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第一話 拳銃遣いと龍少女
選択肢《ワースト・オブ・トゥ・オプション》Part.7
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そして柵を直しているレイヴンとボビーの元へやってきたアイリスの第一声は、それこそ歯に衣着せぬ物言いであって、不意打ちで家庭の急所を突かれたボビーは一気に青ざめてしまう始末。身内に魔女がいるなんて、ある種最悪の事実を暴露されたのだから、ハンマーで自分の手を打ってしまうのは仕方のないことであった。
初っぱなの一言でぶん殴ったアイリスは感情の勢いそのままに、魔女について深い誤解を抱いている彼に対して、あーだこーだと捲し立てるが、立ち話では気が収まらなかったのか、なんとその夜に開かれた家族会議の場にまで居座ったのである。
嵐のような女だとボビーは言ったが彼はその認識を改めたことであろう、なにしろ身を以て体感したのだから。
アイリスは嵐のような存在ではなく、嵐を起こす存在なのだと。
とはいえである。いくら嵐が大木をなぎ倒しつつ自ら近づいてきたとしても、巻き込まれたくなければ穴蔵にでも隠れればいい訳であって、すでに必要な情報を得ているならば、他人の撒いた種を刈り取るために危険極まる風雨に身を晒す必要も無いのだ。
魔女の尊厳云々は完全にレイヴンには無関係、ならば言い出したアイリスに徹頭徹尾任せると言い残して、彼は一夜のねぐらとして与えられた小屋に早々に引っ込んで、夜空に紫煙を登られていた。
哀しいかな、牧場の夕餉ともなれば豪勢な物になるはずが、彼の胃袋を満たしたのは昨日と同じくカウボーイの保存食であり、さらに悪いことにこの一夜の宿ですら、アイリスの首尾いかんで――九分九厘――取り上げられることだろうから、寝床の準備さえままならず、そうなればやはりコーヒー片手に柵にでも寄り掛かって、煙草を吹かすのが関の山なのであった。
そしてもう一つ面倒な点をあげると、まだ幼いという理由で家族会議から閉め出されたジョンの相手を、何故だかしなければならいということだ。彼もまた不満を抱えたままでレイヴンの傍から離れようとせず、ひたすら同じ話ばかりを繰り返していた。
「ねえ、おねがいだよ。僕にもてっぽうの撃ち方おしえておくれよ」
「いつまで言ってんだ、しつけえな。その話はもう終わったろうが」
答えはNo、と言ってやってもこの二文字の音だけが耳に入らないらしく、ジョンは駄々をこね続けていた。ガンベルトと木彫りの拳銃で用意を固めた少年は、執拗にレイヴンの服や腕をひっぱってみたものの、半分埋まった岩の如く動かない彼に、体力的な戦い方を諦めて騒ぎ立てる方策に変えたようで、その結果が日暮れから続く「おねがい」攻撃であった。
おかげでレイヴンはかれこれ二時間ほど、延々と繰り返される同じ台詞を聞き続ける羽目になっていたが、ジョンが眠たげに大口を開けたところで反撃に出る。いい加減そろそろ追い返したいのが本音だ。
「もう帰って寝ろ、ガキはベッドに入る時間だぞ」
「やだ、にいちゃんが教えてくれるって言うまで帰らないかんね」
徹底した持久戦の構えでジョンは地べたに座り込んだ。寒かろうが眠かろうが、動かないと瞼を擦っているものの、子供の体力ではとっくに限界を超えているらしく、傾ぐままに首を落とすのも時間の問題だ。
「ねえ、にいちゃんはつよいんだろ?」
「……多分な」
「どうやって憶えたの銃の撃ち方。それくらいならいいだろ、おしえてくれても」
口で伝える分にはいいだろう、面倒なのはあれこれと指導する事だ。
「自分で勝手に覚えた」
「早撃ちも?」
「そうだ。必要になった時にはできてた。じゃなきゃ死んでる」
狩りや正確な射撃については育ててもらったインディアンから教わりこそしたが、早撃ちに関してはレイヴンが勝手に覚えたことだった。いつか必要になる、餓鬼の時分によぎったそんな予感から常に銃を提げるようになり、誰に強制されるでもなく、人知れず銃を抜く練習をしていた。
そこに目的などは存在しない。ただ必要と感じたから身に付けたまでのことで、むしろそういった環境になかったジョンは幸せとも言えるだろう。なにしろ銃を使えなくても、まだ生きていられるのだから。
これから先は、徐々に銃の出番は減っていく時代になる筈だ。平和になるとは言わない、それは歴史が証明済みだからだ。道具は変わっても人間は結局戦うことを止められないでいる、新たな敵を探し、違う人種を殺し、思想の違いから民族を根絶やしにする。アイリスが人間こそ化物だと貶むのも納得な歴史だ。
しかしそれでも、である。百ある銃が一や五に減りはするかもしれない。そうして武器が減った時、子供の手に無い方がよっぽど世界は平和だろう。
もしかしたら今がその時代の先端なのかもしれない、そう考えると子供に銃の扱いを教えるのは些か躊躇われるというものだ。確かに、正しい知識があれば昼間に起きた危険な事態も避けられる可能性はある。他人の背後で迂闊に銃を弄ってはいけない、そこは有効だと認めよう。しかし、知識は同時に危険も呼び込むのだ、使い方を知っているが故に命を落とした事態の方が、レイヴンは多く目にしてきている。
見知らぬ子供の命の責まで背負えるものか。そう彼が思っていても、憧れを抱く少年は慎重に尋ねるのだった。つまり、命に関わる質問を。
「レイヴンは……人を撃ったことあるんだよね?」
「…………ああ、ある」
「何人殺したの?」
弱肉強食の世界にあって未だ生き存えているというのはつまり、相応の修羅場をくぐり抜けていると容易に想像出来、そうなれば強さの証明たる『数』を聞きたがるのは、不思議な事ではない。大の大人であれ、これまで何人殺してきたと自慢するくらいなのだから。
「さぁ、忘れたな。一々数えちゃいねえよ」
「すっげぇ……やっぱり強いんだ、にいちゃん!」
人殺しの腕を褒められる、しかも子供に。
これほど複雑な気持ちがあるだろうか。
「……そんなに覚えたいなら親父に教えて貰えばいいだろ。銃くらい撃てるはずだ」
「ううん、パパは教えてくれないんだ、まだ危ないって。ライフルは持たせてもらえるけど、撃ったことはないもん」
「なんでそこまでして覚えたい。牧場守りたいのか? 立派だが腕利きのカウボーイを雇った方が確実だぞ。金で働く連中はごまんといる、お前が覚えるべきは銃の扱いより、牛の追い方だと俺は思うがね」
牧場の経営は大変だ。覚えることなど山ほどあるが、しかし、それだけじゃダメなんだと、ジョンは顔を伏せた。
「……妹の、クリスタルのこと知ってるだろ? 魔女だって」
「ああ、聞いた。それが?」
だからと言ってレイヴンには大した興味もなければ、脅威でもないので、無味乾燥とした返事が返るだけ。
ジョンは小さく鼻を啜って、過ぎ去った非を語る。
「クリスタルが魔女になったの、僕のせいなんだ。パパが町に行ってる時に遊んでたらコヨーテに襲われて……、たくさん血が出たんだ。死ぬって思った。けど、その時にクリスタルが治してくれたんだ、魔女になって。パパに牧場の外に出るなって言われてたのに……」
「どうあれ生きてるんだ、それでいいじゃねえか」
「よくないよ! それからクリスタルは町にも遊びに行けなくなったんだ、話しかけても気味悪がられて相手にしてもらえない、僕のせいで……!」
それでも、ジョンは頬を濡らさず決意も固く顔を上げた。家族を想う目だけは親子揃ってよく似ている。
「僕はさ、レイヴン。お兄ちゃんなんだ、だから妹を守ってあげたいんだよ。魔女でもなんでも関係ない、大事な妹だから。――だから」
「銃は教えねえ。諦めろ」
「なんでだよ、分からず屋!」
ついにジョンは怒鳴った。
しかし、それで折れるなら最初から受けている。子供の命とは親が責任を持つべき物で、理由や覚悟がどうであれ、流れ者が勝手に決めていい話ではない。そして――
「甘えんな。本気で守ってやりたいなら、弾盗んででも練習すればいい。そうしないってのは、所詮口だけの覚悟ってこったろうが。都合良くチャンスが巡ってくるの待ってて、上手く行くほど人生甘くねえぞ」
「ちがうよ! ぼくは本気だ! 妹を傷つける奴はゆるさない! 絶対に守ってやるんだ、相手を殺してでも!」
「馬鹿ガキが、簡単に殺せるもんかよ」
のそり、殺気を込めてレイヴンが身動いだが、ジョンは逃げ出すことも出来なかった。彼の冷たい墓石のような視線は、まさしく銃の狙いを定める時の冷酷さで、ジョンの名前を墓石に刻んでいた。
「口で言うのは簡単だ、誰にでも出来る。だが分かってねえな。誰かにそう言った瞬間に、お前は殺されても文句は言えねえんだぞ。後ろから撃たれようが、頭の中身ぶちまけようが死んで当然なのさ。それに、殺すより殺さない方が難しい、一度銃を握ったらな。そして殺した後の方が面倒だ、殺す前よりな。一人殺してみろ、その身内がお前と妹を殺しに来るぞ。そいつらも全員殺す覚悟があるのか」
復讐の渦は巻き込まれれば脱出不可能。現にレイヴンもドツボにすっかり嵌ってしまっているのだ。それでもジョンは「……ある」と静かに首肯したのだった。
「いいだろう、じゃあ教えてやるよ」
「ほ、本当⁉」
表情を一気に華やがせ、ジョンは言ったが気が早い。
「ただし親父の許可を取ってこい、これが条件だ。覚悟があるなら説得なんて簡単だろ?」
「わかった! 約束だからね、にいちゃん!」
ジョンはすぐさま立ち上がると、許可をもらいに走っていった。思い立ったら即行動とは、決断力は逞しい。
「怪我しようが死のうが責任は取らねえからそのつもりでな!」
「ちゃんと気を付けるよ、ありがとう、にいちゃん! それじゃあ、明日ね!」
既に勝ちを確信したかのような口ぶりで、ジョンは母屋に駆け込んでいった。家族会議の議題が増えたとなれば、両親はさぞ重たい頭痛に悩まされるだろうが、他所の家族の悩みなどレイヴンのしったことではなく、これから母屋で始まる論争を思い浮かべながら新しい煙草に火を点けた。
初っぱなの一言でぶん殴ったアイリスは感情の勢いそのままに、魔女について深い誤解を抱いている彼に対して、あーだこーだと捲し立てるが、立ち話では気が収まらなかったのか、なんとその夜に開かれた家族会議の場にまで居座ったのである。
嵐のような女だとボビーは言ったが彼はその認識を改めたことであろう、なにしろ身を以て体感したのだから。
アイリスは嵐のような存在ではなく、嵐を起こす存在なのだと。
とはいえである。いくら嵐が大木をなぎ倒しつつ自ら近づいてきたとしても、巻き込まれたくなければ穴蔵にでも隠れればいい訳であって、すでに必要な情報を得ているならば、他人の撒いた種を刈り取るために危険極まる風雨に身を晒す必要も無いのだ。
魔女の尊厳云々は完全にレイヴンには無関係、ならば言い出したアイリスに徹頭徹尾任せると言い残して、彼は一夜のねぐらとして与えられた小屋に早々に引っ込んで、夜空に紫煙を登られていた。
哀しいかな、牧場の夕餉ともなれば豪勢な物になるはずが、彼の胃袋を満たしたのは昨日と同じくカウボーイの保存食であり、さらに悪いことにこの一夜の宿ですら、アイリスの首尾いかんで――九分九厘――取り上げられることだろうから、寝床の準備さえままならず、そうなればやはりコーヒー片手に柵にでも寄り掛かって、煙草を吹かすのが関の山なのであった。
そしてもう一つ面倒な点をあげると、まだ幼いという理由で家族会議から閉め出されたジョンの相手を、何故だかしなければならいということだ。彼もまた不満を抱えたままでレイヴンの傍から離れようとせず、ひたすら同じ話ばかりを繰り返していた。
「ねえ、おねがいだよ。僕にもてっぽうの撃ち方おしえておくれよ」
「いつまで言ってんだ、しつけえな。その話はもう終わったろうが」
答えはNo、と言ってやってもこの二文字の音だけが耳に入らないらしく、ジョンは駄々をこね続けていた。ガンベルトと木彫りの拳銃で用意を固めた少年は、執拗にレイヴンの服や腕をひっぱってみたものの、半分埋まった岩の如く動かない彼に、体力的な戦い方を諦めて騒ぎ立てる方策に変えたようで、その結果が日暮れから続く「おねがい」攻撃であった。
おかげでレイヴンはかれこれ二時間ほど、延々と繰り返される同じ台詞を聞き続ける羽目になっていたが、ジョンが眠たげに大口を開けたところで反撃に出る。いい加減そろそろ追い返したいのが本音だ。
「もう帰って寝ろ、ガキはベッドに入る時間だぞ」
「やだ、にいちゃんが教えてくれるって言うまで帰らないかんね」
徹底した持久戦の構えでジョンは地べたに座り込んだ。寒かろうが眠かろうが、動かないと瞼を擦っているものの、子供の体力ではとっくに限界を超えているらしく、傾ぐままに首を落とすのも時間の問題だ。
「ねえ、にいちゃんはつよいんだろ?」
「……多分な」
「どうやって憶えたの銃の撃ち方。それくらいならいいだろ、おしえてくれても」
口で伝える分にはいいだろう、面倒なのはあれこれと指導する事だ。
「自分で勝手に覚えた」
「早撃ちも?」
「そうだ。必要になった時にはできてた。じゃなきゃ死んでる」
狩りや正確な射撃については育ててもらったインディアンから教わりこそしたが、早撃ちに関してはレイヴンが勝手に覚えたことだった。いつか必要になる、餓鬼の時分によぎったそんな予感から常に銃を提げるようになり、誰に強制されるでもなく、人知れず銃を抜く練習をしていた。
そこに目的などは存在しない。ただ必要と感じたから身に付けたまでのことで、むしろそういった環境になかったジョンは幸せとも言えるだろう。なにしろ銃を使えなくても、まだ生きていられるのだから。
これから先は、徐々に銃の出番は減っていく時代になる筈だ。平和になるとは言わない、それは歴史が証明済みだからだ。道具は変わっても人間は結局戦うことを止められないでいる、新たな敵を探し、違う人種を殺し、思想の違いから民族を根絶やしにする。アイリスが人間こそ化物だと貶むのも納得な歴史だ。
しかしそれでも、である。百ある銃が一や五に減りはするかもしれない。そうして武器が減った時、子供の手に無い方がよっぽど世界は平和だろう。
もしかしたら今がその時代の先端なのかもしれない、そう考えると子供に銃の扱いを教えるのは些か躊躇われるというものだ。確かに、正しい知識があれば昼間に起きた危険な事態も避けられる可能性はある。他人の背後で迂闊に銃を弄ってはいけない、そこは有効だと認めよう。しかし、知識は同時に危険も呼び込むのだ、使い方を知っているが故に命を落とした事態の方が、レイヴンは多く目にしてきている。
見知らぬ子供の命の責まで背負えるものか。そう彼が思っていても、憧れを抱く少年は慎重に尋ねるのだった。つまり、命に関わる質問を。
「レイヴンは……人を撃ったことあるんだよね?」
「…………ああ、ある」
「何人殺したの?」
弱肉強食の世界にあって未だ生き存えているというのはつまり、相応の修羅場をくぐり抜けていると容易に想像出来、そうなれば強さの証明たる『数』を聞きたがるのは、不思議な事ではない。大の大人であれ、これまで何人殺してきたと自慢するくらいなのだから。
「さぁ、忘れたな。一々数えちゃいねえよ」
「すっげぇ……やっぱり強いんだ、にいちゃん!」
人殺しの腕を褒められる、しかも子供に。
これほど複雑な気持ちがあるだろうか。
「……そんなに覚えたいなら親父に教えて貰えばいいだろ。銃くらい撃てるはずだ」
「ううん、パパは教えてくれないんだ、まだ危ないって。ライフルは持たせてもらえるけど、撃ったことはないもん」
「なんでそこまでして覚えたい。牧場守りたいのか? 立派だが腕利きのカウボーイを雇った方が確実だぞ。金で働く連中はごまんといる、お前が覚えるべきは銃の扱いより、牛の追い方だと俺は思うがね」
牧場の経営は大変だ。覚えることなど山ほどあるが、しかし、それだけじゃダメなんだと、ジョンは顔を伏せた。
「……妹の、クリスタルのこと知ってるだろ? 魔女だって」
「ああ、聞いた。それが?」
だからと言ってレイヴンには大した興味もなければ、脅威でもないので、無味乾燥とした返事が返るだけ。
ジョンは小さく鼻を啜って、過ぎ去った非を語る。
「クリスタルが魔女になったの、僕のせいなんだ。パパが町に行ってる時に遊んでたらコヨーテに襲われて……、たくさん血が出たんだ。死ぬって思った。けど、その時にクリスタルが治してくれたんだ、魔女になって。パパに牧場の外に出るなって言われてたのに……」
「どうあれ生きてるんだ、それでいいじゃねえか」
「よくないよ! それからクリスタルは町にも遊びに行けなくなったんだ、話しかけても気味悪がられて相手にしてもらえない、僕のせいで……!」
それでも、ジョンは頬を濡らさず決意も固く顔を上げた。家族を想う目だけは親子揃ってよく似ている。
「僕はさ、レイヴン。お兄ちゃんなんだ、だから妹を守ってあげたいんだよ。魔女でもなんでも関係ない、大事な妹だから。――だから」
「銃は教えねえ。諦めろ」
「なんでだよ、分からず屋!」
ついにジョンは怒鳴った。
しかし、それで折れるなら最初から受けている。子供の命とは親が責任を持つべき物で、理由や覚悟がどうであれ、流れ者が勝手に決めていい話ではない。そして――
「甘えんな。本気で守ってやりたいなら、弾盗んででも練習すればいい。そうしないってのは、所詮口だけの覚悟ってこったろうが。都合良くチャンスが巡ってくるの待ってて、上手く行くほど人生甘くねえぞ」
「ちがうよ! ぼくは本気だ! 妹を傷つける奴はゆるさない! 絶対に守ってやるんだ、相手を殺してでも!」
「馬鹿ガキが、簡単に殺せるもんかよ」
のそり、殺気を込めてレイヴンが身動いだが、ジョンは逃げ出すことも出来なかった。彼の冷たい墓石のような視線は、まさしく銃の狙いを定める時の冷酷さで、ジョンの名前を墓石に刻んでいた。
「口で言うのは簡単だ、誰にでも出来る。だが分かってねえな。誰かにそう言った瞬間に、お前は殺されても文句は言えねえんだぞ。後ろから撃たれようが、頭の中身ぶちまけようが死んで当然なのさ。それに、殺すより殺さない方が難しい、一度銃を握ったらな。そして殺した後の方が面倒だ、殺す前よりな。一人殺してみろ、その身内がお前と妹を殺しに来るぞ。そいつらも全員殺す覚悟があるのか」
復讐の渦は巻き込まれれば脱出不可能。現にレイヴンもドツボにすっかり嵌ってしまっているのだ。それでもジョンは「……ある」と静かに首肯したのだった。
「いいだろう、じゃあ教えてやるよ」
「ほ、本当⁉」
表情を一気に華やがせ、ジョンは言ったが気が早い。
「ただし親父の許可を取ってこい、これが条件だ。覚悟があるなら説得なんて簡単だろ?」
「わかった! 約束だからね、にいちゃん!」
ジョンはすぐさま立ち上がると、許可をもらいに走っていった。思い立ったら即行動とは、決断力は逞しい。
「怪我しようが死のうが責任は取らねえからそのつもりでな!」
「ちゃんと気を付けるよ、ありがとう、にいちゃん! それじゃあ、明日ね!」
既に勝ちを確信したかのような口ぶりで、ジョンは母屋に駆け込んでいった。家族会議の議題が増えたとなれば、両親はさぞ重たい頭痛に悩まされるだろうが、他所の家族の悩みなどレイヴンのしったことではなく、これから母屋で始まる論争を思い浮かべながら新しい煙草に火を点けた。
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