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第一話 拳銃遣いと龍少女
選択肢《ワースト・オブ・トゥ・オプション》Part.5
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「嵐のような娘さんだな、あの子は」
「振り回されっぱなしだ」
むしろ嵐を起こして、その中を飛び回りそうな女だが、敢えてそこまで言う必要ない。レイヴンがようやく椅子に座ると、朗らかであった室内が一気に引き締まる。おふざけはもう不要だ。
「そろそろ教えてくれ、魔女についての情報を。居場所、名前、特徴、なんでもいい」
「……会うつもりなんだろうが、やめておいた方が良いぞ」
「それはこっちで判断するさ、何が起きてもあんたを恨んだりはしねえよ。どこにいる?」
気遣い無用と語る瞳で、レイヴンは淡々と言う。アーチでの言葉、そしてアイリスへの態度から、ボビーが魔女についてなにかしら知っている事は明らかだった。
「……居場所は知らん」
「それ以外は?」
「長い黒髪、赤い瞳……名前はレイチェル。龍使いのレイチェルだ」
ボビーは顔を伏せながら、忌々しいその姿を思い出していたが、レイヴンにとっては幸いだった。もしも彼が、強靱な精神で魔女の姿を告げていたら、見られていただろうから。
――レイヴンの、怨嗟の歓喜に震えたその笑みを
誰もいなかったのならば、彼は全身を駆け抜けた喜びに打ち震え、復讐の咆哮を上げていただろう。長き旅路に捉えた怨敵に、自らの存在を誇示する為に。
龍を駆り、黒髪を靡かせた赤目の魔女。
友を、仲間を、家族を殺した、殺すべき相手。
満願成就の時は近い、これが笑わずにいられるだろうか。
しかし、そんなレイヴンに向けてボビーは再び言うのだった。
「だが、やはり会うのはやめておいた方がいい」
「……そいつは無理な相談だな」
努めて冷静に、レイヴンは答える。居場所さえ分かれば、このまま馬に跨がって首をかっきりに行くところだ。
しかし、ボビーは行くなと止める、殺されてしまうと。
「話を聞け。レイチェルは魔女だが一人ではない。盗賊団を率いて一帯を荒らし回っているんだ。いくらあんたが凄腕のガンマンでも、取り巻きの盗賊共に殺されちまうよ」
「待てよ、魔女が盗賊を率いてるって?」
レイヴンが知りたかったのは盗賊達についてだったが、家長故、誰にも漏らせぬ問題だったのか、ボビーは悔しそうに溢し始め、彼の積年の思いには自分の怒りも冷まさざるおえない。同じ魔女に苦しめられている者同士となれば、尚更。
「ああ、そうだ……連中はいきなりやってきて、旅人を襲い、牧場の人間に土地を明け渡せと言ってきているんだぞ。ここだけじゃない、近隣の牧場も嫌がらせを受けてる。この牧場は、俺の家族が大きくしてきたんだ、それを奪おうってんだぞ」
壊された柵や、建物の所々に弾痕があった為、レイヴンも何かあるとは思っていたが、その元凶が魔女によるもだとは考えてはいなかった。盗賊なんてのは食いっぱぐれたカウボーイが主だったりするので、牧場を狙っているのはつまり、自分達で商売を興そうという腹なのかもしれない。あくまでも自主的に・・・・立ち退かせるのは、保安官に譲り受けたとでも主張する為だろうか。
この牧場が陰気な気配に包まれているのも納得だ。楽しい平和な牧場に、イナゴのようにたかる魔女が蠅を引き連れてやって来れば、笑顔も絶える。
「断ったのか」
「当たり前だ。そしたら連中、なんと言ったと思う? 牧場を続けたければ、娘を差し出せとさ。とことんふざけた連中だ、娘と牧場なんて秤にかけられるはずがない」
「ならどうする、出て行くのか? 見たところ雇ってるカウボーイもいないみたいだが」
「最初に襲われた時に小競り合いが起きて、銃撃戦になったんだ。そのあと、みんな逃げちまったよ、弾が当たらねえんだとさ。魔女の加護があるとかなんとか、連中は言ってた。……保安官に頼んだところで町から一日かかる、それに魔女相手じゃ頼りにならん。なによりこの土地は俺達家族の土地だ、俺が守る。娘もだ、渡してたまるか」
己が無力を知りながら、その眼に燃えるは決意の炎。力強く真っ直ぐで、愛に満ちた男の覚悟をどうやって笑えというのか。
レイチェルと呼ばれる龍使いの魔女、こいつとは決着を付けなければならないのだ。そのついでに、ボビーの願いを叶えてやるのも悪くない。まるで自分とは異なる世界の、それでも懐かしさを憶えるボビーの姿に、レイヴンは口角を僅かに上げてやる。
「ああ……すまんな、あんたには関係のない話を延々と」
「いいさ。なら、尚更会いに行かねえとな」
「……話を聞いていなかったのか? 止めるんだ。勝手に身の上話しておいて悪いが、これは家族の問題だ、首を突っ込まないでくれ」
「こっちも家族の問題でね。まっ、相互利益の為ととってくれりゃいいさ」
そしてレイヴンは、すっかり冷めてしまったコーヒーを流し込んでから席を立った。濃いめ一杯だが、徹夜明けの頭にはまだ少し温い。
「何処に行くんだレイヴン」
「泊めてくれるからには晩飯も付くんだろ? 一宿一飯の先払いだ、まだ陽は高い。柵を直すの手伝うよ」
「振り回されっぱなしだ」
むしろ嵐を起こして、その中を飛び回りそうな女だが、敢えてそこまで言う必要ない。レイヴンがようやく椅子に座ると、朗らかであった室内が一気に引き締まる。おふざけはもう不要だ。
「そろそろ教えてくれ、魔女についての情報を。居場所、名前、特徴、なんでもいい」
「……会うつもりなんだろうが、やめておいた方が良いぞ」
「それはこっちで判断するさ、何が起きてもあんたを恨んだりはしねえよ。どこにいる?」
気遣い無用と語る瞳で、レイヴンは淡々と言う。アーチでの言葉、そしてアイリスへの態度から、ボビーが魔女についてなにかしら知っている事は明らかだった。
「……居場所は知らん」
「それ以外は?」
「長い黒髪、赤い瞳……名前はレイチェル。龍使いのレイチェルだ」
ボビーは顔を伏せながら、忌々しいその姿を思い出していたが、レイヴンにとっては幸いだった。もしも彼が、強靱な精神で魔女の姿を告げていたら、見られていただろうから。
――レイヴンの、怨嗟の歓喜に震えたその笑みを
誰もいなかったのならば、彼は全身を駆け抜けた喜びに打ち震え、復讐の咆哮を上げていただろう。長き旅路に捉えた怨敵に、自らの存在を誇示する為に。
龍を駆り、黒髪を靡かせた赤目の魔女。
友を、仲間を、家族を殺した、殺すべき相手。
満願成就の時は近い、これが笑わずにいられるだろうか。
しかし、そんなレイヴンに向けてボビーは再び言うのだった。
「だが、やはり会うのはやめておいた方がいい」
「……そいつは無理な相談だな」
努めて冷静に、レイヴンは答える。居場所さえ分かれば、このまま馬に跨がって首をかっきりに行くところだ。
しかし、ボビーは行くなと止める、殺されてしまうと。
「話を聞け。レイチェルは魔女だが一人ではない。盗賊団を率いて一帯を荒らし回っているんだ。いくらあんたが凄腕のガンマンでも、取り巻きの盗賊共に殺されちまうよ」
「待てよ、魔女が盗賊を率いてるって?」
レイヴンが知りたかったのは盗賊達についてだったが、家長故、誰にも漏らせぬ問題だったのか、ボビーは悔しそうに溢し始め、彼の積年の思いには自分の怒りも冷まさざるおえない。同じ魔女に苦しめられている者同士となれば、尚更。
「ああ、そうだ……連中はいきなりやってきて、旅人を襲い、牧場の人間に土地を明け渡せと言ってきているんだぞ。ここだけじゃない、近隣の牧場も嫌がらせを受けてる。この牧場は、俺の家族が大きくしてきたんだ、それを奪おうってんだぞ」
壊された柵や、建物の所々に弾痕があった為、レイヴンも何かあるとは思っていたが、その元凶が魔女によるもだとは考えてはいなかった。盗賊なんてのは食いっぱぐれたカウボーイが主だったりするので、牧場を狙っているのはつまり、自分達で商売を興そうという腹なのかもしれない。あくまでも自主的に・・・・立ち退かせるのは、保安官に譲り受けたとでも主張する為だろうか。
この牧場が陰気な気配に包まれているのも納得だ。楽しい平和な牧場に、イナゴのようにたかる魔女が蠅を引き連れてやって来れば、笑顔も絶える。
「断ったのか」
「当たり前だ。そしたら連中、なんと言ったと思う? 牧場を続けたければ、娘を差し出せとさ。とことんふざけた連中だ、娘と牧場なんて秤にかけられるはずがない」
「ならどうする、出て行くのか? 見たところ雇ってるカウボーイもいないみたいだが」
「最初に襲われた時に小競り合いが起きて、銃撃戦になったんだ。そのあと、みんな逃げちまったよ、弾が当たらねえんだとさ。魔女の加護があるとかなんとか、連中は言ってた。……保安官に頼んだところで町から一日かかる、それに魔女相手じゃ頼りにならん。なによりこの土地は俺達家族の土地だ、俺が守る。娘もだ、渡してたまるか」
己が無力を知りながら、その眼に燃えるは決意の炎。力強く真っ直ぐで、愛に満ちた男の覚悟をどうやって笑えというのか。
レイチェルと呼ばれる龍使いの魔女、こいつとは決着を付けなければならないのだ。そのついでに、ボビーの願いを叶えてやるのも悪くない。まるで自分とは異なる世界の、それでも懐かしさを憶えるボビーの姿に、レイヴンは口角を僅かに上げてやる。
「ああ……すまんな、あんたには関係のない話を延々と」
「いいさ。なら、尚更会いに行かねえとな」
「……話を聞いていなかったのか? 止めるんだ。勝手に身の上話しておいて悪いが、これは家族の問題だ、首を突っ込まないでくれ」
「こっちも家族の問題でね。まっ、相互利益の為ととってくれりゃいいさ」
そしてレイヴンは、すっかり冷めてしまったコーヒーを流し込んでから席を立った。濃いめ一杯だが、徹夜明けの頭にはまだ少し温い。
「何処に行くんだレイヴン」
「泊めてくれるからには晩飯も付くんだろ? 一宿一飯の先払いだ、まだ陽は高い。柵を直すの手伝うよ」
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