32 / 353
夏休み編
上書きの証 →side Y
しおりを挟む
「あ……、セージ……」
暫く背中に回した腕でお互いの体温を確かめた後、慌てたように東流は顔を上げて部屋を見回す。
先ほどまで一緒の部屋に居たはずの誠士の姿が忽然と消えていることに驚いているようだ。
いつ居なくなったのか、東流にはまったく検討もつかないようだった。
「誠士なら、空気読んで帰ってったぜ。アイツ、警官よか気象予報士に向いてるんじゃないかな」
東流の疑問に答え、まだ濡れて乾いていない銀色の髪を指先で撫でて項に唇を充てる。
たった数日だけ触れなかっただけなのに、ずっと離れていたような気持ちでいっぱいだった。
甘えるように東流はオレの手のひらの動きに体を預けて、何か言いたそうな表情を浮かべ少し逡巡するが、ぎゅっと目を閉じ思い切ったようにに口を開いた。
「……あのよォ……ヤス……後で嫌な顔されっとショックだからよ、今言う。ケツんとこにひでえ傷があるから……消してくれ」
低い声で響く声になんとなく不穏な空気を感じてオレは眉を寄せた。
さっき言っていた見せたくない傷というのは、もしかしたらその傷のことなのかもしれない。
「消す?」
銀色の髪を指に絡めたまま聞き返すと、東流の体がわずかに緊張したようにこわばる。
「皮膚科行こうとは思ってたけど、文字……つけられたから、ソレ消したいンだ。上からじゅうじゅう焼いてくんねえか……オマエ以外に見せたくねえ」
皮膚を焼くと思い切ったことを言い出す東流の言葉に、一瞬目を見開くが、多分その文字が体に残されたことを知った時の東流のキモチの方がショックだったに違いない。
「じゅうじゅうって焼肉かよ……」
思わずツッコムと東流は肩を揺らして笑う。
なんともないと普段通りの顔をして病院で告げた態度は、自分自身すら偽っていたのだろう。
根性焼きとかガキの頃に、お互いし合ったこともあった。
それを考えると大したことじゃない……。
でも、根性焼きとかする時のトールの顔は、本当にセクシーだったよな。
怪我人を襲わずにいられるか、そっちのほうが俺は心配かもしれない。
「……分かった。じゃあ、疲れてるだろうし、明日にでもやろ…………」
「今だ。少しでも早く消してえ」
体調のことも考えて、明日に先送りにしようとしたのだが、すぐに意思の強い視線に押される。
ここで、体調がどうとか言い出したら、東流のことである、自分でやるから今やるとか言い出すに違いないのだ。
オレは近くに置いた松葉杖を手にとると腰をあげて立ち上がった。
「わかった、ちっと準備してくっから、待ってろよ」
その傷跡があるから不安になっているのであれば、すぐに払拭してやらないと、多分東流は、またやっぱり別れるとか言い出しかねない。
文字ね……大体予想はつくけども……。
戸棚から救急箱を取り出し、大き目の絆創膏と消毒液、チャッカマン、停電用のろうそくを取り出すと両手が使えないのでズボンのポケットに押し込む。
護身用のバタフライナイフがポケットに入っているのを確認して、自室へと戻ると、スエットを脱いで全裸でベッドの端っこに座り、らしくないような泣きそうな表情を浮かべているのにぶつかる。
「…………なんて顔してんだよ」
「いや……やっぱ見られんだなァ……って覚悟決めてたとこ」
松葉杖を近くの壁にたてかけて、ベッドに座る東流の肩に手を置いた。
「いつでもトールは傷だらけだったじゃねえか……そんな傷なんて、今さらだろ?」
「………そりゃ……俺は自分の体の傷とかどーでもいいけど……。オマエが見てショック受けたらどうしようって思ったら、俺……すげえ臆病になった。隠さなきゃって……」
困ったように笑う表情に、いつも自分ことにまったく無頓着な東流が、今回起こした行動の理由のすべてを見た気がした。
「大丈夫。ちゃんと消してやるよ。ただ、他にも色々怪我してるから、余計に明日熱出すぞ」
「どっちにしろ熱出すなら、一気に明日熱出すほうが効率よくねえか」
考えてるのか考えてないのか、そんな効率の良さを求めることもないのだということにも気づいていない東流の言葉に、小さく噴出す。
「とりあえず、傷見せて」
「ん……」
ごろんとうつ伏せになった右尻たぶに、刃物で抉られたように卑猥なマークと「ベンキ→」と刻まれている。
怒りに震えそうな自分を諌めて、そっと傷跡を優しく指先で撫でた。
「……アイツ等をぶっ殺しておけばヨカッタな」
「バーカ、オマエが殺人とかで捕まったら……ツマンネエよ、俺が色々やった意味なくなっし」
平常心で伝えた言葉に、東流はようやく安心したのか体の力を抜いて身を任せる。
「これは、今日つけられたのか?」
「いや……ホテルんとき。オマエが目ェ覚まして、ここに帰ってから気づいたけど……」
静かに語る様子にろうそくに火を点して、尻の傷痕に消毒液を塗り始める。
「それで…………あの時価値ねえとか言ってたわけね。トールにどんな傷があっても、トールに変わりはねえよ。そんなもんでどうにかなる気持ちなら……俺も、もっと簡単に諦められたぞ」
消毒液をバタフライナイフにふきかけて、点したろうそくに翳して炙って熱をもたせる。
じりじりと赤く焼けるナイフを、東流は横目で捕らえてふっと笑みを刻んだ。
「まあ、それだけじゃねえけど。……そういうもんか……思ってるよか、俺、すげェ愛されちゃってるんだな。だったら、その傷痕……オマエの痕残して消してくれ……俺の全部はオマエのもんだって、証に変えてくれ」
「オレの………もんだよ。トールは一生、オレだけのもんだ」
赤く焼けたナイフを翳して、傷痕へゆっくりと刻み付けるように、オレは東流の皮膚にぎゅううと熱を押し当てた。
暫く背中に回した腕でお互いの体温を確かめた後、慌てたように東流は顔を上げて部屋を見回す。
先ほどまで一緒の部屋に居たはずの誠士の姿が忽然と消えていることに驚いているようだ。
いつ居なくなったのか、東流にはまったく検討もつかないようだった。
「誠士なら、空気読んで帰ってったぜ。アイツ、警官よか気象予報士に向いてるんじゃないかな」
東流の疑問に答え、まだ濡れて乾いていない銀色の髪を指先で撫でて項に唇を充てる。
たった数日だけ触れなかっただけなのに、ずっと離れていたような気持ちでいっぱいだった。
甘えるように東流はオレの手のひらの動きに体を預けて、何か言いたそうな表情を浮かべ少し逡巡するが、ぎゅっと目を閉じ思い切ったようにに口を開いた。
「……あのよォ……ヤス……後で嫌な顔されっとショックだからよ、今言う。ケツんとこにひでえ傷があるから……消してくれ」
低い声で響く声になんとなく不穏な空気を感じてオレは眉を寄せた。
さっき言っていた見せたくない傷というのは、もしかしたらその傷のことなのかもしれない。
「消す?」
銀色の髪を指に絡めたまま聞き返すと、東流の体がわずかに緊張したようにこわばる。
「皮膚科行こうとは思ってたけど、文字……つけられたから、ソレ消したいンだ。上からじゅうじゅう焼いてくんねえか……オマエ以外に見せたくねえ」
皮膚を焼くと思い切ったことを言い出す東流の言葉に、一瞬目を見開くが、多分その文字が体に残されたことを知った時の東流のキモチの方がショックだったに違いない。
「じゅうじゅうって焼肉かよ……」
思わずツッコムと東流は肩を揺らして笑う。
なんともないと普段通りの顔をして病院で告げた態度は、自分自身すら偽っていたのだろう。
根性焼きとかガキの頃に、お互いし合ったこともあった。
それを考えると大したことじゃない……。
でも、根性焼きとかする時のトールの顔は、本当にセクシーだったよな。
怪我人を襲わずにいられるか、そっちのほうが俺は心配かもしれない。
「……分かった。じゃあ、疲れてるだろうし、明日にでもやろ…………」
「今だ。少しでも早く消してえ」
体調のことも考えて、明日に先送りにしようとしたのだが、すぐに意思の強い視線に押される。
ここで、体調がどうとか言い出したら、東流のことである、自分でやるから今やるとか言い出すに違いないのだ。
オレは近くに置いた松葉杖を手にとると腰をあげて立ち上がった。
「わかった、ちっと準備してくっから、待ってろよ」
その傷跡があるから不安になっているのであれば、すぐに払拭してやらないと、多分東流は、またやっぱり別れるとか言い出しかねない。
文字ね……大体予想はつくけども……。
戸棚から救急箱を取り出し、大き目の絆創膏と消毒液、チャッカマン、停電用のろうそくを取り出すと両手が使えないのでズボンのポケットに押し込む。
護身用のバタフライナイフがポケットに入っているのを確認して、自室へと戻ると、スエットを脱いで全裸でベッドの端っこに座り、らしくないような泣きそうな表情を浮かべているのにぶつかる。
「…………なんて顔してんだよ」
「いや……やっぱ見られんだなァ……って覚悟決めてたとこ」
松葉杖を近くの壁にたてかけて、ベッドに座る東流の肩に手を置いた。
「いつでもトールは傷だらけだったじゃねえか……そんな傷なんて、今さらだろ?」
「………そりゃ……俺は自分の体の傷とかどーでもいいけど……。オマエが見てショック受けたらどうしようって思ったら、俺……すげえ臆病になった。隠さなきゃって……」
困ったように笑う表情に、いつも自分ことにまったく無頓着な東流が、今回起こした行動の理由のすべてを見た気がした。
「大丈夫。ちゃんと消してやるよ。ただ、他にも色々怪我してるから、余計に明日熱出すぞ」
「どっちにしろ熱出すなら、一気に明日熱出すほうが効率よくねえか」
考えてるのか考えてないのか、そんな効率の良さを求めることもないのだということにも気づいていない東流の言葉に、小さく噴出す。
「とりあえず、傷見せて」
「ん……」
ごろんとうつ伏せになった右尻たぶに、刃物で抉られたように卑猥なマークと「ベンキ→」と刻まれている。
怒りに震えそうな自分を諌めて、そっと傷跡を優しく指先で撫でた。
「……アイツ等をぶっ殺しておけばヨカッタな」
「バーカ、オマエが殺人とかで捕まったら……ツマンネエよ、俺が色々やった意味なくなっし」
平常心で伝えた言葉に、東流はようやく安心したのか体の力を抜いて身を任せる。
「これは、今日つけられたのか?」
「いや……ホテルんとき。オマエが目ェ覚まして、ここに帰ってから気づいたけど……」
静かに語る様子にろうそくに火を点して、尻の傷痕に消毒液を塗り始める。
「それで…………あの時価値ねえとか言ってたわけね。トールにどんな傷があっても、トールに変わりはねえよ。そんなもんでどうにかなる気持ちなら……俺も、もっと簡単に諦められたぞ」
消毒液をバタフライナイフにふきかけて、点したろうそくに翳して炙って熱をもたせる。
じりじりと赤く焼けるナイフを、東流は横目で捕らえてふっと笑みを刻んだ。
「まあ、それだけじゃねえけど。……そういうもんか……思ってるよか、俺、すげェ愛されちゃってるんだな。だったら、その傷痕……オマエの痕残して消してくれ……俺の全部はオマエのもんだって、証に変えてくれ」
「オレの………もんだよ。トールは一生、オレだけのもんだ」
赤く焼けたナイフを翳して、傷痕へゆっくりと刻み付けるように、オレは東流の皮膚にぎゅううと熱を押し当てた。
0
お気に入りに追加
360
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
メカクレショタ灰世くんの人生終了排泄ショー
掌
BL
大人しく地味なメカクレ少年、灰世くんが担任の教師に目をつけられ、身体をドスケベ開発される中で元々持っていた破滅願望をさらけ出され人生終了なショーを開催するお話。
かなり強めの大スカ描写が含まれますのでご注意ください!
コミッションにて執筆させていただいた作品です。ありがとうございました!
・web拍手
http://bit.ly/38kXFb0
・X垢
https://twitter.com/show1write
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる