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三学期編
喪われたモノ →side T
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俺は康史の後ろについて、渡された救急箱を受け取る。
そして康史が浴室へ入っていくのを見送る。
自分の怪我とか、アドレナリン出まくりであまり痛くないからすっかり忘れていた。
康史が気にするくらいだから、結構切ったのだろう。頭は血が出やすいし、かなり額から顎先まで血だらけになっていた。
着ているシャツも、見下ろすと真っ赤であるが、多分自分のだけではないだろう。
先に寝室に戻って手にしていた救急箱をベッドサイドに置いて座った。
康史は手に洗面器とタオルを持って戻ってくると、俺の隣に座った。
「お湯でタオル温めてきたから、座ってアタマ出して?」
「おう」
俺は、康史の膝の上に迷わず頭を置いて寝っ転がった。
「なっ……。トール、いきなり膝の上とか……!?なんだよ、オマエ甘えん坊かよ!………もお、膝枕とかしてほしいのか?」
ちょっと驚いた表情をするのがなんだか可愛くて、思わず笑ってしまう。
「ヤスに、膝枕されたいなって思ったンだ」
「そ…………そう?」
ぎこちなさそうな、ちょっと照れた風情に、普段見慣れない表情がなんだか新鮮だった。
太ももが心地よくて目を閉じるとら血まみれの頭を優しく拭かれて、消毒液をかけられる。
包帯とテーピングをいつものように手際よく巻かれた。
いつも俺の治療は康史がやるので、こんなにも手際もよくなったのだろう。
怪我も、最近じゃ大してしないんだけど。
「トールがそんなに怪我するなんて、今日は何人だったの?」
「30人くらいかな……。なあ、ヤス。全然覚えてねーのかよ?」
「ああ。ぜんぜん、覚えてないし、思い出せないんだ…………。ごめん」
「心配すんな。まあ、俺も昨日は激しかったから、流石に体動かなくってさ、助けにいくの遅れたし」
ひひっと笑って見上げると、まったく分かってないようなきょとんとしたような表情にぶつかった。
「昨日も……激しいって。なあ、昨日、喧嘩したっけ……?」
何度も首を捻って考えこむ康史の様子に、なんだか俺は不安で仕方がなくなってきた。
話が噛み合っていない。
なんだか違和感を感じて俺は上体を起こした。
「ヤス、大丈夫か?」
「いや。ちょっと、オレにいくつか質問させてくれ……トール」
うーんと唸って、康史は、俺の顔を暫くながめた後に、整理するように指を何回か折る。
「あ、ああ…………」
「まず、予備校って言ってたよな。オレ予備校に行ってるのか?それに、試験って……………」
「予備校は、春から行ってるだろ。試験は、大学入試。明後日だから………」
伝えると康史は信じられないとばかりに、首を何度か振って額に手を当てた。
「オレ、いま、3年なの?」
「ああ……。3年だ。もうすぐ卒業だ」
康史の驚いた表情にぶつかる。
康史はぐっと俺の肩を抱き寄せて、なんだか縋るようにギュッとしがみついてくる。
「…………オレの記憶では、今は2年の2学期だ……」
不安そうな言葉で告げて、俺に何かに怯えたかのように康史の体が震えている。
もしかしてショックが大きすぎて、1年以上の記憶が消えたってことか。
「…………マジか……よ……」
2年の2学期ってことは、俺は、まだナズと付き合っていたし、康史もどっかの女の子とつきあってたような気がする。
この一年で起こったことが、康史の中ですべてなかったことになっているのだ。
あまりの衝撃に俺は、康史のカタカタと震える体をただただ放心して抱き返すことしかできなかった。
そして康史が浴室へ入っていくのを見送る。
自分の怪我とか、アドレナリン出まくりであまり痛くないからすっかり忘れていた。
康史が気にするくらいだから、結構切ったのだろう。頭は血が出やすいし、かなり額から顎先まで血だらけになっていた。
着ているシャツも、見下ろすと真っ赤であるが、多分自分のだけではないだろう。
先に寝室に戻って手にしていた救急箱をベッドサイドに置いて座った。
康史は手に洗面器とタオルを持って戻ってくると、俺の隣に座った。
「お湯でタオル温めてきたから、座ってアタマ出して?」
「おう」
俺は、康史の膝の上に迷わず頭を置いて寝っ転がった。
「なっ……。トール、いきなり膝の上とか……!?なんだよ、オマエ甘えん坊かよ!………もお、膝枕とかしてほしいのか?」
ちょっと驚いた表情をするのがなんだか可愛くて、思わず笑ってしまう。
「ヤスに、膝枕されたいなって思ったンだ」
「そ…………そう?」
ぎこちなさそうな、ちょっと照れた風情に、普段見慣れない表情がなんだか新鮮だった。
太ももが心地よくて目を閉じるとら血まみれの頭を優しく拭かれて、消毒液をかけられる。
包帯とテーピングをいつものように手際よく巻かれた。
いつも俺の治療は康史がやるので、こんなにも手際もよくなったのだろう。
怪我も、最近じゃ大してしないんだけど。
「トールがそんなに怪我するなんて、今日は何人だったの?」
「30人くらいかな……。なあ、ヤス。全然覚えてねーのかよ?」
「ああ。ぜんぜん、覚えてないし、思い出せないんだ…………。ごめん」
「心配すんな。まあ、俺も昨日は激しかったから、流石に体動かなくってさ、助けにいくの遅れたし」
ひひっと笑って見上げると、まったく分かってないようなきょとんとしたような表情にぶつかった。
「昨日も……激しいって。なあ、昨日、喧嘩したっけ……?」
何度も首を捻って考えこむ康史の様子に、なんだか俺は不安で仕方がなくなってきた。
話が噛み合っていない。
なんだか違和感を感じて俺は上体を起こした。
「ヤス、大丈夫か?」
「いや。ちょっと、オレにいくつか質問させてくれ……トール」
うーんと唸って、康史は、俺の顔を暫くながめた後に、整理するように指を何回か折る。
「あ、ああ…………」
「まず、予備校って言ってたよな。オレ予備校に行ってるのか?それに、試験って……………」
「予備校は、春から行ってるだろ。試験は、大学入試。明後日だから………」
伝えると康史は信じられないとばかりに、首を何度か振って額に手を当てた。
「オレ、いま、3年なの?」
「ああ……。3年だ。もうすぐ卒業だ」
康史の驚いた表情にぶつかる。
康史はぐっと俺の肩を抱き寄せて、なんだか縋るようにギュッとしがみついてくる。
「…………オレの記憶では、今は2年の2学期だ……」
不安そうな言葉で告げて、俺に何かに怯えたかのように康史の体が震えている。
もしかしてショックが大きすぎて、1年以上の記憶が消えたってことか。
「…………マジか……よ……」
2年の2学期ってことは、俺は、まだナズと付き合っていたし、康史もどっかの女の子とつきあってたような気がする。
この一年で起こったことが、康史の中ですべてなかったことになっているのだ。
あまりの衝撃に俺は、康史のカタカタと震える体をただただ放心して抱き返すことしかできなかった。
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