俺たちの××

怜悧(サトシ)

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夏休み編

干からびていく心と身体 →side T

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これは、夢だ。
随分、懐かしい夢。

「とーる、もうかえっちゃうの。もっとあそぼうよ」

俺の腕を精一杯引っ張って、可愛いまん丸の目に涙を浮かべてひきとめる。

これは、夢の中だ。
ふわふわして、幸せなだけの夢だ。

少し赤茶色の髪の可愛らしい子。
ああ、これは幼稚園のときの康史だ。
女の子に間違われるくらい天使のように可愛い顔。
「もう4じだから、おそくなったらげんこつされる」
親父もオフクロも元ヤンなので、ちょっとでも悪いことをしたり言う事をきかないと俺の頭をガンガン殴った。
子供ながらにちょっとした恐怖心を抱いていたような気もするが、それにも慣れっこにもなっていった。
俺が大概のことに動じなくなったのはこの教育方針のせいだと思う。

「げんこはいたいね。もう、かえらないとだね」

康史は泣き止んで、こころから心配するように俺の顔を覗き込んでくる。
このころからそうだった。
俺を心配して腕をつかんで必死な顔をする。
心配するように見つめるその表情が大好きだ。今もそれは変わらない。

「うん。だからもうかえる。あした、またあそべ」
「おとなになったら、もっといっしょにあそべる?」
大人になってげんこされないようになったら、もっと自由になったら、ずっときっともっとながく一緒に遊べる。
だから、早く開放されたい。一刻も早く大人になろう。
「やす、おとなになったらいちにちじゅう、ずっといっしょにいような」
「やくそくだよ」
一番好きなやつの隣でずっとたのしく遊ぼう。
約束だ。
それは決して違えない約束。

「おー、おとことおとこのやくそくだ」




目を覚ますと近くには誰も居なかった。 

部屋には扇風機が回っているだけで、40度近くはあるであろう熱の空気が吹き付けられる。 
汗がねばっこく肌にからみつき、シーツがぐっしょりと濡れて染みをつくっていた。 
康史の姿が見えず、両手はベッドヘッドのパイプに括られ、脚にはご丁寧に革ベルトで両腕と一緒に縛り上げられている。 
ケツの穴はいつでも使えるようにとばかりに、拡張器がはさみこまれている。

まったく、情けない姿だ。

自由に動けない、それだけで不安で仕方がなかった。 
普段の俺ならこんな拘束、簡単に引きちぎれるはずだった。
でも、力がまったくでない。
クスリも既に切れているはずだから、クスリのせいってわけでもなさそうだ。
気力の問題。
弱っているのは俺のこころのほうだ。

裸のまま縛られて、このままずっと康史が帰ってこなかったら、俺はどうなるのだろう。 
水分も熱気に奪われて干からびたミイラになるのだろうか。 
それとも痩せてロープが緩んで解放されるだろうか。 
まず、そこまで、生きられるのか? 
今まで生きてきて、俺が不安に思ったことはあるだろうか。 

「ねぇな」 

ふっと呟いた声が完全に掠れてしわがれていた。 
康史は俺を憎んでいたのだろうか。
今まで俺にずっと従ってきたのは、何でなんだ。 
憎みながらも、一緒にいたというのだろうか。 
ぐるぐるとぼんやりする脳みそ考えるが、何も考え付かなくなるくらい体が熱かった。 
熱中症……になったらどうするんだろう。 
憎いなら……何も思わないか。 
汗が扇風機に晒されて少しだけ熱がさがる。 
見ていてムカつくと言ったあいつの顔が、脳裏に思い浮かぶ。 
俺をこんな恥辱にあわせて、それでスッキリするのだろうか。
ずっと変わらずにダチでいるって思ってた俺は、犯された事実よりもその言葉に打ちのめされた。 

「ヤス……」 

呼びなれた名前を口にのぼせる。 
腰も身体もだるくて熱い。喧嘩でもこんなに苦しんだことはない。 
それと…腹部が痛むほどの尿意だ。 
見慣れた部屋の扉は、開かない。 
誰も居ない部屋。 
どこにいったのだろう…康史。 

康史……早く帰ってきてくれ…… 
何もかもが全部干からびてしまいそうだ。 



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