191 / 353
三学期編
要らねえだろう →sideT
しおりを挟む
康史は、俺に縋るような表情を浮かべて答えを聞きたいと、俺の肩をがくがくと揺らす。
ずっとなんだか、どこか不安そうだった。
記憶がないからだと思っていたけが、多分それだけじゃないのだ。
「.......そりゃあ、頭のうちどころが悪かったから、じゃねえか」
苦しい言い訳。
こんなの柄じゃねえから、多分顔には出てそうだ。
喧嘩して頭を打って気絶したから運んできたと伝えたはずだが、康史はそれを信じてはいないようだ。
「オレは頭に怪我してない。あの時頭怪我してたのはトールだろ」
言葉尻が少しきつくなっている。
俺をまったく信用していないのがわかる。
隠し事をしている手前、俺も大層なことは言えない。
康史は、かなり動揺しているようで、俺の肩に食い込むくらいにぎゅっと握りこんでくる。
「そうだけど、殴られた時にどっかぶっつけたかもだろ」
俺の言葉もしどろもどろになってしまう。
頭を打ったで納得してくれないなら、どうしたらいい。
うまい言い訳なんかすぐに思いつかない。
俺は、康史を抱いたことはない。
多分、この言葉が、キーだ。
「オマエ、何か隠してるだろ」
「……………なにを」
確信をついた言葉に、俺はうろたえて視線を外した。
俺には、隠し事は向かない。
表情にも態度にも出てしまう。
誠士がいるわけじゃないから、誤魔化しもきかないし何のフォローもない。
最初にいろいろどうすりゃいいか確認しておけばよかった。
康史は俺の胸元をドンと叩いた。
「オマエが、オレを抱いたんじゃないなら、どうして.......。なんで……あの時俺の体に抱かれた感覚が…………身体に残ってたんだ」
康史の泣きそうな声に、俺は視線を戻してごくっと息を飲んだ。
キレイに洗って軟膏は塗ったけど、康史は気がついていたのだ。
ばれてるならこれ以上、何をごまかしても無駄だ。
隠している意味なんかない。
俺は康史を抱いたことがないと言ってしまった。
だったら分かってしまうのは当然だ。
俺は観念して、康史の体を強く抱き寄せる。
康史の肩に顔を埋めて静かに、すべてを打ち明けた。
「オマエは、あの日東高の奴らに拉致られて、マワされた。予備校通いで別行動してたとこを狙われた」
口に出すことですら、俺はイヤでたまらなかった。
だけど、これ以上黙っていて嘘を塗り重ねて傷つけるわけにはいかない。
「なんで隠してた…………」
静かだが、康史の苦渋に満ちた言葉が苦しそうに漏れる。
こんな声を聞きたいわけじゃない。
こんな顔させたいわけじゃない。
だからだ……。
「.......要らないだろ。オマエが覚えてねえなら、それでいい。ワザワザそれを言って、どうなるっていうんだ。記憶喪失?ハッ、上等だ!俺以外のヤツらとの記憶なんて、そんなもんイラネエだろ!!わざわざ、俺がオマエにそんなこと言うもんかよ」
俺の自分勝手な言葉に、康史の目が大きく見開かれる。
わざわざそんなこと伝える意味などない。
嫌な記憶を引きずり出して、思い出させてどうするっていうんだ。
俺は、康史が消した記憶を引きずり出したくなんかねえ。
「…………そんなの。オレが卑怯なだけだろ。記憶消せば、楽になれるなんてことはねえのに、いつも逃げてばっかだ」
俺の胸の中で、康史は堅く拳を握って歯軋りをしている。
「卑怯ね。そんなこたあ元から知ってるし、上等だ。俺はオマエがどんなに卑怯だってかまわねえ。逃げたかったら、逃げりゃいいんだ。それで、オマエが壊れちまうよか、絶対いい」
「……トール……」
どうすれば、康史のキモチを上向けてやれるだろう。
俺はぐっと康史の体を抱き返し、頬を撫でながらじっと目を見つめる。
「それができねーなら、俺が抱いたってことにすればいい。その記憶、思い出す前に俺との記憶にすり替えてやっからさ。なあ、俺に、オマエを抱かせろよ」
唇を押し当ててゆっくりと舌先を吸い上げる。
甘く噛みしだくと、ふっと心地よさそうな康史の鼻音が聞こえる。
「…………かっこよすぎる………よ、トール」
「ハッ、せいぜい、惚れなおせ」
俺は康史のからだをひょいと抱き上げ、姫抱きにすると寝室へと足を向けた。
ずっとなんだか、どこか不安そうだった。
記憶がないからだと思っていたけが、多分それだけじゃないのだ。
「.......そりゃあ、頭のうちどころが悪かったから、じゃねえか」
苦しい言い訳。
こんなの柄じゃねえから、多分顔には出てそうだ。
喧嘩して頭を打って気絶したから運んできたと伝えたはずだが、康史はそれを信じてはいないようだ。
「オレは頭に怪我してない。あの時頭怪我してたのはトールだろ」
言葉尻が少しきつくなっている。
俺をまったく信用していないのがわかる。
隠し事をしている手前、俺も大層なことは言えない。
康史は、かなり動揺しているようで、俺の肩に食い込むくらいにぎゅっと握りこんでくる。
「そうだけど、殴られた時にどっかぶっつけたかもだろ」
俺の言葉もしどろもどろになってしまう。
頭を打ったで納得してくれないなら、どうしたらいい。
うまい言い訳なんかすぐに思いつかない。
俺は、康史を抱いたことはない。
多分、この言葉が、キーだ。
「オマエ、何か隠してるだろ」
「……………なにを」
確信をついた言葉に、俺はうろたえて視線を外した。
俺には、隠し事は向かない。
表情にも態度にも出てしまう。
誠士がいるわけじゃないから、誤魔化しもきかないし何のフォローもない。
最初にいろいろどうすりゃいいか確認しておけばよかった。
康史は俺の胸元をドンと叩いた。
「オマエが、オレを抱いたんじゃないなら、どうして.......。なんで……あの時俺の体に抱かれた感覚が…………身体に残ってたんだ」
康史の泣きそうな声に、俺は視線を戻してごくっと息を飲んだ。
キレイに洗って軟膏は塗ったけど、康史は気がついていたのだ。
ばれてるならこれ以上、何をごまかしても無駄だ。
隠している意味なんかない。
俺は康史を抱いたことがないと言ってしまった。
だったら分かってしまうのは当然だ。
俺は観念して、康史の体を強く抱き寄せる。
康史の肩に顔を埋めて静かに、すべてを打ち明けた。
「オマエは、あの日東高の奴らに拉致られて、マワされた。予備校通いで別行動してたとこを狙われた」
口に出すことですら、俺はイヤでたまらなかった。
だけど、これ以上黙っていて嘘を塗り重ねて傷つけるわけにはいかない。
「なんで隠してた…………」
静かだが、康史の苦渋に満ちた言葉が苦しそうに漏れる。
こんな声を聞きたいわけじゃない。
こんな顔させたいわけじゃない。
だからだ……。
「.......要らないだろ。オマエが覚えてねえなら、それでいい。ワザワザそれを言って、どうなるっていうんだ。記憶喪失?ハッ、上等だ!俺以外のヤツらとの記憶なんて、そんなもんイラネエだろ!!わざわざ、俺がオマエにそんなこと言うもんかよ」
俺の自分勝手な言葉に、康史の目が大きく見開かれる。
わざわざそんなこと伝える意味などない。
嫌な記憶を引きずり出して、思い出させてどうするっていうんだ。
俺は、康史が消した記憶を引きずり出したくなんかねえ。
「…………そんなの。オレが卑怯なだけだろ。記憶消せば、楽になれるなんてことはねえのに、いつも逃げてばっかだ」
俺の胸の中で、康史は堅く拳を握って歯軋りをしている。
「卑怯ね。そんなこたあ元から知ってるし、上等だ。俺はオマエがどんなに卑怯だってかまわねえ。逃げたかったら、逃げりゃいいんだ。それで、オマエが壊れちまうよか、絶対いい」
「……トール……」
どうすれば、康史のキモチを上向けてやれるだろう。
俺はぐっと康史の体を抱き返し、頬を撫でながらじっと目を見つめる。
「それができねーなら、俺が抱いたってことにすればいい。その記憶、思い出す前に俺との記憶にすり替えてやっからさ。なあ、俺に、オマエを抱かせろよ」
唇を押し当ててゆっくりと舌先を吸い上げる。
甘く噛みしだくと、ふっと心地よさそうな康史の鼻音が聞こえる。
「…………かっこよすぎる………よ、トール」
「ハッ、せいぜい、惚れなおせ」
俺は康史のからだをひょいと抱き上げ、姫抱きにすると寝室へと足を向けた。
0
お気に入りに追加
360
あなたにおすすめの小説
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
待てって言われたから…
ふみ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる