと東流らしい快活な笑顔をむけられ、オレは大人気なく自分の子供までも邪魔な対象としてみてしまっていた自分を恥じるしかない。
「どう、しますか?日高さん」
鞍馬さんは東流と俺を交互に見やり、先ほど俺がサインした書類を取り出して、オレの目の前に差し出した。
しぶしぶながら受け取ると、その紙を破り捨てた。
「一望を、引き取ります。すぐには東流も仕事を辞めることは出来ないと思いますので、引き取りに行くのは1ヶ月後でいいですか」
「えー、今からじゃダメなのか?」
東流は、一望の体を腕から降ろして、名残おしげに俺に聞く。
「仕事が重なったら、1人にさせることになるだろ?危ないだろ」
諭すように告げるとそうだなと納得し、分かったと頷くと東流は嬉しそうに笑って、オレを見返した。
諭せばどうにかなる方面じゃなく、東流は根本的にオレの書いたシナリオをひっくり返すようなことを、あっさりと言ってのける。
「トール、何言ってんの?」
オレの動揺は、半端ない。
長いこと頭の中でシュミレーションした結果とあまりに乖離しすぎて事態を飲み込めない。
東流は、今までの職業とキャリアをすべて捨てると言っているのだ。
8年間とはいえ、つみあげたものは東流にもあるだろう。
それを、なんてあっさりと言うのだろうか。
東流が長距離の仕事の時には、会えなくてもそう考えてオレは諦めていたってのに。
「そんなふうに、簡単に辞めれんなら!なんで、もっと早く…………辞めてくんないんだよ…………」
会えない期間が長くなる度に、ずっと自分自身に言い聞かせてきたのに、この子の為なら辞められるってのだろうか。
思わず取り繕えなくなったオレの様子に、東流はちょっと目を見開いて軽く息を吐き出すと、
「馬鹿だな。そりゃ簡単なことじゃねえよ。だけど、オマエだけが、そんな大変な想いするこたねえよ。どっかで、この子に罪悪感抱いてるだろ?ンなの顔みりゃわかる」
「そんな風に言うな。……オレは薄情なんだ…………」
罪悪感だ?
そんなもんなんか……まったくないなんていえば嘘になるけど、死んだ彼女を責めるくらい、オレはひどく薄情だ。
「だからさあ、それはオマエがこの子のことを、ひとりで抱え込もうとしてるからだろ。それに、俺は別に今後の身の振り方の当てがなく言ってるわけじゃねーよ」
東流は弁護士の横からかっさらって、よっこらせと腕に一望を抱えあげると、オレの方に戻ってくる。
「かーちゃんもさ、ここんとこ体の具合が悪いからさ、店たたむとか言ってるし。キタラも、相変わらずフリーターだし。だから、あの店を改装してバーにしたいなって考えてたんだ。適度に金も貯まったし、いい機会だからやっちまうかなって」
言っていることはかなりもっともで、ちゃんと考えているようなんだが、腑に落ちないのは東流がそんなことを言い出した理由からだろう。
何のことはない。
オレは、息子に嫉妬しているのだ。
「なんで……トールがそこまですんの?」
「そんなの決まってんだろ、オマエの子供じゃんよ」
そんなのは信用ならない。
「顔が、相手に似てても?」
オレに顔が似ているから、だから情がわいてんだろ。
顔が好きだから、オレ以外にでも必死になるんだろ。
そんなこと、分かってるんだからな。
騙されないぞと睨みあげると、東流はちょっと眉を寄せる。弁護士がいようと息子がいようと、既に俺は関係ないくらいに、取り乱していた。
「は?何言ってんだよ。オマエにたとえ似てなくても、お前の子供だってなら、俺は全力で守るけど」
ニッと東流らしい快活な笑顔をむけられ、オレは大人気なく自分の子供までも邪魔な対象としてみてしまっていた自分を恥じるしかない。
「どう、しますか?日高さん」
鞍馬さんは東流と俺を交互に見やり、先ほど俺がサインした書類を取り出して、オレの目の前に差し出した。
しぶしぶながら受け取ると、その紙を破り捨てた。
「一望を、引き取ります。すぐには東流も仕事を辞めることは出来ないと思いますので、引き取りに行くのは1ヶ月後でいいですか」
「えー、今からじゃダメなのか?」
東流は、一望の体を腕から降ろして、名残おしげに俺に聞く。
「仕事が重なったら、1人にさせることになるだろ?危ないだろ」
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