俺たちの××

怜悧(サトシ)

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三学期編

要らねえだろう →sideT

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康史は、俺に縋るような表情を浮かべて答えを聞きたいと、俺の肩をがくがくと揺らす。
ずっとなんだか、どこか不安そうだった。
記憶がないからだと思っていたけが、多分それだけじゃないのだ。

「.......そりゃあ、頭のうちどころが悪かったから、じゃねえか」

苦しい言い訳。
こんなの柄じゃねえから、多分顔には出てそうだ。
喧嘩して頭を打って気絶したから運んできたと伝えたはずだが、康史はそれを信じてはいないようだ。

「オレは頭に怪我してない。あの時頭怪我してたのはトールだろ」

言葉尻が少しきつくなっている。
俺をまったく信用していないのがわかる。
隠し事をしている手前、俺も大層なことは言えない。
康史は、かなり動揺しているようで、俺の肩に食い込むくらいにぎゅっと握りこんでくる。

「そうだけど、殴られた時にどっかぶっつけたかもだろ」

俺の言葉もしどろもどろになってしまう。
頭を打ったで納得してくれないなら、どうしたらいい。
うまい言い訳なんかすぐに思いつかない。

俺は、康史を抱いたことはない。

多分、この言葉が、キーだ。

「オマエ、何か隠してるだろ」

「……………なにを」

確信をついた言葉に、俺はうろたえて視線を外した。
俺には、隠し事は向かない。
表情にも態度にも出てしまう。
誠士がいるわけじゃないから、誤魔化しもきかないし何のフォローもない。
最初にいろいろどうすりゃいいか確認しておけばよかった。
康史は俺の胸元をドンと叩いた。

「オマエが、オレを抱いたんじゃないなら、どうして.......。なんで……あの時俺の体に抱かれた感覚が…………身体に残ってたんだ」
康史の泣きそうな声に、俺は視線を戻してごくっと息を飲んだ。
キレイに洗って軟膏は塗ったけど、康史は気がついていたのだ。
ばれてるならこれ以上、何をごまかしても無駄だ。
隠している意味なんかない。

俺は康史を抱いたことがないと言ってしまった。
だったら分かってしまうのは当然だ。
俺は観念して、康史の体を強く抱き寄せる。
康史の肩に顔を埋めて静かに、すべてを打ち明けた。

「オマエは、あの日東高の奴らに拉致られて、マワされた。予備校通いで別行動してたとこを狙われた」

口に出すことですら、俺はイヤでたまらなかった。
だけど、これ以上黙っていて嘘を塗り重ねて傷つけるわけにはいかない。

「なんで隠してた…………」
静かだが、康史の苦渋に満ちた言葉が苦しそうに漏れる。

こんな声を聞きたいわけじゃない。
こんな顔させたいわけじゃない。
だからだ……。

「.......要らないだろ。オマエが覚えてねえなら、それでいい。ワザワザそれを言って、どうなるっていうんだ。記憶喪失?ハッ、上等だ!俺以外のヤツらとの記憶なんて、そんなもんイラネエだろ!!わざわざ、俺がオマエにそんなこと言うもんかよ」

俺の自分勝手な言葉に、康史の目が大きく見開かれる。

わざわざそんなこと伝える意味などない。
嫌な記憶を引きずり出して、思い出させてどうするっていうんだ。
俺は、康史が消した記憶を引きずり出したくなんかねえ。
「…………そんなの。オレが卑怯なだけだろ。記憶消せば、楽になれるなんてことはねえのに、いつも逃げてばっかだ」
俺の胸の中で、康史は堅く拳を握って歯軋りをしている。

「卑怯ね。そんなこたあ元から知ってるし、上等だ。俺はオマエがどんなに卑怯だってかまわねえ。逃げたかったら、逃げりゃいいんだ。それで、オマエが壊れちまうよか、絶対いい」

「……トール……」

どうすれば、康史のキモチを上向けてやれるだろう。
俺はぐっと康史の体を抱き返し、頬を撫でながらじっと目を見つめる。

「それができねーなら、俺が抱いたってことにすればいい。その記憶、思い出す前に俺との記憶にすり替えてやっからさ。なあ、俺に、オマエを抱かせろよ」

唇を押し当ててゆっくりと舌先を吸い上げる。
甘く噛みしだくと、ふっと心地よさそうな康史の鼻音が聞こえる。

「…………かっこよすぎる………よ、トール」

「ハッ、せいぜい、惚れなおせ」

俺は康史のからだをひょいと抱き上げ、姫抱きにすると寝室へと足を向けた。
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