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夏休み編
畏れていたモノと繋がる気持ち →side T
しおりを挟む熱はひかねーし、康史は帰ってくる兆しもはない。
うだるような熱気にやられ、頭は朦朧として脱水症状をおこしているというのに尿意だけは収まらず、 縛られた自由にならない体をどうにか縮こめて、脂汗を浮かべながら必死に耐える。
あと数ミリでも動いたらきっと漏らしてしまう。
そんな状況でも康史に殺意すら湧かないくらい、俺は憔悴しきっていた。
何でもかんでもこころの問題とは、よく言ったものだと思う。
普段は暴れ馬とも鬼とも言われる俺がこんなふうに縛られただけで、弱ってしまうとか考えられない。
康史の行動が分からなすぎて、俺はどうしようもなかった。
今までの憎しみとか、恨みつらみとか、みせてくれりゃあ単純に怒りを噴き出して逃げることもできるってのに。
こんな状態で我慢している意味などないかもしれない。
康史は俺をこのまま見殺しにするつもりだろう。
でなければ、40度近い気温の最中に拘束したまま、置き去りにするだろうか。殺されるほどに憎まれてたってのが本心か。
理由は、なん、だ。
喧嘩にひっばりまわされるのが、イヤだったからか。
それとも、あいつの親戚の元カノを悲しませて別れたからか。
俺なりに、康史のことは大事にしてきたってのに。
もう…どうでも…いい…か。あんなに……だいじにしてたのに。
あんなに………。
ガタンッと遠くで物音が響くのが聞こえる。
俺をこんな目に合わせている張本人だというのに、それでも物音が康史が帰ってきた音なのではないかと心待ちにしてしまう。
クーラーは、かけ忘れていっただけとか、どうしようもねえトラブルに巻き込まれただとか。
くらくらした頭で自分に都合良いように考える。
あ、ああ、俺は康史に嫌われてることを信じたくねえんだ。
憎まれてるかもしれないということが、怖くて仕方がねえだな。
思考回路がもう覚束無い。
呼吸も荒くなってきて、うまく空気を吸うことができない。
膀胱もたまらなく張ってしまって、身体を身じろぎすることもできない。
俺は、なにより、康史をなく、したくねえんだな。
ヤツのせいでこんなことになっているってのに、自分のバカみたいな気持ちに、笑うしかなかった。
く、そッ、もう、ダメだ……ッ。
幻聴かもしれないが、ダンダンと階段を激しく登る足音が聞こえてくる。
助けて欲しい。苦しい。くる、しい。
何でも、すっから…………ッ、好きなだけ、俺の身体使って性処理でもなんでもしては構わねえから。
こんな、なさけねえ格好で…………しぬ、のは、イヤだ。
膀胱ももう限界で、破裂しちまいそうだ。
バンッと派手に扉が開いて、けたたましく駆け寄る音と視界に影がうつりこむ。
もう、影がなんなのかすら判別できない。
「トール、ごめん!!あちいよな、大丈夫か?クーラーをオフタイマーにしてたの、忘れてた」
エアコンのリモコンを慌ててオンにする背中が微かに見え、ぼやけた視界に心配そうに焦った顔で覗き込むいつもの表情がある。
見知ったいつもの俺を心配するような…………きれ、いな顔。
なんで、そんな顔すんだ。
見殺しにするつもりだったんじゃねえのか。犯して殺そうと思うくらい憎んでんだろ。
あ、もしかしたら、これは、本物の康史で、今までのは偽物だったのかもしれない。
……にせもんに…………だまされてた、だけだ。
「た………すけ………て……くれ」
俺は、康史に必死に救いをもとめる。
ここで跳ね除けられたとしたら、また、辛くて仕方ないはずなのに。
膀胱もパンパンで、息苦しくて死にそうだ。
「おい…………、トール、大丈夫か!」
俺の反応に顔が歪み、康史は必死で抱き起こそうとする。
「……ッっあ、や…す…………ゆら…すんじゃねぇ……ッ」
膀胱がどうにかなっちまう。
掠れすぎた声は届かなくて、康史が必死に更に体を揺さぶってくる。
「………ヤス……う……う、も、っ……れッ」
膀胱の堰が決壊してじょろっと溢れ出した尿を止めることもできずに、俺はガキのようにしゃくりあげるしかなかった。
驚いた表情を浮かべる康史の顔も見れず、拘束されて顔を覆い隠すこともできずに、じょぼじょぼと俺は失禁し続けた。
「……ごめん、トール……ごめん……」
泣き出しそうな顔で、康史は尿だらけになるのも構わず俺を強く抱きしめる。
歪んでる視界の中に入ってくる康史の顔と、重なる唇から冷たい水が流れ込む。
なんで、あやまって……んだ…よ、にせ、もんの、せいだろ?
何度も唇から流しこまれる水にだんだん体内の息苦しさがゆっくり薄れてくる。
「や………す……………おれのこと…ころすんじゃ…………ねえの」
やっと絞り出す出た声で、尿だらけになっている俺の拘束を外して解放する康史を見上げて、ぐったりと体を預けたまま問いかける。
康史は、瞬間大きく目を見開いて、殺さない殺すわけないと何度も首を横に振った。
汗でべたべたになった俺の前髪をそっとかきあげて、落ち着かせるように何度も撫でる。
「トール……ゴメン。こんなことをした理由、ちゃんと言う。許さなくて構わない」
顔を覗きこんだ康史の表情が泣き出しそうに少しゆがむ。
何に怒ったのか、なんで、憎んだのか、理由が知りたかった。
許さないなんてことは、ない。
多分、きっと、俺がわりいのだ。
「トール、好きだ。ずっと抑えてたけど我慢できないくらいに好きで、体を手に入れたら、心も手に入るって思ってた。オレに欲情して、オレなしでは堪らないくらいになればって思って.......やった」
一瞬、俺はまったく考えもつかなかった拘束の理由に、わけがわからず目を見開いた。
ああ…………そうか。
なんだ、そうか。
.......恨んだり、憎んだりしてるわけじゃねえんだ。
康史が俺の腕に掛かった脚を括っていたベルトを名残惜しそうに外した。
康史が俺をずっと憎んでたわけじゃなかったと思ったら、重たかった心がふっと軽くなった。
「……そうか。………………にくまれて、おかされたんじゃねえなら、いい」
康史が俺を好きだっていうのなら、犯されたこともなんか仕方がないような気がした。
俺を好きだという理由なら、しょうがないかなとか思えた。
俺の頭の中も相当熱気で麻痺しているみたいだが、 康史に嫌われているのでなければ、俺はそれでよかった。
康史は、好きだから強姦するとか嘯くような、そういうタイプじゃねえけど、相手が女じゃねえから、そうなるのかもしれない。
頭がうまく…………動いてねえけど。
「……トール?」
俺の言葉に、康史は心底意外だったのか目が点の状態になって真意を問うように俺を覗き込む。
「……おれは、やす……を、なくしちまう…………とおもった……」
嗄れて聞きづらい声になってしまった。一番、辛かったのは暑さでも腹の痛みでもなく、それだった。
「ごうかんは、だめだ。……かなしい。おれ、とっくのむかしから、やすいねえとだめだ」
朦朧としてる頭が追いつかず、カタコトでしか話せないのがもどかしい。
「……トール。オレの好きは……そういう好きなんだ。ずっと、トールをそういう風に見てたのは、嘘じゃないんだ」
必死で抱きしめてくる腕が心地よかった。
汗と尿で濡れてべとべとになった俺を、何度も康史は抱きしめる。
「……いわなきゃわかんねえべ……おれはヤスをなくしたくないくらいにはすきなんだからよ……」
最初は戸惑うかもしれなかったけど、聞いていたら腹括ってたとも思う。
こんなに悲しい辛い思いとかしねえですんだと思うと、少し腹立たしい。
視界が暗くなって、康史が俺に唇をくっつけたなとか思っているうちに、許容量を超えた意識は谷底に飲み込まれた。
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