俺たちの××

怜悧(サトシ)

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三学期編

バレンタインデー →side Y

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東高の制服を見た瞬間身体が強張り、過呼吸みたいに息が上がって体も逃げ腰になる。
一刻も早くその場から立ち去りたくて、東流の腕を引いて逃げ出した。
東流が軽くいなしていた程度だから、まったく相手にならないような奴らだというのは分かったが、どうしようもなく逃げたくて仕方がなかった。

漸く追いかけてこないのを確認すると、オレは近くの壁に腕をついて立ち止まる。

「大丈夫かよ?ヤス」

肩でゼーハーと荒い息をしているオレを、気遣うように東流は背中から身体をさすってくる。
東流も走って息を切らしただけじゃないことに気づいたようで、東流はオレの頭を軽く抱き寄せてかかえこむ。

「もっかい忘れられりゃいいんだけどな……」
優しい言葉に、大きく息を吸って首を横に振る。
「それでも、オレは、思い出したいんだ。オマエとのこの1年は、多分オレにとってすげえ大事だと思うから!」
東流は、ちょっと目を見開いて、オレの頭を優しくぐりぐりと撫で回した。

「イイコトばっかじゃないかもしれねえけど、そう大事に思ってもらえんのは嬉しいからよ。……もし嫌なコト思い出したら、それはオレに当たってくれてかまわねえしな」

ふと、空を見上げると少し夕暮れに差し掛かっている。

そうだ、行きたいとこあったんだっけ。

「ありがとな。トール、オレはやっぱし、トールがすげー好きだわ」
「そんなの分かってんよ。で、どこ行きたかったんだ?」
漸く腕を引いて歩き出した俺に、キョロキョロしながら東流はついてくる。
ちょっと駅前裏のいかがわしい界隈なので、あまり沢山は来たことがないけれど、もう18歳になっているわけだし、問題ないかな。

「いかがわしいお店」

ちょっといたずらっぽい口調で、オレは東流の耳に囁く。
「らしすぎるな。ホントに変態」
「オレに付き合ってくれてんだから、トールも変態にちがいないよ」
思わず吹き出す東流を見返し、薄暗いネオンサインでunder Bordeauxと看板掲げられた店の地下へ一緒に降りていく。

「確かに、なんか怪しい店だなァ」

中に入ると、ショーウインドには大人のオモチャやら、革の製品やらが並んでいて、東流→はちょっとだけ引いているようだ。
キョロキョロと周りを見回すと、店長の串崎さんが俺を見つけて駆け寄ってくる。

「ヒダカちゃん、久しぶりじゃないのー。ねえ、カレシとはうまくいってるのぉ?」
オールバックにスーツで決めた見るからにダンディなイケメンの男だが、口調はオネエである。
界隈では有名な調教師さんで、昔からこの店にきては色々教えてもらったり、東流のことを相談したりしていた。

「あ。串崎さん。こんにちわ。えーと、うん、カレシの話とかしてたんだ、オレ」
「毎回毎回、うるさいくらい惚気まくっていってるじゃないのぉ。忘れたのーぉ?」
「えと、ちょっとだけ記憶喪失になっちゃって。これがカレシのトール、たぶん、連れてきたことはなかったよね」
所在なさそうにしていた東流を、串崎さんに紹介する。
東流はちらちらと店長をはかるようにみながら、軽く頭をさげる。

「うわ、アンタみたいな綺麗なコが片思いするような男がいるとか想像できなかったけど。かなり、すごいイケメンじゃない」
「串崎さんには、紹介したかったから。今日は、貞操帯を買いたくてきたんだ」

どこまでプレイしてるか分からなかったけど、玩具の中には貞操帯はなかった。
サイズやタイプにもよるから、実際試着とかして買いたいし、トールをこの店には連れてきたことはないんだろうとは思ったのだ。

「何だ?てーそーたいって?」
案の定、東流は不思議そうに首を傾げる。
「ちょっとエッチな下着かな」
オレの説明に串崎さんは悪い子め、といった顔をする。
「じゃあ、カレシのサイズとか測らないとね。奥のフィッティングにいきましょ」

ウキウキした様子で、串崎さんはオレと東流をフィッティングルームへといざなった。



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