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二学期編
弱音 →sideY
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誠士にいくら大丈夫とは言われても、ヤクザの組に乗り込むといわれたら気が気ではない。
勉強もらあまりはかどってはいない。
一緒についていくことは断固拒否されたけれど、そもそもがオレが撒いた種である。
小西さんだけなんとかすれば済むなんて、甘いことを考えていた。
というか、今まで東流がしてきた喧嘩で、オレが絡んでないこと自体が殆どない。
体を張って、命まで賭けて守ってくれていた。
子供のときから、ずっと。
惚れずになんかいられない。
友情だけですまない気持ちばかりが溢れてしまう。
……心配でたまらなくて、何一つ手につかねえっての。
机には向かっているものの、下で車の音やサイレンの音が聞こえるたびにびくびくとしてしまう。
カチッと扉が開く音がきこえて、オレはシャープペンを置いて腰をあげ、寝室を出るとリビングのソファーに腰を下ろしている東流を見つける。
「おかえり、遅かったな。大丈夫だったか」
怪我もなく生きて動いてここに帰ってきてくれた。
それが嬉しくて、早足でリビングに入ると東流の背後から肩に手を置いた。
なんだか、手をおいた着ている服が冷たく、うんともすんとも返事もない。
「流石に疲れたよな、コーヒでも飲むか」
「……ああ」
なんだか心ここにあらずの表情で、どこかいつもと違う様子に、俺は首をかしげた。
何も恐れることのない瞳が、どこかなんだか弱気に見える。
いつも無駄に迷いのない表情が、今は激しく動揺しているようだ。
「トール……あっちで何かあったのか?」
ぱっさぱっさになっている潤いの無い、冷たくなっている髪に指を通して撫でる。
「オヤジがさ、あの……久住組にいたんだ。オヤジ………ヤクザだった」
ショックを受けた様子で、顔を掌で覆う東流に俺は思わず手をとめた。
……何を言ってるんだ?
どこの組だかは知らなかったが、東流のオヤジさんが現役のヤクザなのは今更の話しだろ?
そんなこと、近所でも有名だったし……学校でも知らないやつはいなかった。
オレは、小学校のときに聞いて知っていたのだが、当の東流はしらなかったというのだろうか。
「トール……まさか、知らなかった、のか?」
「ヤスは知ってたのか?俺は自分がヤクザの息子だなんてしらなかった。俺……オマエと付き合ってたらオマエに迷惑かけちまう。だから……これっきりにしようぜ」
何を言い出すんだ。
オレは昔から、そんなことは知っていたし、それでもずっと一緒に居た。
今まで迷惑をかけてきたのは俺のほうだっていうのに。
「そんなこと、オレが納得すると思うか?」
落ち着かせようと静かに言葉を返すと、東流はオレの顔をぎっと睨みあげる。
「……どんなに堅気に俺が生きようと思ったって、色々絡んでくるやつらはでてくるだろ。そんなのにオマエを巻き込みたくねえんだよ」
今まで、東流を巻き込みまくってたのはオレのほうだ。
それでも、守られるだけなのがイヤで、東流の弱味にならないように、体だって鍛えた。
「いまさら、オレから……逃げられると思ってるのか?」
「俺が逃げようと思えば、いつでも逃げられる」
低いトーンで返す表情は、いつもの表情ではなくどこか研ぎ澄まされた野生の獣のような顔だ。
いつだって隠している、野獣の帝王の顔。
迂闊に力で抑え込もうと思えば、本当に逃げられちまう。
「トール、言っておくけどさ。そのこと知らなかったのお前だけだよ」
「ヤスは……いつ知った?」
「小学生の頃に親やセイハに聞いてたから、トールも知ってると思ってた。近所の人や同級生はみんな知ってたよ」
黙り込んだ東流は、ぐっと拳を握り締めている。
多分、あの家族の中でも知らないのは東流だけだったんだろうなという気がする。
「怖い……んだ……」
俯いたまま、普段は怖いものなど何もないと嘯くこいつが、本気で怖がっているのを初めて見たような気がした。
「ガキの暴力とは違う暴力っていうの……組にいって初めて感じて……もしそれが、オマエに降りかかったらって思ったら……どうしようもなく怖い。オマエを守れる自信が……俺にはねえ」
震える拳にオレは手を置いて、ぎゅっと包み込むように重ねた。
「なあ、オレはオマエに……守られるだけの男かよ?それに……大丈夫だよ。今までだって、これからだって、オヤジさんはお前ら家族に危害が及ぶようなへまはしねえよ」
大きな体がふるふると震えて、ぽたぽたと太股の上に涙が落ちる。
「……怖いんだ……。生まれてこんなに怖いの、初めてだ。オマエに何かあったらって思ったら……」
恐怖に慣れていない、彼の中の唯一の恐怖がオレなのだとしたら。
オレが、唯一の彼の弱味なのだとしたら。
そう思うと愛しさが増して、回り込んで彼の隣に腰を下ろして強く抱きしめた。
勉強もらあまりはかどってはいない。
一緒についていくことは断固拒否されたけれど、そもそもがオレが撒いた種である。
小西さんだけなんとかすれば済むなんて、甘いことを考えていた。
というか、今まで東流がしてきた喧嘩で、オレが絡んでないこと自体が殆どない。
体を張って、命まで賭けて守ってくれていた。
子供のときから、ずっと。
惚れずになんかいられない。
友情だけですまない気持ちばかりが溢れてしまう。
……心配でたまらなくて、何一つ手につかねえっての。
机には向かっているものの、下で車の音やサイレンの音が聞こえるたびにびくびくとしてしまう。
カチッと扉が開く音がきこえて、オレはシャープペンを置いて腰をあげ、寝室を出るとリビングのソファーに腰を下ろしている東流を見つける。
「おかえり、遅かったな。大丈夫だったか」
怪我もなく生きて動いてここに帰ってきてくれた。
それが嬉しくて、早足でリビングに入ると東流の背後から肩に手を置いた。
なんだか、手をおいた着ている服が冷たく、うんともすんとも返事もない。
「流石に疲れたよな、コーヒでも飲むか」
「……ああ」
なんだか心ここにあらずの表情で、どこかいつもと違う様子に、俺は首をかしげた。
何も恐れることのない瞳が、どこかなんだか弱気に見える。
いつも無駄に迷いのない表情が、今は激しく動揺しているようだ。
「トール……あっちで何かあったのか?」
ぱっさぱっさになっている潤いの無い、冷たくなっている髪に指を通して撫でる。
「オヤジがさ、あの……久住組にいたんだ。オヤジ………ヤクザだった」
ショックを受けた様子で、顔を掌で覆う東流に俺は思わず手をとめた。
……何を言ってるんだ?
どこの組だかは知らなかったが、東流のオヤジさんが現役のヤクザなのは今更の話しだろ?
そんなこと、近所でも有名だったし……学校でも知らないやつはいなかった。
オレは、小学校のときに聞いて知っていたのだが、当の東流はしらなかったというのだろうか。
「トール……まさか、知らなかった、のか?」
「ヤスは知ってたのか?俺は自分がヤクザの息子だなんてしらなかった。俺……オマエと付き合ってたらオマエに迷惑かけちまう。だから……これっきりにしようぜ」
何を言い出すんだ。
オレは昔から、そんなことは知っていたし、それでもずっと一緒に居た。
今まで迷惑をかけてきたのは俺のほうだっていうのに。
「そんなこと、オレが納得すると思うか?」
落ち着かせようと静かに言葉を返すと、東流はオレの顔をぎっと睨みあげる。
「……どんなに堅気に俺が生きようと思ったって、色々絡んでくるやつらはでてくるだろ。そんなのにオマエを巻き込みたくねえんだよ」
今まで、東流を巻き込みまくってたのはオレのほうだ。
それでも、守られるだけなのがイヤで、東流の弱味にならないように、体だって鍛えた。
「いまさら、オレから……逃げられると思ってるのか?」
「俺が逃げようと思えば、いつでも逃げられる」
低いトーンで返す表情は、いつもの表情ではなくどこか研ぎ澄まされた野生の獣のような顔だ。
いつだって隠している、野獣の帝王の顔。
迂闊に力で抑え込もうと思えば、本当に逃げられちまう。
「トール、言っておくけどさ。そのこと知らなかったのお前だけだよ」
「ヤスは……いつ知った?」
「小学生の頃に親やセイハに聞いてたから、トールも知ってると思ってた。近所の人や同級生はみんな知ってたよ」
黙り込んだ東流は、ぐっと拳を握り締めている。
多分、あの家族の中でも知らないのは東流だけだったんだろうなという気がする。
「怖い……んだ……」
俯いたまま、普段は怖いものなど何もないと嘯くこいつが、本気で怖がっているのを初めて見たような気がした。
「ガキの暴力とは違う暴力っていうの……組にいって初めて感じて……もしそれが、オマエに降りかかったらって思ったら……どうしようもなく怖い。オマエを守れる自信が……俺にはねえ」
震える拳にオレは手を置いて、ぎゅっと包み込むように重ねた。
「なあ、オレはオマエに……守られるだけの男かよ?それに……大丈夫だよ。今までだって、これからだって、オヤジさんはお前ら家族に危害が及ぶようなへまはしねえよ」
大きな体がふるふると震えて、ぽたぽたと太股の上に涙が落ちる。
「……怖いんだ……。生まれてこんなに怖いの、初めてだ。オマエに何かあったらって思ったら……」
恐怖に慣れていない、彼の中の唯一の恐怖がオレなのだとしたら。
オレが、唯一の彼の弱味なのだとしたら。
そう思うと愛しさが増して、回り込んで彼の隣に腰を下ろして強く抱きしめた。
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