俺たちの××

怜悧(サトシ)

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三学期編

やりなおし →side T

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「なあ、ヤス。あのヨ……前に言ってた遊園地、いくぞ。チケットまだあんだろ」

やっぱり部屋の中でずっと篭もりっぱなしなのは、辛いモンだよな。

思いついたが吉日だ。
夏休みに頓挫した遊園地デートをずっとそのままにしていたのを思い出した。
結構あの時は康史楽しみにしていたしな。
まあ、あんなことがあったし、俺達の中でトラウマになってたのもある。
俺も遊園地とか、あんまり行った事はない。
絶叫系の乗り物に乗るのが楽しいのかどうなのか、実際よくわからない。
着ぐるみキャラクターにも全く興味はないし。
まあ、だけど、康史が楽しい顔が見られるのなら、きっと一緒に行ったら嬉しいに違いないと思う。

朝、起き抜けすぐに言ったからなのか、康史はひどく眠たそうなぼんやりとした表情をして、俺が言ったことを理解できないようだった。

「だからよ。まださあ、遊園地に行ってなかっただろ?明後日卒検だから今日と明日は教習入れてねえから、一緒に遊園地いくぞ」

「あ、うん。…………え、本当にいきなりだな」
くすりと笑いながらくしゃりと俺の頭を撫でる。
そして綺麗な顔をふわりと笑みに変えて、ベッドから起き上がって、

「ありがとな。分かった。すぐ用意する」

……あ、康史が部屋に篭ってるから、気分転換なのが分かったのかな。
康史は察しがいいからな。

直ぐに礼を言われて、俺は機嫌よく起き上がる。
「俺も先にシャワー浴びる」
「今日はバイクでいくだろ?」
康史の言葉にすぐに勿論と頷く。
この時期だから、そんなに混んでないだろうしな。

「勿論」

俺たちにとっては、トラウマ回収のデートだしな。

「準備はオレにまかせとけよ。考えたら楽しくなってきた」
康史の笑顔に俺も嬉しくなって、うかれながら浴室へと向かった。




康史をタンデムに乗せて、海沿いの道を風をきって走るのはすごく気持ちいい。
朝早くだったのもあり、道はそんなに混んでいない。

ここまできちまえば、まさか絡んでくる輩もいないだろうし、後は遊園地にいくだけだ。
夏休みから結構日にちはたっちまったけど、康史も受験勉強もあったしな。

遊園地のエントランスを見ると、平日にもかかわらず結構な人混みで、集団が並んでたむろしてるのが見える。
駐車場に入りバイクを停めると、康史からメットを受け取る。
どことなく、康史の顔が緩んで柔らかく見える。
嬉しいんだなと思うと、今日はここに来て本当に良かったとこころから思えた。

エントランスで並んで中に入ると、異世界感のようなどことなく非日常の世界のようだ。

「……で、何乗る?」
「トールは、絶叫系はダイジョウブ?」
「乗ったことねえからな。何がいいかわかんねえや」
遊園地自体に、あまり思い出はない。
1度だけ家族できたが、散々だった。

康史は、オンナ連れてよく行ってたのを覚えてる。

「まあ、トールには怖いもんはねえだろうから、ここの絶叫系乗れるだけ乗るか」
「ヤスは好きなんか?その、ぜっきょー系はよー」
「結構好きかな。まあ、スリルとかなら、トールの本気の走りのタンデムには負けるよ」

まあ、ドSだしな。
もしかしたら、隣に乗せたやつの恐怖の顔を楽しみたいのかもしれねえや。
納得しながら、長蛇の列の一番後ろに並ぶ。
今日は天気がいいから、あんまり寒くねえのはありがたい。

「なんか、こうやって2人で並んでんのって、新鮮だな」
嬉しそうに呟く康史に、俺はなんだか満たされる。
こういう人が多いとこは、本当は苦手なんだけどな。
「夜はさ、ライトアップでキラキラするパレードとかあるんだけど、見る?」
期待をこめて提案する康史に、俺は軽く頷く。
「一日中遊んだって、明日も教習ねえし。」
「ありがとな。それじゃあ待ってる間に何か食う?そこで、食い物買ってくる」
康史は、たったったと屋台のような食い物販売のカートに向かっていってしまう。

片手に包みを持って康史は戻ってくると、紙包みを掴んで俺に渡す。
いいニオイだな。
「はい!食べて」
はたして、これは、なんだ。
香ばしいニオイにつられて、袋をかさりとあけると骨付き肉のようだった。
「うを、うまそうだな!ありがとな」
「トールは、こういうの好きだよな。待ちながら食おうな!」
記憶をなくしてから、こんな本気の笑顔見れなかったしな。
ほーんと可愛いし。これは堪能しとくべきだな。

俺は肉を味わいながら、康史の笑顔も満喫していた。


いくつか絶叫系マシンに乗ったが、まあまあ楽しめた。
ちょっと必死そうな可愛い康史の顔も見れたしな。

「マジで全く怖くねーのかよ。トールの顔平然としすぎでつまんなすぎーっ」
コースターの途中で撮影されるらしく、康史はその写真を買って面白そうに笑う。
「まー、こーいうのは基本的に死なねーようにできてっし。何かあったら、オマエを助けねーとだからな、おいそれと叫んでられねーな」
滑車が外れたりとかはまあないとは思うけど、そういう危機管理も大事だよな。
「なんだよ、なんかあったら、助けてくれんの?」
「おう」
康史は面白そうに笑い、俺の背中をぽんとたたく。
「頼もしいけど、遊園地くらい気を抜いててもいいからな」
「……おー、分かった」
「昼メシ、そろそろ食べるか。買い食いはしたけど、ガッツリ食べたいだろ」
康史は、地図を見て綺麗な建物の間を歩きながら食い物屋がねえか物色している。


「あの…………おふたりですかー?良かったら一緒しません?」
ちょっと高めな女の声がかかり、仕方なく俺たちは立ち止まる。
地元で2人で歩いていても、俺の悪い噂のせいかしらないが、女に声をかけられることはまずない。
華奢な感じの綺麗な顔をした2人連れの女の子で、多分、少し年上で大学生って感じである。

しゃべるのは苦手なんで、ちらと康史になんとかしろという視線を送る。
康史は、軽く面倒そうな息をつくとよそ行きの笑顔を貼り付けて、
「ゴメンネ。いまオレたち、絶叫マシン巡りしてるから」
「あ、私たちも絶叫系大好きなんです!!是非一緒にどうですか」
多分、自分たちに自信があるんだろうな。
康史がさらに面倒そうな顔をするのが横目でわかる。
「…………悪いけど、今日は2人でまわりたいんだ。また、機会があれば……」
「じゃあ、連絡先ください」
めげないなあと、俺は一歩引いて康史をみまもる。
まあ、モテ王子だから、仕方ないけどな。
康史は手馴れたように、ポケからメモ帳を出してLIN●のIDを手渡して女の子たちに軽く手を振って、俺の肩を叩いて歩き出す。
「マメだよな……」
「LIN●くらいはなあ。あとで誠士にでも紹介してやろうかな」
したたかに言ってのける康史に、俺は肩をそびやかした。
「ちぇ、ちょっとは妬いてくれないの?トール」
「そんなことで、妬いてたらキリねえだろ。昔のヤスのオンナ遊びがひどかった時も散々見てるし」
「自業自得、だな」
肩を落とす康史の頭をワシャワシャと撫でて、腕をとると手を握ってコートの中につっこむ。

「オマエは俺に首ったけだって、わかっているからな」



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