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第一話 拳銃遣いと龍少女

選択肢《ワースト・オブ・トゥ・オプション》Part.13

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 どさりと、土埃を起こして倒れ込む小型龍。

 絶命の残響が途絶えるとホルスターに銃を戻し、阿呆面さげて突っ立ている盗賊達の所へレイヴンは歩いて行く。彼等の表情はアルマジロがコヨーテを倒したかのような驚きに満ちていた、こうも容易く行われるジャイアント・キリングなど、すんなり飲み込めるものか、と。

 しかし、レイヴンにしてみれば、大きかろうが小さかろうが一つの命を奪っただけに過ぎず、その平静さは異常とも呼べるくらいだった。

「な、何者だ……てめぇは……」
「誰でもない、ただの通りすがりだ」

 龍を屠った直後でこの冷静さ、盗賊達は明らかな警戒を彼に向けていた。暴れ回った無法者の面構えだが、龍殺しを一人でやる人間とは初めて対面したらしい。敵に回して勝てるかどうか、そんな算段が顔に浮かんでいる。

「旅人か、それなら他所の土地の問題には関わらねえ方が利口ってのは承知だろ」
「一服付けさせて貰ってたんだが、騒がしかったんでね。……あんたらのペットか、あのワイバーンは。殺しちまって悪かったな、つぎはキチンと首輪を付けといてくれ」

 嘯くレイヴン。

 彼は戦々恐々としているボビーを値踏みするように周り、他人行儀に話しかけた。まぁ答えたのは盗賊の方だったが。

「なにか揉め事か、Mr.クレイトン」
「旅人さんよ、言ったろ? 他所者が首を突っ込むと痛い目を見るぜ」
「そうはいかない、まだ殺されちゃ困る。必要な話を聞いてないんだ。頑固だろ、このおっさんは。人を探してるんだが、何一つ教えてくれなくてね」

 剽げるが眼付きは冷たく、彼の集中力は盗賊達の動きを仔細捉えている。馬上の一人が銃を抜いているのが厄介だった。

「あんたらが代わりに教えてくれるなら歓迎だ、俺だってくだらない揉め事に関わるつもりはないからな」
「失せろ、殺される前に」

 聞く耳持たず、馬上の男が撃鉄を起こす。
 だがレイヴンは気にした素振りも見せずに話を続ける。背中を見せれば撃たれるのは明白、その死体を見せしめにしてボビーを脅すつもりだろう。ひっくり返すには相手の動揺が必要だった。

「聞きたいことを聞ければ退散するつもりだ、続きはご自由に。……女を探しているんだが、知らないかな。この辺りの土地の人間じゃない」
「女だと? 美人か」

 食い付いてきたが、笑ってはいけない。あくまでも冷静にレイヴンは続ける。両腰の拳銃は弾切れなので役に立たないし、この盗賊達が魔女の下僕ならばバックホルスターの魔銃が必要なるのだが、撃鉄を起こさせたのは失敗だった。

「まぁ、そうだな。美人だ、破滅的に」
「ほうぅ……そりゃ是非お目にかかりたいね」
「会えるさ、きっとな」

 不敵な笑みに不審を感じ、盗賊達の眉根がよる。もう一つ揺さぶっておきたい。

「彼女は魔女だ。黒髪に赤い瞳、そして龍を操る。……名前はレイチェル」
「――てめッ⁉」

 隙は一瞬だった。しかし、彼等の動揺の隙間を縫ったレイヴンの右手にはいつの間にか銃が握られていて、蛇の狡猾さで抜かれた魔銃は盗賊の眉間に狙いを定めている。

 銃口を見つめてから仰天したって遅い。だが、盗賊はすぐに平静を取り戻していた、撃たれない自信があるらしく、口元が歪に吊上がる。

「面白い話に聞こえたか」
「笑えるさ、お前は勝ったつもりでいる、銃を突き付けただけで。だが、残念なことを教えてやる、俺達に弾は――」
「当たらない。ああ、知ってるさ」

 ならば何故、レイヴンは落ち着いていられるのか。承知の上で銃を構えているくせに、当たると確信を持っているようで、盗賊達は奇妙に思っただろう。
 理由についてはレイヴン自らが語る。

「魔女の下僕だ、加護を受けてても不思議じゃねえ。だがな、鉛の弾は止まっても、それ以外ならどうかな」

 照準が馬上の盗賊へと指向

 魔銃はレイヴンから吸い上げた魔力をシリンダー内で固め、魔弾を形成している

 刻まれたエングレーブが不気味にうねった

 そして彼が鼻持ちならない額に銃爪を絞ると、撃鉄が魔弾のケツを蹴りつける

 火薬のそれよりも強烈な激発

 雷に似た光と銃声

 閃光が収まった時には馬上の男から頭がなくなっていた

 盗賊達の動揺。乗じたレイヴンは即座に目の前の盗賊を蹴倒して、もう一人の盗賊の腹部に風穴を開ける。あっという間の出来事に、ボビーは何が起きたか理解できずにいたが、それでいい、知らぬが吉という諺もあるくらいだから、転んだ盗賊の銃を抜く動作を察知して、彼の右手を銃ごと撃ち抜いた姿も忘れてもらって構わない。

 無くした二指を抑える盗賊、その青ざめた顔を見下ろすレイヴンからは、感情らしき気配が感じられない。無慈悲で冷酷な殺人者がそこにいた。

「その程度なら死にゃしねえよ」

 そしてレイヴンは盗賊を無理やり立たせてこう続けた。

「見逃してやる。代わりに飼い主に伝えろ」
「……もう伝わってるさ。姉御は龍使いの魔女だ、お前が龍を殺したことも知ってる。楯突いて生きていられると思うのか、ワイバーンの尻穴からひり出されることになるんだぜ」
「ワタリガラスが復讐に来たと。……繰り返せ」
「お前はお終いだ! 姉御が仲間引き連れてお前を殺しに来るぞ」
「繰り返せ」

 有無を言わさぬ恫喝に、盗賊が言葉を繰り返したのを確かめると、レイヴンは更に続ける。

「――盗賊従えて女王様気分だろうが、それもじきに終わる。粋がってようがお前は卑怯な憶病者だ、地の果てまで逃げようが必ず見つけ出して殺してやる。……レイヴン・ヴァン・クリーフ、今度は俺の番だ。覚えたか?」
「ああ、ああ、覚えた」
「じゃあ行け。…………待て、仲間引き連れてくるって言ったな?」

 背中から撃つまでも無く殺せたのだから、怯える必要は無いというのに恐る恐る振り返る盗賊。しかし「それがなんだ」と聞き返した彼は、足を止めたことを後悔する寒気に襲われた。

「望むところだ、みなごろしにしてやる」

 虚ろな笑みを刻むレイヴン、歪む口元に対して目は微動だにせず、まるで死を見つめているかのような双眸に、盗賊は慌てて逃げ出したのだった。

 彼が行ったのは明らかな宣戦布告である。魔女への敵対意思をこうもあからさまに、しかも自分の土地で表明されたボビーは、とばっちりもいいところだ。万に一つもあった平和的打開策は完全に潰えたと考えて良いだろう。

「……なんて、ことをしてくれたんだ」
「俺は俺がすべきことをしてる、指図はうけない」
「これでレイチェルは牧場を襲うようになる、どう責任をとるつもりなんだ」
「責任のありかより解決策を練る方がいいなボビー。またお客さんだ、今度はあんたの友達だといいがね」

 続々と馬車が集まってくる。それは近隣に暮らしている牧場主達の馬車だった。
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