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三学期編
太陽のような人 →side Y
しおりを挟むオレは寝ている時に、時々夢を見てるってわかる時がある。
ああ、これは夢なんだなって、夢の中で気づいている。
「ヤスー、ヤス、今日帰りにサッカーしようって誘われたぞ」
授業が終わったすぐ後に、ぴょこっと周りより一回り大きい身長の東流が僕の机に腰をおろして、真っ直ぐな目で見下ろしていた。
ああ、懐かしい。これは、10年くらい前の東流の幼い顔だ。
平均よリモ高い身長のうえ、しっかりとした肉付きで、見た目は中学生に見えた。
誰も、東流にはかなわなかった。
高学年の生徒たちより身長は高かった。
「だれと?」
東流には言っていなかったのだが、オレはこの時クラスメイトからイジメにあっていた。
だから、他の子達と遊ぶのは嫌で仕方がなかった。
見た目から男オンナとか、オカマとか本当にくだらないことばかりを揶揄うように囃し立てらた。
東流は、俺がイジメられていることには多分気づいていない。
やつらも、東流がいない時を狙って意地悪な悪口をいってくる。
東流は周りをみなくても、まったく問題なくわたっていけるヤツなのだから、オレの事など気にかかるはずもない。
それが、本当にうらやましい。
「オマエもこい」
結局、東流はオレの問いかけを全スルーしてくれる。
いつものことだ。
彼が決めたことには、誰も逆らわない。
太陽のような真っ直ぐな笑顔を向けて、机から降りるとオレの腕を掴んで強く手を引いた。
「でも……僕が行っても………いいのかな」
きっと仲間はずれにされるだけだ。
いや、東流がいれば嫌々ながらに遊びにいれてくれるだろうが、陰口は叩かれるだろう。
いってもいいことなんかないと、こころのどこかで警鐘が鳴る。
傷つくのはいやだった。
悔しい思いもしたくない。
「ヤスいれねえってなら、俺もやらねえから」
にっと笑う東流に腕を引かれるまま、ランドセルを背負って僕はグラウンドへと連れて行かれた。
案の定、クラスの派手な連中が俺を見るなり難色を示した。
そんなことは、分かっていた。
どうせ、仲間はずれだ。
「ヤスシ、女の子みたいだからな。サッカーとかできるの?」
意地悪い言葉に僕はむっとして、奥歯を噛んだ。
こなきゃよかった。
「あァ?ヤスは上手いぞ。何か文句あんのか」
東流は不機嫌になって、周りからもわかる怒りのオーラを撒き散らす。
こういう時のトールは、本気で怖い。
オレの顔を馬鹿にした3年生を殴り倒したこともある。
「べ、べつにないよ。文句なんかないよ。」
慌てたように同級生たちは首を振って、オレの顔を馬鹿にした様子で見下ろすと、ちっと舌打ちをする。
「ヤスシ、足引っ張るなよ」
「うん」
どっちかっていえば、運動は得意だ。
サッカーも結構好きで、東流と二人でボールをとりあったりして遊んでいる。
器用じゃない東流はオレの動きに、いつもついてこれなくなり、負けがこむと不機嫌になってやめたやめたと、別の遊びをすることが多い。
同級生の動きは、オレには少し物足りなかった。
東流よりみんな不器用で、下手である。
この中なら、東流はオレを除けば一番上手いだろう。
「すげえな、ヤスシ。サッカーうまいんだな」
「だろ?ヤスは、すっげえ運動神経いいんだぞ。オレもヤスからボール奪えないしなあ」
何故か自慢気な東流の声が聞こえてくる。
オレにとっては、東流はオレを男だって認めてくれる唯一の存在。
「顔に似合わずだな」
同級生が、まだオレをバカにしている声が聞こえる。
「俺、ヤスの顔可愛くてすきだしね。どの女子より可愛いじゃん」
「そうだけど。ヤスシ……男だし」
「そんなの、かんけえないじゃん。かーいいのは、かーいいだろ」
どこか自慢そうな東流の表情に、心臓はどくんと音をたてた。
オレのコンプレックスをこともなげに好きだと言った、東流が眩しくて輝くように見えた。
オレは思いっきりゴールに向けてシュートを放つ。
女みたいだといわれるこの顔を認めてくれる、唯一の人。
どくんどくんと心臓の音だけが、大きく響いていく。
「ヤスシ!すげーーー、ナイスシュート!!!」
馬鹿にしていたクラスメイトが、オレに歓喜の顔で駆け寄ってくる。
イジメていた連中も、オレを賞賛する言葉をくれる。
でも、そんなことよりも、何より東流の言葉だけが耳に残って離れなかった。
懐かしい。
泣きそうになるくらいの大切な記憶の夢。
太陽のような、ひとの……夢。
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