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第一話 拳銃遣いと龍少女
正義の代償Part.5
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三〇分後に出発の予定だったが、高額な懸賞金にやる気十分なガンマン達は集まりが早く、保安官事務所に集まったのはレイヴンが最後だった。
カウフマン保安官と保安官助手、そして雇われガンマンからなる十人の追跡隊は、二列縦隊で荒野を駆ける。戦意に満ちた彼等の姿はさぞ絵になったろうが、レイヴンだけは他の面子と異なる決意に満ちていた。
ガンマン達は一人ものばかりで、女連れだったレイヴンを、馬蹄に負けない大声であれやこれやとからかっていたが、彼にしてみれば右から左だ。
――襟元開いてもの申すなら、こいつらがどうなろうと知ったことではない。
魔女やその下僕相手では一分持つかも怪しい所で、精々善戦してくれることを祈るばかり。しかし、僅かでも隙を作り出せれば、必殺の一弾を眉間に叩き込んでくれる。生きるべき者が永らえ、死すべき者が絶える最良の結末を望むなら、現状は願ったり叶ったりである。
「浮かない顔だな、ヴァンクリフ」
「保安官に見張られながら馬を駆ってちゃこんな顔にもなるさ」
列の先頭を何故だかカウフマン保安官と並んで走らされている以上逃げ場は無く、この言葉には返事を余儀なくされた。他の戯れ言と一緒に聞き流したら、何を言われるか分かったものじゃない。
「わしはてっきり、あのお嬢さんと揉めた事を気にしておるのかと思っとったんだがな。……お嬢さん方か、この数日で二人も手籠めにするとは驚きだ」
「新しい方は盗賊に襲われた生き残り、治安の悪さに対する弁明があるなら聞くぜ」
「ああ、報告は受けとる卑劣な連中だ。だが連中の悪行も今回で最後になる」
「どうだかな。牧場主はあんたの仕事っぷりに感謝してたが」
つまりは魔女に不干渉だった。忌憚のない嫌味をボビーに代わって伝えてやるが、保安官は特に気にした素振りも見せなかった。
「クレイトンには申し訳ない事をした、その襲われたっていう嬢さんにもな」
「レイチェルは? 魔女だってことは知ってたんだろ?」
「勿論だ。あの女は元々、この辺りを縄張りにしていた盗賊団のボスが囲っていた愛人の一人だった、そいつが魔女の力を得て、盗賊団を乗っ取ったのだ、突然な。対処しようにも魔女に怯えて人手が集まらず、サウスポイントを確保するのが精一杯だったが、レイヴン、お前が現れた。魔女を殺したがるガンマンがな」
「お見通しだったって訳か。何故隠した?」
「寝返らんとも限らんだろう。だがボビー達と町にやってきたのを見て確信したよ、本気で魔女を狙っていると。だから声をかけたのだ、魔女なんぞこの世から消えた方が良いに決まっているが、立ち上がる人間は少ない。わしは待っていたのだ、反撃の時を」
保安官として最善の策をとり続けたとカウフマンは言うが、その間に犠牲になった人間や、こうして使われているレイヴンからすれば――
「都合のいい話だ。それに俺が追ってる魔女は一人きり、それ以外の魔女に関しては意見が異なる、一括りにしないでくれ」
これはレイヴンの見解だが、一般のそれとは大きく異なるものでカウフマンからは明らかな不信感が漂った。
まあ、それは一瞬のことで、置いてけぼりにされる砂塵の如く背後へと消えていったが。
「……なんとでも言うがいい。しかし、レイチェルを捕える点では目的が共通しとるんだ、ならば協力するのが最善だろう」
果たしてその他大勢の犯罪者同様に獄に繋ぐことなど可能なのだろうか。ひたすらに疑問が付きまとう問題ではあるが、こと今回に関してはその心配は無用である。
賞金に用はない、あるのは魔女の命だけだ。
「生かしておくつもりはねえ、魔女は俺が殺す」
カウフマン保安官と保安官助手、そして雇われガンマンからなる十人の追跡隊は、二列縦隊で荒野を駆ける。戦意に満ちた彼等の姿はさぞ絵になったろうが、レイヴンだけは他の面子と異なる決意に満ちていた。
ガンマン達は一人ものばかりで、女連れだったレイヴンを、馬蹄に負けない大声であれやこれやとからかっていたが、彼にしてみれば右から左だ。
――襟元開いてもの申すなら、こいつらがどうなろうと知ったことではない。
魔女やその下僕相手では一分持つかも怪しい所で、精々善戦してくれることを祈るばかり。しかし、僅かでも隙を作り出せれば、必殺の一弾を眉間に叩き込んでくれる。生きるべき者が永らえ、死すべき者が絶える最良の結末を望むなら、現状は願ったり叶ったりである。
「浮かない顔だな、ヴァンクリフ」
「保安官に見張られながら馬を駆ってちゃこんな顔にもなるさ」
列の先頭を何故だかカウフマン保安官と並んで走らされている以上逃げ場は無く、この言葉には返事を余儀なくされた。他の戯れ言と一緒に聞き流したら、何を言われるか分かったものじゃない。
「わしはてっきり、あのお嬢さんと揉めた事を気にしておるのかと思っとったんだがな。……お嬢さん方か、この数日で二人も手籠めにするとは驚きだ」
「新しい方は盗賊に襲われた生き残り、治安の悪さに対する弁明があるなら聞くぜ」
「ああ、報告は受けとる卑劣な連中だ。だが連中の悪行も今回で最後になる」
「どうだかな。牧場主はあんたの仕事っぷりに感謝してたが」
つまりは魔女に不干渉だった。忌憚のない嫌味をボビーに代わって伝えてやるが、保安官は特に気にした素振りも見せなかった。
「クレイトンには申し訳ない事をした、その襲われたっていう嬢さんにもな」
「レイチェルは? 魔女だってことは知ってたんだろ?」
「勿論だ。あの女は元々、この辺りを縄張りにしていた盗賊団のボスが囲っていた愛人の一人だった、そいつが魔女の力を得て、盗賊団を乗っ取ったのだ、突然な。対処しようにも魔女に怯えて人手が集まらず、サウスポイントを確保するのが精一杯だったが、レイヴン、お前が現れた。魔女を殺したがるガンマンがな」
「お見通しだったって訳か。何故隠した?」
「寝返らんとも限らんだろう。だがボビー達と町にやってきたのを見て確信したよ、本気で魔女を狙っていると。だから声をかけたのだ、魔女なんぞこの世から消えた方が良いに決まっているが、立ち上がる人間は少ない。わしは待っていたのだ、反撃の時を」
保安官として最善の策をとり続けたとカウフマンは言うが、その間に犠牲になった人間や、こうして使われているレイヴンからすれば――
「都合のいい話だ。それに俺が追ってる魔女は一人きり、それ以外の魔女に関しては意見が異なる、一括りにしないでくれ」
これはレイヴンの見解だが、一般のそれとは大きく異なるものでカウフマンからは明らかな不信感が漂った。
まあ、それは一瞬のことで、置いてけぼりにされる砂塵の如く背後へと消えていったが。
「……なんとでも言うがいい。しかし、レイチェルを捕える点では目的が共通しとるんだ、ならば協力するのが最善だろう」
果たしてその他大勢の犯罪者同様に獄に繋ぐことなど可能なのだろうか。ひたすらに疑問が付きまとう問題ではあるが、こと今回に関してはその心配は無用である。
賞金に用はない、あるのは魔女の命だけだ。
「生かしておくつもりはねえ、魔女は俺が殺す」
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