俺たちの××

怜悧(サトシ)

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二学期編

カムアウト →side Y

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「ヤスシ…………うちの馬鹿がスマン。ヤスシが美人だからって、まさか手を出すなんてコイツには本当に見下げ果てた!金輪際、ヤスシに近寄らせねぇから、イヌに噛まれたと思って許してやってくれねえか」

どうやら、とてつもない勘違いをしているようである。
このオヤジさんも、東流に負けず劣らず、かなり脳内の配線がいかれているので、説明が大変だ。

「え………違います。ちょっと聞いてください」

「いや、言わないでいい。つらかっただろ?わかるぜぇ。無理矢理だったんだろ。本当になんと詫びたらいいか。孝治にも詫びをいれなくてはいけねえって思ってたんだ」

話を聞こうともせず聞く耳すらもってないようで、オレに詫びるオヤジさんの目の前にオレ土下座する。
そして、何とか落ち着かせようとオヤジさんの肩を揺らした。

「ちょっと…………、おじさん、オレの話を聞いてください」

「いや!聞かなくても分かる。コイツは頭がおかしい。結婚するから同棲するって、何考えてるんだか。ここまでイカれちまったとは情けねえ。コイツには、一生かかってもオマエに償わせるから許してやってくれ」
床に頭をこすり付けて、オレの話を全く聞いてくれない親父さんの横で伸びている東流の体を、オレは引き寄せて抱きかかえた。
顔が痛ましく腫れているのは、よっぽど殴られたのか。
ぐっと抱きしめオレも床に頭を擦りつけた。

「おじさん。トールをオレにください…………。一生大事にしますから。オレの全部をかけて幸せにします」

「ヤスシ……なにを…………」

驚きの表情でオレを見下ろすオヤジさんの視線を感じる。
「ごめんなさい。詫びるのはオレの方です。オレがトールをずっと好きで、無理矢理、オレのものにしました。それでも、トールは許してくれて…………オレたち、好き合ってます。お願いします」
東流がオヤジさんに話したことは決して嘘ではない。それを、分かってもらわないと。
「……うちの馬鹿がヤスシに無理強いしてるわけじゃないんだな」
オヤジさんの声はまだ半信半疑だが、オレは胸に抱いたトールの体を再度抱き寄せる。

「あたりまえです。ガキの時からトールはいつでもオレを守ってくれてました」

「あらあら、ヤッちゃんほどの美形ならモテモテじゃないの。それでも、うちのトールがいいの?」

居間から顔を出したちょっと派手で美人なトールのお袋さんは、繁華街で高級クラブを経営している。
「トールしか、オレは駄目なんです」
「おばさんはいいわよ。波砂ちゃんにも愛想つかされて。どうせ、この子が他の女の子とうまくやれるわけないわ」
適当な感じで、長男を簡単に手放してくれる。
おもしろがるように、母親の横からぴょこんぴょこんと中3の双子の紗波さなみ北羅きたらが顔を出す。
二人ともそろって東流にそっくりな顔をしている。
「……ヤッちゃんさあ。もしかして、このアニキのこと抱いてるの」
紗南は、面白がるように東流を指さして臆面もなく聞く。
「……ああ」
「ふうん。最近、アニキの癖に妙に色気あるなって思ってたけど、そういうわけか。へえ……まさかアニキに先こされるとは」
紗南はふふふと笑い、意味深な面白そうな表情を浮かべている。

そういう直感は敏感みたいである  。

「荷物はまとめてたみたいだから、あとで宅配で送ればいいわね。同棲とかいってたけど、じゃあ、生活費は卒業までヤッちゃんに渡すわね。この子には預けられないし」
おばさんの言葉に頷いて、まったく反応がない東流を見下ろす。

「はい。トールが気がついたら連れて帰ります」

「まさか、嫁にください的なこと言われるとは」
オヤジさんはまだ信じられないようすで、俺の顔をじっと見ている。
「ヤッちゃんを嫁にもらいたいってよく言ってたじゃない」
「そうだけどなぁ、まさかなあ」
適当な両親とは言っていたが、まさかここまでオープンに適当とは思ってなかった。
トールの配線がずれてるのも仕方がない。
「怒ってたんじゃ………」
「いや、うちのがヤスシに無理矢理力づくでやっちまったのかとな。」
「いえ、それはオレがスタンガン使って無理矢理やりました」
正直に自分の卑怯なことを告白すると、おじさんは首を振った。
「そりゃあ、仕方ない。油断したアイツの自業自得だな」
…………身内には厳しいな。
オレを許してくれる時点で、かなり間違ってるんだが。

「……く………っ、い……ッてえ……」

漸く目を開いた東流は、オレの体を振り切って目の前にいる親父さんにいきなり食って掛かる。
「ざけんな、オヤジ。俺ァ、反対されても…………ぜってェヤスと結婚する」
ぐわんと引いた腕で繰り出したトールのパンチを、おやじさんはいともたやすく受け止める。
まったく、相手にされてもいない。
「いいぞ」
「ハァ?」
あっけらかんと軽く答えたオヤジさんに、今度は東流があっけにとられていた。
「いいぞって言ってんだ、好きにしろい。で、オマエ。ウエディングドレスは着るのか」
「着るか、くそじじい」
掴まれた腕を引いて、捨て台詞を吐いて振り返った東流は俺と目が合いびっくりした表情を浮かべる。
「あれ……ヤス。来てたのか」
「おそっ」
思わず突っ込むと悔しそうに自分の腕をトールは眺めた。
「一発でノックダウンさせられた……」
「オマエが起きねえから、オレはおじさんに、トールをくださいっつったぞ」
軽く眉をあげてかなり驚いた顔をしたが、すぐにうれしそうな表情を浮かべる。
「……マジか」
うれしいのか。
もしかして言って欲しかったのか。

凄く本当に可愛いと思う。こいつが。

「アニキって、抱かれるほうだったんだなあ」
ニヤニヤと双子が詰め寄ってくるのに、トールはげえっと呟き俺を睨む。
「オマエ、余計なことまでカムアウトした?」

「そこが大事なとこだったみたいだぞ」

すくなくともオヤジさんには、大事なトコだったはずだけど。





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