ワイルドウエスト・ドラゴンテイル ~拳銃遣いと龍少女~

空戸乃間

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第一話 拳銃遣いと龍少女

策略は蛇のように

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 傷口に巻き付けた布を赤く湿らせながら、盗賊は青息吐息でドゥラン・デラ・ノーチェまで辿り着いた。大人しく戻れば許されるとも限らないが、仮に逃げ出したとしても命が繋がるとは思えないのだ。

 龍を操るレイチェルから逃げ果せる術などありはしない。

 一介の女盗賊に過ぎなかった女が、魔女として目覚めた途端に暴れ散らし、女王気取りで君臨しはじめた彼女に嫌気がさして抜け出した仲間もいたが、今では荒くれ者が揃って屈服してしまっている。逃げ出した連中がワイバーンに喰われた翌日、龍の糞の中から遺品が見つかれば反抗心も削がれるというものだ。

 しかし、指を無くしたこの盗賊にはまだ希望の目があった。しくじりこそしたが、見逃されるだけの情報を得ていたのだから。

「あんた達三人とワイバーンを行かせたよなぁ、あたいは」
「それが一瞬の出来事でして、何故だか姉御の守りも発動しなくて……」

 ワイバーンを従え、教会の壇上に置いた長椅子から見下ろすレイチェルの前に跪き、盗賊はクレイトン牧場での一部始終を報告する。周りには仲間達もいるが、制裁の見物に来ているのが半分、話を聞きに来ているのが半分と、自分の命は自分で拾うしかない状況だ。非道な盗賊らしく、他人の不幸は蜜の味である。

「あたいが卑怯な憶病者だって?」
「必ず見つけ出して、殺してやると言ってやした」
「――それでおめおめ逃げ帰ってきたってのかい? あたいの可愛いワイバーンが殺されたってのに、仇討ちもせず?」
「……すいません。面目ねえです、姉御」

 悲しげに啼くワイバーンを宥めると、レイチェルが言う。紅の瞳に灯るのは圧搾された怒りの炎、盗賊は慎重にならざるおえず、直視さえ危険な気配だった。

「名前は、ヴァンクリフ?」
「レイヴン。レイヴン・ヴァン・クリーフと」
「クレイトンが雇った用心棒かい」
「そんな感じじゃあありませんでした、旅人でしょう。姉御を知っている風でした」
「数は?」

 一番訊かれたくない質問だった。なにしろ小型龍とガンマン三人が敗れた相手は――

「一人です……」
「一人⁉ ただのカウボーイが、あたいのワイバーンとガンマン二人を殺したってのかい」
「凄腕の早撃ちで。それに奴はただのガンマンじゃあなかった、あの銃は普通の拳銃とは訳が違ったんです。まるで……悪魔の銃だ、鉛弾じゃなく雷を撃ちだしたんでさ。姉御がくれた守りも利かずで、二人は身体が消し飛んだ」
「ちょいと待ちな」

 ついと指をふるって話を遮るレイチェルに浮かぶのは、一人の男。つい先日、オーロックスの町で女を攫いに行った部下の一人が、よそ者と思われるガンマンに殺されたばかりであり、逃走の準備をしていた部下が持ち帰った話に寄れば、そのよそ者は今回と同じく、加護を受けている部下から、銃弾の一発で肉体の一部を削ぎ落としていた。

 ……魔女に楯突く流れ者が数日の間に二度見つかるなど、偶然としては出来すぎている。

 しかしだ。魔法を貫く銃使いとなれば魔女の天敵となり得るが、悪魔に身を捧げたレイチェルの眼差しは、ぐにゃりと恍惚にひしゃげていた。

「近くに女はいなかったかい? 金髪の」

 魔女としての才を有している女は、雰囲気として不思議な気配を纏っているもので、魔力を感知できない男であっても、どことなく違和感を覚えるらしい。実際、その手の感覚に聡い部下に選ばせ攫わせてみれば、無自覚ながら魔女の才を持っている女が集まっていて、件の金髪女は、その中でもとびきりだったというのも、報告として伝わっていた。

「特には……、いや、いました! 癖毛の金髪女が」
「ふぅ~ん、そいつは朗報さね。同じ兎を二回見つけ出せるなんて幸運だ、そうは思わないかい? となると、男の方は黒髪だね?」
「その通りです。どうします、まだクレイトンの牧場にいるはずですが、襲いますか。平原のど真ん中だ、逃げたところで女も捕まえられると思いやすぜ」
「そう焦るんじゃないよ、フフフ」

 悪魔じみた哄笑、その裏にある考えよりも盗賊達が怖気を震うのは、彼女が手を伸ばした新鮮な肉である。まだ血の滴る一切れを嚥下すると、彼女は指先の朱を嘗め取った。

「女と魔銃、どっちも欲しいねぇ……。二つ揃えば、軍だろうがあたいに逆らえやしないさね、さぁてどうしたもんかねぇ……」
「何か考えが?」

 遠く離れている分、相手の行動を先読みする必要があった。宣戦布告までしてきた以上、牧場に留まっているとは考えにくい。だが、もし留まっているのなら闘う準備を進めるはずだ。そうなればクレイトン牧場の他、いくつかの牧場が加勢するだろうがしかし、人手は揃っても銃が無ければ闘えない、ならば揃えに町へ出向くか。

 レイチェルが望むのは女と魔銃だが、その二つを同時に手に入れようなどと彼女は考えていなかった。欲に目が眩み、先走れば必ずしくじる。馬鹿な男共と同じ轍を決して踏まずにきたからこそ、彼女は今の地位にいるのだ。

 慎重さに根ざした残虐性、これこそがレイチェルの本質である。

 魔銃使いは金髪女を連れている。女が恩を感じて付いてまわっているのか、男が連れ回しているかは定かではないが、行動を共にしているのならば情も湧いているだろう。
 ここが付け入る隙となり、好機は時間と共に遠ざかっていく。

 レイチェルは颯爽と立ち上がり、周囲の盗賊達に号令をかけた。

「お前達、仕事だよ!」

 まずは二人を引き離すところから。
 その為にはド派手に盛り上げてやらないといけない。
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