俺たちの××

怜悧(サトシ)

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三学期編

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「……で?」

自主登校期間だというのに、東流から家から出るなと強くいわれているのですることもない。
誠士はいつものように、東流に依頼されて買い物をしてきてくれるらしい。

東流は、相変わらず教習所で一日中教習だ。
まあ、免許とらないと、就職ボツるし困るだろうしなあ。


「だから、記憶戻んないし、…………色々わけがわかんねえんだもん……。トールに聞いてもよくわかんねえし」
やってきた誠士に、オレはいろいろ相談があるといってみた。
誠士も相談されることには、まんざらでもないように聞いてくれる。
人に頼られるのが好きな奴である。
本当にお巡りさん向きの性格だな。
「でも、ちょっとは記憶が戻ったんだろ?マワされたの思い出しちまったって、東流が拗ねてた」
誠士は買ってきたハンバーガーを食いながら、オレを眺めて首を傾げる。
オレがそんなにショックを受けていないのが不思議のようだ。
大丈夫。
嫌な記憶は東流が全部消してくれた。
だから、大丈夫なのだ。
「思い出したのはそれだけなんだよな………。つか、トールがさ、誘ってくるとか……ホント、なんか夢みたいなんだけどさ……。実感わかねえっていうか……」
昨日東流からのお誘いは本当に嬉しかったのに、なんだかピンときていない。
オレが覚えている東流は、性欲に淡白な方で自慰もそんなにしてないようだった。
波砂と付き合ってても、そういう関係のことはそんなにしていないはずだ。

「誘ったのか……って、どんくらいやってなかったの?」
「一週間くらいかな」

「そりゃ、東流でも誘うだろうな。オマエらアホみたいな間隔でやってたしな。発情期のサルだったしよ。ほぼ毎日くらいだったろ」

ちょっと天井見上げて誠士は、ハンバーガーを食べ終えてふうっと一息つく。

アホみたいな間隔って。
一週間で耐えられなくなるって、相当なんだろうな。
昨夜の乱れた様子を思い出して、たまらなくなる。
オレは何年ごしもの片思いをしていた。
それが知らない間に、全部手に入ったといわれてすぐに喜べるわけがない。

「マジで……、でもどこまでヤッていいのかわかんねえからさ」
「そりゃ、それこそ東流に聞けよ」

そこまでわかるかとぼやいて誠士は、ソファーに寝そべる。
部屋にある玩具なんかは、結構いろんなものがあったがどれが趣味で集めたのか、実際に使ったのかまったく判別がつかない。
東流にも聞いては見たが、なんだか言いたくないようで誤魔化された。
「だよな。トールに聞いてはみたんだけど、スキにしろって言われても、ホントはオレはかなりのマニアックだからな……」
「だよねー」
誠士はけらけら笑いながら、じゃあ、すきにすりゃあいいじゃねえかと付け加える。
ダメならはっきりダメといわないわけはないのだろう。

「なあ……オマエさ、どうしてオレとトールが付き合うようになったか知ってるんだろ?」

ずっと気になっていた。
東流に何度か聞いたが、そのうち話すからと言ってはぐらかされて、それっきりだ。

「そりゃあな……言い難いだろうな」
「なんで隠してる?」
二人は示し合わせたかのようにそのことを言おうとしない。
「まあ、マワされたの思い出したならいいか…………」
誠士は、ちょっと考え込んで上体を起こして横目で見やる。
「どういうこと?」
「いや、付き合った経緯を話して思い出したら困るって、東流がすげえ気にしてたからさ」
なんだかんだ、誠士は東流の気持ちを汲んで動いてくれている。
親友にはオレたちはオープンな付き合いをしていたようだ。
「そんな言えないような、経緯なのか?」
「まー、最後の夏でオマエも焦ったんだろうな、トールを殴りつけて強姦したんだよ」
って、殴りつけてって、それだけで倒れるとは思えないんだが……。
倒れたからって、
「って、強姦」
「そ、だから。オマエは犯罪者だよね。こわーい。俺が刑事になってたら、速攻捕まえてやるんだけどね」
ぷるぷるといったように、ワザとらしく震えてみせる。
確かにそんなことをするなんて、オレも焦ってたんだろうな。
波砂とも別れてたっていうなら余計につながりがなくなっちまうとか考えたにちがいないが。

でも、おかしいだろ。強姦までしといて許されるとかありえない。
今頃、殺されてても仕方ないような気がする。

「それで、なんでトールと付き合えるんだよ。やっぱりわけわかんねーよ」
「そりゃ、俺にきくなよ。東流の配線おかしいのは今に始まったことじゃねーし、まあ、オマエが好きだからだろ?」
「ッ……いってもな。オレそれ、サイテーな奴だろ、ソレ」
スキだったらなんでもしていいなんて考えは、それでもない。
今のオレにはない考えが思いつくくらいに、その時のオレは追い詰められていたのだろうか。
計画的にじゃないと、東流をどうこうするなんてできない。
どうにもならない気持ちを誤魔化すように、女遊びだってしまくっていた。
そのうちうまく誤魔化しきれて、きっとそのまま大人になれると思ってた。

「実際、サイテーでしょ。犯罪者だし。でもよ、東流はさ、オマエが強姦するくらい自分をスキなんだなって思ったら嬉しかったから、自分もオマエが好きなんだって思ったらしいぜ」
嬉しかったって。
そんな風に思えるのか?
オレが東流をスキだってことが、すべてを許せるくらい嬉しかったってことなのか。
そんな理由を、受け入れてくれるのだろうか。

「………でっけえな。……そんな言葉言われたの、思い出したいな……」
「思い出さなくても、教えてくれるらしいぞ、アイツは」
くっくっくと笑いながらそんな風に言う誠士は、この状況を楽しんでいるようだ。
なんだかむかつくが、むかつくけど、そんなことどうでもいいくらいだ。
「…………ホント、俺って愛されてるなー」
って感じる。
あんな風に俺の前で乱れてくれて、そんな風に思ってくれるとか。
本当に愛ってやつだと思うと偉大だ。

思い出した光景に、バイクで頭血まみれにしながら助けに来て、俺を抱きかかえて叫ぶ東流の姿があった。

「うらやましくはねえけどな、オンナだけじゃなくて、本命にもモテモテっていうのはうらやましい」

とぼけた風情で言う誠士にも春が早くくるといいなと心から願う。
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