42 / 101
第一話 拳銃遣いと龍少女
値する者 Part.2
しおりを挟む
「さぁ~て、さて、どうなってるかねぇ?」
どう転んでも悪い目がない勝負は楽しくて仕方がない。仕掛けは上々で第一、第二段階まで順調に事が運んだこともあり、レイチェルは緋色の瞳を鈍く輝かせて哀れな生け贄を見下ろしてた。
クレイトン牧場より北西へ十五㎞の丘陵地帯にアイリスはいる。両手を縛られ、馬車に繋がれていても彼女は凛と背筋を伸ばし、空元気を奮っているジョンを励ましていた。盗賊と魔女に囲まれているなんて、決して味わいたくないキャラバンの第一位であるが、少年はそれでも泣き言一つ言わなかった。
「あなたは強い子です、ジョン。大丈夫です、きっと助かりますよ」
「へ……平気さ、これくらい。ねえちゃんこそ大丈夫かい?」
ありったけの勇気をかき集めてなんとか堪えているのだろう、ジョンの身体は震えてしまっているが、アイリスはそっと頭を撫でてやった。
「わたしの傍にいてくださいね」
「別にこわくなんか――」
「わたしも安心できます」
そう微笑むと、アイリスは小さな手を握ってやる。
おかげで少しは緊張がほぐれたらしいジョンは、引き攣りながらも笑顔を浮かべてみせるが、二人が放つ感動的なオーラがレイチェルは気に入らなかった。
「おやおや、涙ぐましいねえお二人さん。随分と余裕がありそうじゃないか」
「貴女が必要としているのはわたしだけの筈です、ジョンは解放してあげてもらえませんか」
「馬鹿を言いでないよ、顔だけじゃ無く頭の中まで緩いみたいだね。人質をみすみす逃がすわけがないじゃないか、あんた達には餌としていて貰わなきゃならないのさ」
誘拐と脅迫は、他者に行動を強要する際に有効な手段の一つである。ジョンはクレイトンに、アイリスはレイヴンに対しての強力な手札になると彼女はみているが、ここで一つ嗜虐的な笑みを刻むのだった。
「しかしまぁ、一理あるね。小僧の役目は終わってる、必要なのはあんただけだ」
「では解放して貰えますか」
「……いいだろう」
すんなりと承諾され安堵の息を漏らしたアイリスだったが、直後背筋の凍る思いをした。レイチェルは部下が提げている拳銃を抜き取ると、銃口をジョンへと向けたのである。
「ひッ……!」
「な、何をするんです! 逃がすと言ったじゃないですか⁉」
「あんたが言っただけだろう? 餓鬼は用済みだし、連れ回すのも面倒だ。生きてようがいまいが、クレイトンは知りやしないしねぇ。心配しなくても家族とはすぐに会えるさ、あの世でね」
親指に嬲られた撃鉄が上がり、アイリスは咄嗟にジョンを庇って抱きしめる。いつ背中に銃弾が食い込むかもしれないが、それでも少年を死なせるわけにはいかない。
だが、その健気さもレイチェルを愉しませるだけだ。
「あらまぁ、困った。餓鬼はまだしも、あんたには役目がある、撃っちまうわけにはいかないねぇ……」
歪な唇。レイチェルがつい――と顎を振れば、盗賊達がアイリスを引き剥がしにかかる。 非力に喘いでも、抵抗は無意味だった。
「やめてください! 放してッ! ジョン、逃げるんですッ!」
「……くない」
「何か言ったかい、ボウズ?」
冷たく燃える瞳には魔力も込められていて、鳴子のように音を立てる奥歯を、それでもジョンは食いしばって耐えていた。並の子供ならパンツを濡らす圧に晒されながら毅然としていられるのは奇跡に近い。
「怖くなんかない。おまえなんか、怖くないぞ」
「くっふふふ、魔女が怖くないって? 大の男でも怖れて泣き叫ぶってのに根性座ってるじゃあないか」
「レイヴン兄ちゃんがきたら、お前なんかイチコロだ。銃だって怖くない」
「いけませんジョン! 脅しじゃありません、彼女は本気で――」
「……そうかい」
小さき深淵の奥に佇む鉛の弾頭を少年は見つめる
パーカッション・リボルバーの銃爪
レイチェルの人差し指に力が加わり
撃鉄が落ちると……
――ガチン、と金属音だけが鳴った
撃鉄は確かに雷管を叩いたが、肝心の炸薬が腑抜けだったおかげで弾は収まったままである。しかし、肉体が無事でもジョンの身体からは力という力が抜けていて、魔女の言葉は曖昧にしか聞こえなかった。
「おやおや不発かい、運が良いね小僧。……まあいいさね、生きてるんなら金にはなる」
「もういいでしょう⁉ 放してください!」
レイヴンが向けた銃口とは異質な圧力。粘性を持った重圧に晒されたジョンは、解放されたアイリスの腕の中で脂汗を滴らせるばかりで、部下に拳銃を投げ返したレイチェルは、そんな二人を見下ろして嘲笑った。
「感動的だねえ? 赤の他人だろうに」
「もう違います、ジョンはわたしの友達なのです」
言い返すアイリスの眼差しからは、気の抜けたお嬢様らしき気配が失せていた。凛々しく吊上がった眉が反抗的である。
「いいねぇ、憎しみを宿した目だ。そういう顔もできるじゃあないか」
「……なにが楽しいのです」
「そりゃあ笑うさね。あんたみたいに人に頼らなきゃあ生きていけないような女を、ぼろ雑巾にするのを考えたら濡れちまう。助けに来た恋人を焼き殺したら、どんな顔になるのか楽しみだよ」
「レイヴンが、わたしを助けに……?」
「おや、そこでとぼけるのかい。あたいはてっきり、奴が来るのを確信してるから、落ち着いてるんだと思ってたがねぇ。愛だなんだと甘ったるい幻想に現を抜かして、お伽話みたく助けを待ってるんじゃあないのかい?」
望んではいた。しかし、レイヴンが助けに来るとは、アイリスは信じてはいなかった。なにしろ彼には、わざわざ助けに来る理由が無いのだ。
「わたしは彼を好いています。ですが、一方的な好意であって、レイヴンがわたしを助けに来ることはあり得ませんよ。見当違いです」
「今更庇い立てかい。さぁて、どうかね?」
せせら笑うレイチェル。しかし、淡々と告げるアイリスの言葉に彼女は、赤眼を細めるのだった。
「とはいえ、レイヴンは現れるでしょう。それはわたしを救う為ではなく、レイチェル、貴女を討つ為にですが」
「歓迎さ。……まあ来るも由、来ないも由さね。魔具が手に入れば文句なしだが、あんたの魔力を奪えるだけでも充分な収獲だ」
「魔力を? どうやってです?」
「おや知らないのかい?」
またも嗜虐に歪むレイチェルの口元。他人が怯え竦む様を眺めるのが、彼女は余程楽しいらしかった。
「心臓さ。魔力を持った女の心臓を喰らえば、その力を奪うことが出来るんだよ、つまり、あんたはどのみち死ぬのさ」
「あり得ませんね」
アイリスの金髪が、ふわりと左右に振れた。呆れ返った、そして憐れみを込めた眼差しを魔女へと向ける。
「貴女は、そのような世迷い言の為に女性を攫っていたのですか? 誰に吹き込まれた話かは知りませんが、魔力とは自身の内側から溢れるものであって、他人から奪えるものでは無いのですよ」
「ところが事実さ。現にあたいは女達の心臓を喰らって強くなった。龍を従え、男共を支配し、一つの魔法で町を焼き払えるくらいにね。あんたの心臓は美味そうだ、楽しみで仕方ないよ、怒りや絶望に塗れた心臓は特に魔力が上がるからね」
「ならば何故、魔具を求めるのです」
「あんたみたいな世間知らずのお嬢様には分からないだろうが、生きていくには力がいるのさ。一つよりも二つ、多ければ多い方がいい。あんたの男が持っている魔具は、さぞ強力だと聞いてるよ、あたいが作った守りを撃ち抜くとか。手に入れば、あたいに逆らう者はいなくなる」
「なんと愚かな……。力ばかりを追い求めた先に何があるというのです」
「自由さ。誰にも縛られない自由だよ、権力にも、男にもね。邪魔する奴は消し炭にしてやる、あたいはその力に選ばれたのさ。だから嬢ちゃん、一つ教えといてやるよ、あたいの邪魔をするつもりなら覚悟しておくんだね、どうせ死ぬなら楽に死にたいだろ?」
ついと、頬を撫でたレイチェルの指先をアイリスは払いのける。
レイヴンが助けに来るとは、やはり思ってはいない。だが同時に絶望もしてはいなかった。
「盲目的に力を追い求めている時点で、貴女は魔法に縛られてしまっています。そこにどんな自由がありますか、極めたとて孤独、真に求める物は遠ざかるばかりですよ。難しいでしょうが、魔女として覚醒した貴女がするべきだったのは、力を行使し他者を押退けることでは無く、その力を持って許すことだったはずです。光の道に背を向けたのは、貴女の選択でしょう」
「ハッ、許すだって? 綺麗事で片付くような世界だとでも思ってんのかい? 汚泥を啜りながら、男共に媚びを売ったことがあんたにあるのか。知った風な口を利くんじゃあないよ、その辺で口を噤まないと痛いめを見ることになる」
「貴女の境遇や過去を推し量るの困難です。わたしを痛めつける分には一向に構いませんし、例え命を奪われたとしても恨みはしませんよ。ですが――」
怒りに燃える深紅の瞳、その炎に焼かれながらもアイリスは物怖じすること無く、むしろ強者としてのオーラを纏っていた。
「これだけは宣言しておきます。矛を収め退くならば全ては収まるでしょう、しかし蛮行を重ね、大切な人々を傷つけるような事があるならば、わたしは決して貴女を許しません」
「おやおや、おっかない。その綺麗な手であたいを脅そうって? どうするね、首でも絞めて殺すのかい? あんたに何が出来るってのさ」
「……貴女の想像以上のことです。忠告はしました、容赦はしません」
それ以降、二人が口を利くことは無かった。
約束の時間まで後、数時間である。
どう転んでも悪い目がない勝負は楽しくて仕方がない。仕掛けは上々で第一、第二段階まで順調に事が運んだこともあり、レイチェルは緋色の瞳を鈍く輝かせて哀れな生け贄を見下ろしてた。
クレイトン牧場より北西へ十五㎞の丘陵地帯にアイリスはいる。両手を縛られ、馬車に繋がれていても彼女は凛と背筋を伸ばし、空元気を奮っているジョンを励ましていた。盗賊と魔女に囲まれているなんて、決して味わいたくないキャラバンの第一位であるが、少年はそれでも泣き言一つ言わなかった。
「あなたは強い子です、ジョン。大丈夫です、きっと助かりますよ」
「へ……平気さ、これくらい。ねえちゃんこそ大丈夫かい?」
ありったけの勇気をかき集めてなんとか堪えているのだろう、ジョンの身体は震えてしまっているが、アイリスはそっと頭を撫でてやった。
「わたしの傍にいてくださいね」
「別にこわくなんか――」
「わたしも安心できます」
そう微笑むと、アイリスは小さな手を握ってやる。
おかげで少しは緊張がほぐれたらしいジョンは、引き攣りながらも笑顔を浮かべてみせるが、二人が放つ感動的なオーラがレイチェルは気に入らなかった。
「おやおや、涙ぐましいねえお二人さん。随分と余裕がありそうじゃないか」
「貴女が必要としているのはわたしだけの筈です、ジョンは解放してあげてもらえませんか」
「馬鹿を言いでないよ、顔だけじゃ無く頭の中まで緩いみたいだね。人質をみすみす逃がすわけがないじゃないか、あんた達には餌としていて貰わなきゃならないのさ」
誘拐と脅迫は、他者に行動を強要する際に有効な手段の一つである。ジョンはクレイトンに、アイリスはレイヴンに対しての強力な手札になると彼女はみているが、ここで一つ嗜虐的な笑みを刻むのだった。
「しかしまぁ、一理あるね。小僧の役目は終わってる、必要なのはあんただけだ」
「では解放して貰えますか」
「……いいだろう」
すんなりと承諾され安堵の息を漏らしたアイリスだったが、直後背筋の凍る思いをした。レイチェルは部下が提げている拳銃を抜き取ると、銃口をジョンへと向けたのである。
「ひッ……!」
「な、何をするんです! 逃がすと言ったじゃないですか⁉」
「あんたが言っただけだろう? 餓鬼は用済みだし、連れ回すのも面倒だ。生きてようがいまいが、クレイトンは知りやしないしねぇ。心配しなくても家族とはすぐに会えるさ、あの世でね」
親指に嬲られた撃鉄が上がり、アイリスは咄嗟にジョンを庇って抱きしめる。いつ背中に銃弾が食い込むかもしれないが、それでも少年を死なせるわけにはいかない。
だが、その健気さもレイチェルを愉しませるだけだ。
「あらまぁ、困った。餓鬼はまだしも、あんたには役目がある、撃っちまうわけにはいかないねぇ……」
歪な唇。レイチェルがつい――と顎を振れば、盗賊達がアイリスを引き剥がしにかかる。 非力に喘いでも、抵抗は無意味だった。
「やめてください! 放してッ! ジョン、逃げるんですッ!」
「……くない」
「何か言ったかい、ボウズ?」
冷たく燃える瞳には魔力も込められていて、鳴子のように音を立てる奥歯を、それでもジョンは食いしばって耐えていた。並の子供ならパンツを濡らす圧に晒されながら毅然としていられるのは奇跡に近い。
「怖くなんかない。おまえなんか、怖くないぞ」
「くっふふふ、魔女が怖くないって? 大の男でも怖れて泣き叫ぶってのに根性座ってるじゃあないか」
「レイヴン兄ちゃんがきたら、お前なんかイチコロだ。銃だって怖くない」
「いけませんジョン! 脅しじゃありません、彼女は本気で――」
「……そうかい」
小さき深淵の奥に佇む鉛の弾頭を少年は見つめる
パーカッション・リボルバーの銃爪
レイチェルの人差し指に力が加わり
撃鉄が落ちると……
――ガチン、と金属音だけが鳴った
撃鉄は確かに雷管を叩いたが、肝心の炸薬が腑抜けだったおかげで弾は収まったままである。しかし、肉体が無事でもジョンの身体からは力という力が抜けていて、魔女の言葉は曖昧にしか聞こえなかった。
「おやおや不発かい、運が良いね小僧。……まあいいさね、生きてるんなら金にはなる」
「もういいでしょう⁉ 放してください!」
レイヴンが向けた銃口とは異質な圧力。粘性を持った重圧に晒されたジョンは、解放されたアイリスの腕の中で脂汗を滴らせるばかりで、部下に拳銃を投げ返したレイチェルは、そんな二人を見下ろして嘲笑った。
「感動的だねえ? 赤の他人だろうに」
「もう違います、ジョンはわたしの友達なのです」
言い返すアイリスの眼差しからは、気の抜けたお嬢様らしき気配が失せていた。凛々しく吊上がった眉が反抗的である。
「いいねぇ、憎しみを宿した目だ。そういう顔もできるじゃあないか」
「……なにが楽しいのです」
「そりゃあ笑うさね。あんたみたいに人に頼らなきゃあ生きていけないような女を、ぼろ雑巾にするのを考えたら濡れちまう。助けに来た恋人を焼き殺したら、どんな顔になるのか楽しみだよ」
「レイヴンが、わたしを助けに……?」
「おや、そこでとぼけるのかい。あたいはてっきり、奴が来るのを確信してるから、落ち着いてるんだと思ってたがねぇ。愛だなんだと甘ったるい幻想に現を抜かして、お伽話みたく助けを待ってるんじゃあないのかい?」
望んではいた。しかし、レイヴンが助けに来るとは、アイリスは信じてはいなかった。なにしろ彼には、わざわざ助けに来る理由が無いのだ。
「わたしは彼を好いています。ですが、一方的な好意であって、レイヴンがわたしを助けに来ることはあり得ませんよ。見当違いです」
「今更庇い立てかい。さぁて、どうかね?」
せせら笑うレイチェル。しかし、淡々と告げるアイリスの言葉に彼女は、赤眼を細めるのだった。
「とはいえ、レイヴンは現れるでしょう。それはわたしを救う為ではなく、レイチェル、貴女を討つ為にですが」
「歓迎さ。……まあ来るも由、来ないも由さね。魔具が手に入れば文句なしだが、あんたの魔力を奪えるだけでも充分な収獲だ」
「魔力を? どうやってです?」
「おや知らないのかい?」
またも嗜虐に歪むレイチェルの口元。他人が怯え竦む様を眺めるのが、彼女は余程楽しいらしかった。
「心臓さ。魔力を持った女の心臓を喰らえば、その力を奪うことが出来るんだよ、つまり、あんたはどのみち死ぬのさ」
「あり得ませんね」
アイリスの金髪が、ふわりと左右に振れた。呆れ返った、そして憐れみを込めた眼差しを魔女へと向ける。
「貴女は、そのような世迷い言の為に女性を攫っていたのですか? 誰に吹き込まれた話かは知りませんが、魔力とは自身の内側から溢れるものであって、他人から奪えるものでは無いのですよ」
「ところが事実さ。現にあたいは女達の心臓を喰らって強くなった。龍を従え、男共を支配し、一つの魔法で町を焼き払えるくらいにね。あんたの心臓は美味そうだ、楽しみで仕方ないよ、怒りや絶望に塗れた心臓は特に魔力が上がるからね」
「ならば何故、魔具を求めるのです」
「あんたみたいな世間知らずのお嬢様には分からないだろうが、生きていくには力がいるのさ。一つよりも二つ、多ければ多い方がいい。あんたの男が持っている魔具は、さぞ強力だと聞いてるよ、あたいが作った守りを撃ち抜くとか。手に入れば、あたいに逆らう者はいなくなる」
「なんと愚かな……。力ばかりを追い求めた先に何があるというのです」
「自由さ。誰にも縛られない自由だよ、権力にも、男にもね。邪魔する奴は消し炭にしてやる、あたいはその力に選ばれたのさ。だから嬢ちゃん、一つ教えといてやるよ、あたいの邪魔をするつもりなら覚悟しておくんだね、どうせ死ぬなら楽に死にたいだろ?」
ついと、頬を撫でたレイチェルの指先をアイリスは払いのける。
レイヴンが助けに来るとは、やはり思ってはいない。だが同時に絶望もしてはいなかった。
「盲目的に力を追い求めている時点で、貴女は魔法に縛られてしまっています。そこにどんな自由がありますか、極めたとて孤独、真に求める物は遠ざかるばかりですよ。難しいでしょうが、魔女として覚醒した貴女がするべきだったのは、力を行使し他者を押退けることでは無く、その力を持って許すことだったはずです。光の道に背を向けたのは、貴女の選択でしょう」
「ハッ、許すだって? 綺麗事で片付くような世界だとでも思ってんのかい? 汚泥を啜りながら、男共に媚びを売ったことがあんたにあるのか。知った風な口を利くんじゃあないよ、その辺で口を噤まないと痛いめを見ることになる」
「貴女の境遇や過去を推し量るの困難です。わたしを痛めつける分には一向に構いませんし、例え命を奪われたとしても恨みはしませんよ。ですが――」
怒りに燃える深紅の瞳、その炎に焼かれながらもアイリスは物怖じすること無く、むしろ強者としてのオーラを纏っていた。
「これだけは宣言しておきます。矛を収め退くならば全ては収まるでしょう、しかし蛮行を重ね、大切な人々を傷つけるような事があるならば、わたしは決して貴女を許しません」
「おやおや、おっかない。その綺麗な手であたいを脅そうって? どうするね、首でも絞めて殺すのかい? あんたに何が出来るってのさ」
「……貴女の想像以上のことです。忠告はしました、容赦はしません」
それ以降、二人が口を利くことは無かった。
約束の時間まで後、数時間である。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
世に万葉の花が咲くなり
赤城ロカ
大衆娯楽
ワンマンライブを目前に控えたバンドマンの主人公は、ある夜に酔いつぶれた女を家まで連れて行き介抱した。コートのポケットには「ジョニー・ウォーカー」と書かれた名刺があった。翌朝、女の姿は無く、さらに愛用しているギター、リッケンバッカーも無くなっていた。手がかりはジョニー・ウォーカーという名刺のみ。ギターを取り戻そうと主人公は動き出すが……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる