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第一話 拳銃遣いと龍少女
人の道、行き着く先
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牧場主達が集まってきたのは、ボビーが今後の方針をもう一度話し合う為に前々から会合を予定していたかららしい。今回は会合に立ち会ったレイヴンだったが、彼等の水掛け論にはうんざりしながら耳を傾けていただけである。なにしろ出てくる意見は、責任のありか、誰が発端となったかと過去を振り返るばかりで、前を見ていない。原因を突き止めたところで魔女の狙いを変えられるはずもなく、するだけ無駄な議論を聞かされたとなればひたすらに退屈だ。
交渉をといった意見もあったが、正直な話、立ち退いてもいいと諦めた牧場主よりも、これが一番馬鹿げている。交渉の余地などハナから存在していない。どの牧場も永らく嫌がらせを受けており、突き付けられた猶予も同じく一週間後に迫っていて頭を抱えるのも仕方のない話だ。どの牧場も家族経営で、争いになれば家族が巻き込まれる可能性があるため、誰も戦おうと言い出せずにいた。なんとかボビーがリーダーシップをとってはいたが、屈しかけている人間を鼓舞するのは大変らしく、散々引っ掻きまわしたレイヴンに意見を求めたのだった。第三者かつ荒事慣れしている人物の意見を聞きたいと彼は言うが、むしろ明解すぎる選択肢に、レイヴンは彼等がなにを尻込みしているかが釈然としなかった。
「連中に目を付けられた時点で、あんた達が取れる選択肢は二つに一つだ。潔く明け渡すか、銃を取って戦うか。娘差し出して居残ったところでまた脅される、一度食い物に出来ると思われたら骨までしゃぶりつくされるぞ。それが嫌なら……、この土地で暮らし続けるなら盗賊共を追い出すか皆殺しにするしかない、魔女諸共な」
「簡単に言ってくれるな! あんたはよそ者だから、そう気軽に物が言えるだけだ。ボビーの話じゃ、余計な真似をしてくれたそうじゃないか。連中を怒らせた所為で、家族に何かあったらただじゃおかんぞ」
「あんた等の家族に不幸が起きるなら、手をこまねいていたあんた達にこそ責任がある。聞きたくないなら、ここにいるより家に帰って荷造りした方が良い。財産は失っても命は残る」
言うまでもなく殺人は違法であるし、盗賊達をまとめているのが龍使いの魔女ともなれば尻込みするのも無理からぬ事。しかし、保安官に頼れず、それでも家族や財産を守りたいのならば銃を取るべきだ。
弱肉強食の西部、彼等は大人しく喰われるか、それとも食い殺すかの選択を迫られていた。だがである。多大な時間と、汗と血をかけて開拓した土地を明け渡したい者など誰一人としておらず、その意思が彼等を一つにまとめ上げることになった。その結果、一夜明けたレイヴンは、ボビーや他の牧場主の馬車と共に、必要な物資を揃える為サウスポイントへ馬を走らせていた。
そして何故か付いてきたアイリスは、馬車の荷台に座っているほうが楽だというのに、普段通りシェルビーの馬上でレイヴンと二人乗りである。
しかし、どことなく様子がおかしいとレイヴンは感じていた。とはいえ話そうにも馬車が近くにいては迂闊に口に出来ない単語が混ざりかねないので、彼は、先行する、と一言告げてから馬車隊から距離を取った。
「意気込んで付いてきた割に静かだな」
「……少し考え事を」
沈んだ口調でアイリスは言う。やはりらしくないが思い当たる節はあった。
「ワイバーンを撃ち殺したこと気にしてるのか? しょうがねえだろ、同族のアイリスには悪いが他に方法がなかった」
「いえ、それほど気にしてません。あの状況では撃って正解です、わたしとクリスタルが止めても聞きませんでしたから。浅はかなワイバーンといえど、簡単に操られるなど同じ龍として恥ずかしいかぎりです」
「やけにドライだな」
「人間がいうところの小型龍と中型龍は、人と猿くらい違いがありますからね。なので、同列にされると正直かなり屈辱です。他のドラゴンには言っちゃダメですよ、食べられちゃいますから」
龍社会の一面を、龍――本人?――から聞ける機会は滅多にないだろうが、頷くレイヴンに対して、アイリスは、「そうじゃなくて」と話を戻した。
彼女はボビー率いる馬車隊を振り返る。
「本当にいいんです? レイヴンは?」
「遅かれ早かれだ、あのまま盗賊達が来るのを待ってた所で結果は変わらねえよ。準備してない分、そっちの方が悲惨かもだが」
だが彼女はまたも首を振った。
「口を挟むべきではない事だとわかっています、けど言わせてくださいレイヴン。こんなやり方であなたは本当に満足なんです?」
「…………なにが言いたい」
「それはあなたが一番分かっているはずです、わたしはレイヴンが好きです、だからこそ方法に疑問が……いえ、不満があります」
背中に感じるレイヴンからの剣呑な気配。しかしアイリスは敢えて続きを口にする、言わねばならないと思ったのだ、彼の行いは果たして正しいのか、と。
「レイヴンが件の魔女にどれほどの恨みを抱いていても、その復讐に無関係な彼等を巻き込むのはいかがなものでしょう」
「誰も無関係な奴なんていやねえよ。あいつらにしたって魔女に怯えるよりもいなくなった方が良いと願ってる。俺が気に入らねえのは他人任せで問題が片付くと思ってる性根だ、だから分かりやすくしてやったのさ」
「それだけです?」
「試そうとするな、ハッキリ言え」
孕んだ意味は「黙っていろ」だ。
だが口を噤んでしまっては、それこそ裏切りになってしまうのではないかと、アイリスは思う。人間にとっての正義と龍にとっての正義、種族の差があり認識の差は存在するが、こうして言葉を交わせる以上、個としての意見を伝えるべきだ。想い人が道を踏み外そうとしているのならば、寄り添うだけでなく止めてあげなければ。
馬車隊から離れたのは正解だった、二人の雰囲気は露骨にギスギスしていて、だだっぴろい荒野の空気でさえ澱ませているのだから。
アイリスは慎重に言葉を選ぶ。
「わたしには、クレイトンさんや他の牧場の方々を利用しているようにしか見えません。レイヴンは皆さんを囮として使っているんですよ、魔女への復讐を果たすためだけにに」
「それが何か問題か」
彼の返答には疑問がなく、無駄な質問に対する怒りさえ含まれていて、手段を問わず、他人の犠牲を厭わない無感情な行動が恐ろしいとアイリスは言った。
「家族を奪われたレイヴンの気持ちは分かります、けど皆さんにも家族はあるんですよ⁉ レイヴンの所為で死んでしまうかもしれないんです、なのに何とも思わないんですか!」
「行動に起こさなかった時点で半分死んでたようなもんだ。……それと、アイリス」
「な、なんです……?」
ひたり、アイリスは冷水を被ったような寒気に襲われる。龍からすれば人間など脆弱な生物に過ぎず、人間相手にそこまでの感覚を覚えた事の無かった彼女だが、レイヴンから向けられた殺意に近い気配には身の縮こまる思いだった。
人間は恐ろしい生き物だと言葉にはしていたが、その意味を彼女は初めて理解する。目的の為ならば犠牲を厭わない非情、レイヴンがこんなにも恐ろしい人物だとは。
「殺された仲間は俺にとっての全てだった、散々っぱら酷ぇ目にあって、やっと得た居場所、それを奪われたんだ。俺の気持ちが分かる? 笑わせるな、お前には分からねえよ。二度と口に――」
「わたしは黙りません。う、撃つならば撃ってください! けれどその前に教えて欲しいのです。他者を犠牲にして復讐を果たしたとして、あなたは満足なんです? 例え魔女を討ったとしても、レイヴンの家族が戻ってくるわけではないんですよ」
「…………」
復讐の果てに残るのは達成感か、虚無感か。いずれにせよ得るものはないと、レイヴンも判ってはいた。それでも魔女を探しているのは亡くした仲間への誓いを果たす為だ。
だが――
「……ねえレイヴン、忘れることは出来ないんですか? 苦しいと思います、辛いと思います。友達と別れただけで、わたしもすごく哀しいですから、レイヴンはもっと悲しいんでしょう。けれどですね? 復讐に追われている姿を家族が見たら悲しんじゃないですか? 他の道を探して欲しいと願うんじゃないです?」
「お前にあいつらの気持ちが分かるかよ」
「死者の気持ちは誰にも分かりませんよ、わたしにもレイヴンにも。レイヴンは心に空いた穴を復讐の一念で埋めているんじゃないですか?」
「……連中ならそう望む、絶対だ」
「だとしても確かめる術はないんです、死者の声は聞こえないんですから。だから、わたしは足を止めて、もう一度考えて貰いたいんです、レイヴン」
アイリスは振り返りレイヴンの眼をじっと見つめた。
その輝きが求める破滅を打ち払いたくて――
「だって、レイヴンは死ぬつもりじゃないですか」
「俺が? まさか!」
「お願いですレイヴン、自分を誤魔化さないでください。あなた程の実力者なら魔女と本気で闘って生き残ることが、どれだけ無謀か分かっているはずです。その無謀を振り払う為に他者を巻き添えにまでして、それであなたは満足なんですか。あなたは自らの復讐を成さんが為に、クレイトンさんのような良い人間まで生け贄に捧げようとしているんですよ」
となれば、レイヴンの行為は復讐をかたどった自決に過ぎず、ボビー達は勇気を奮う為の犠牲に終わる、つまりは無駄死にだ。
しかしアイリスは責めるでもなく、ただただ止めてほしいと繰り返した。
「牧場をやりたいって言ってましたよね? とても素敵な夢だと思います、その夢を求めるんじゃいけないんですか? 確かにですね、わたしはドラゴンで人間とはちがいますよ、でもですね、好きになった相手が去ってしまうのはやはり悲しいんです、レイヴン」
「…………家族を、仲間を忘れろってのか」
ふるふると、アイリスの金髪が揺れる。
「忘れるべきは怨嗟の念です。あなたの家族は、あなたが憶えてさえいれば、きっと報われます。死者の無念に殉ずるより、永らえる方が大変です。家族ならば尚更、あなたが幸せになることを望むんじゃないでしょうか」
「どうせ根無しの無法者だ、のたれ死のうが気にしねえさ」
「わたしがします。どのような形であれ、レイヴンと別れることになったら、きっと頬を濡らすでしょう。だから少しだけでも自分を大事にしてもいいと思います、崖から奈落を見下ろすよりも、果てしない空を臨んだ方がきっと楽しいですから」
生きる為に死ぬのか、死ぬ為に生きるのか。
レイヴンは答えない。
町が、見えてきていた。
交渉をといった意見もあったが、正直な話、立ち退いてもいいと諦めた牧場主よりも、これが一番馬鹿げている。交渉の余地などハナから存在していない。どの牧場も永らく嫌がらせを受けており、突き付けられた猶予も同じく一週間後に迫っていて頭を抱えるのも仕方のない話だ。どの牧場も家族経営で、争いになれば家族が巻き込まれる可能性があるため、誰も戦おうと言い出せずにいた。なんとかボビーがリーダーシップをとってはいたが、屈しかけている人間を鼓舞するのは大変らしく、散々引っ掻きまわしたレイヴンに意見を求めたのだった。第三者かつ荒事慣れしている人物の意見を聞きたいと彼は言うが、むしろ明解すぎる選択肢に、レイヴンは彼等がなにを尻込みしているかが釈然としなかった。
「連中に目を付けられた時点で、あんた達が取れる選択肢は二つに一つだ。潔く明け渡すか、銃を取って戦うか。娘差し出して居残ったところでまた脅される、一度食い物に出来ると思われたら骨までしゃぶりつくされるぞ。それが嫌なら……、この土地で暮らし続けるなら盗賊共を追い出すか皆殺しにするしかない、魔女諸共な」
「簡単に言ってくれるな! あんたはよそ者だから、そう気軽に物が言えるだけだ。ボビーの話じゃ、余計な真似をしてくれたそうじゃないか。連中を怒らせた所為で、家族に何かあったらただじゃおかんぞ」
「あんた等の家族に不幸が起きるなら、手をこまねいていたあんた達にこそ責任がある。聞きたくないなら、ここにいるより家に帰って荷造りした方が良い。財産は失っても命は残る」
言うまでもなく殺人は違法であるし、盗賊達をまとめているのが龍使いの魔女ともなれば尻込みするのも無理からぬ事。しかし、保安官に頼れず、それでも家族や財産を守りたいのならば銃を取るべきだ。
弱肉強食の西部、彼等は大人しく喰われるか、それとも食い殺すかの選択を迫られていた。だがである。多大な時間と、汗と血をかけて開拓した土地を明け渡したい者など誰一人としておらず、その意思が彼等を一つにまとめ上げることになった。その結果、一夜明けたレイヴンは、ボビーや他の牧場主の馬車と共に、必要な物資を揃える為サウスポイントへ馬を走らせていた。
そして何故か付いてきたアイリスは、馬車の荷台に座っているほうが楽だというのに、普段通りシェルビーの馬上でレイヴンと二人乗りである。
しかし、どことなく様子がおかしいとレイヴンは感じていた。とはいえ話そうにも馬車が近くにいては迂闊に口に出来ない単語が混ざりかねないので、彼は、先行する、と一言告げてから馬車隊から距離を取った。
「意気込んで付いてきた割に静かだな」
「……少し考え事を」
沈んだ口調でアイリスは言う。やはりらしくないが思い当たる節はあった。
「ワイバーンを撃ち殺したこと気にしてるのか? しょうがねえだろ、同族のアイリスには悪いが他に方法がなかった」
「いえ、それほど気にしてません。あの状況では撃って正解です、わたしとクリスタルが止めても聞きませんでしたから。浅はかなワイバーンといえど、簡単に操られるなど同じ龍として恥ずかしいかぎりです」
「やけにドライだな」
「人間がいうところの小型龍と中型龍は、人と猿くらい違いがありますからね。なので、同列にされると正直かなり屈辱です。他のドラゴンには言っちゃダメですよ、食べられちゃいますから」
龍社会の一面を、龍――本人?――から聞ける機会は滅多にないだろうが、頷くレイヴンに対して、アイリスは、「そうじゃなくて」と話を戻した。
彼女はボビー率いる馬車隊を振り返る。
「本当にいいんです? レイヴンは?」
「遅かれ早かれだ、あのまま盗賊達が来るのを待ってた所で結果は変わらねえよ。準備してない分、そっちの方が悲惨かもだが」
だが彼女はまたも首を振った。
「口を挟むべきではない事だとわかっています、けど言わせてくださいレイヴン。こんなやり方であなたは本当に満足なんです?」
「…………なにが言いたい」
「それはあなたが一番分かっているはずです、わたしはレイヴンが好きです、だからこそ方法に疑問が……いえ、不満があります」
背中に感じるレイヴンからの剣呑な気配。しかしアイリスは敢えて続きを口にする、言わねばならないと思ったのだ、彼の行いは果たして正しいのか、と。
「レイヴンが件の魔女にどれほどの恨みを抱いていても、その復讐に無関係な彼等を巻き込むのはいかがなものでしょう」
「誰も無関係な奴なんていやねえよ。あいつらにしたって魔女に怯えるよりもいなくなった方が良いと願ってる。俺が気に入らねえのは他人任せで問題が片付くと思ってる性根だ、だから分かりやすくしてやったのさ」
「それだけです?」
「試そうとするな、ハッキリ言え」
孕んだ意味は「黙っていろ」だ。
だが口を噤んでしまっては、それこそ裏切りになってしまうのではないかと、アイリスは思う。人間にとっての正義と龍にとっての正義、種族の差があり認識の差は存在するが、こうして言葉を交わせる以上、個としての意見を伝えるべきだ。想い人が道を踏み外そうとしているのならば、寄り添うだけでなく止めてあげなければ。
馬車隊から離れたのは正解だった、二人の雰囲気は露骨にギスギスしていて、だだっぴろい荒野の空気でさえ澱ませているのだから。
アイリスは慎重に言葉を選ぶ。
「わたしには、クレイトンさんや他の牧場の方々を利用しているようにしか見えません。レイヴンは皆さんを囮として使っているんですよ、魔女への復讐を果たすためだけにに」
「それが何か問題か」
彼の返答には疑問がなく、無駄な質問に対する怒りさえ含まれていて、手段を問わず、他人の犠牲を厭わない無感情な行動が恐ろしいとアイリスは言った。
「家族を奪われたレイヴンの気持ちは分かります、けど皆さんにも家族はあるんですよ⁉ レイヴンの所為で死んでしまうかもしれないんです、なのに何とも思わないんですか!」
「行動に起こさなかった時点で半分死んでたようなもんだ。……それと、アイリス」
「な、なんです……?」
ひたり、アイリスは冷水を被ったような寒気に襲われる。龍からすれば人間など脆弱な生物に過ぎず、人間相手にそこまでの感覚を覚えた事の無かった彼女だが、レイヴンから向けられた殺意に近い気配には身の縮こまる思いだった。
人間は恐ろしい生き物だと言葉にはしていたが、その意味を彼女は初めて理解する。目的の為ならば犠牲を厭わない非情、レイヴンがこんなにも恐ろしい人物だとは。
「殺された仲間は俺にとっての全てだった、散々っぱら酷ぇ目にあって、やっと得た居場所、それを奪われたんだ。俺の気持ちが分かる? 笑わせるな、お前には分からねえよ。二度と口に――」
「わたしは黙りません。う、撃つならば撃ってください! けれどその前に教えて欲しいのです。他者を犠牲にして復讐を果たしたとして、あなたは満足なんです? 例え魔女を討ったとしても、レイヴンの家族が戻ってくるわけではないんですよ」
「…………」
復讐の果てに残るのは達成感か、虚無感か。いずれにせよ得るものはないと、レイヴンも判ってはいた。それでも魔女を探しているのは亡くした仲間への誓いを果たす為だ。
だが――
「……ねえレイヴン、忘れることは出来ないんですか? 苦しいと思います、辛いと思います。友達と別れただけで、わたしもすごく哀しいですから、レイヴンはもっと悲しいんでしょう。けれどですね? 復讐に追われている姿を家族が見たら悲しんじゃないですか? 他の道を探して欲しいと願うんじゃないです?」
「お前にあいつらの気持ちが分かるかよ」
「死者の気持ちは誰にも分かりませんよ、わたしにもレイヴンにも。レイヴンは心に空いた穴を復讐の一念で埋めているんじゃないですか?」
「……連中ならそう望む、絶対だ」
「だとしても確かめる術はないんです、死者の声は聞こえないんですから。だから、わたしは足を止めて、もう一度考えて貰いたいんです、レイヴン」
アイリスは振り返りレイヴンの眼をじっと見つめた。
その輝きが求める破滅を打ち払いたくて――
「だって、レイヴンは死ぬつもりじゃないですか」
「俺が? まさか!」
「お願いですレイヴン、自分を誤魔化さないでください。あなた程の実力者なら魔女と本気で闘って生き残ることが、どれだけ無謀か分かっているはずです。その無謀を振り払う為に他者を巻き添えにまでして、それであなたは満足なんですか。あなたは自らの復讐を成さんが為に、クレイトンさんのような良い人間まで生け贄に捧げようとしているんですよ」
となれば、レイヴンの行為は復讐をかたどった自決に過ぎず、ボビー達は勇気を奮う為の犠牲に終わる、つまりは無駄死にだ。
しかしアイリスは責めるでもなく、ただただ止めてほしいと繰り返した。
「牧場をやりたいって言ってましたよね? とても素敵な夢だと思います、その夢を求めるんじゃいけないんですか? 確かにですね、わたしはドラゴンで人間とはちがいますよ、でもですね、好きになった相手が去ってしまうのはやはり悲しいんです、レイヴン」
「…………家族を、仲間を忘れろってのか」
ふるふると、アイリスの金髪が揺れる。
「忘れるべきは怨嗟の念です。あなたの家族は、あなたが憶えてさえいれば、きっと報われます。死者の無念に殉ずるより、永らえる方が大変です。家族ならば尚更、あなたが幸せになることを望むんじゃないでしょうか」
「どうせ根無しの無法者だ、のたれ死のうが気にしねえさ」
「わたしがします。どのような形であれ、レイヴンと別れることになったら、きっと頬を濡らすでしょう。だから少しだけでも自分を大事にしてもいいと思います、崖から奈落を見下ろすよりも、果てしない空を臨んだ方がきっと楽しいですから」
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